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 平成21年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/1 

第1節 再犯防止施策の現状

1 受刑者・保護観察対象者の問題性に応じた処遇の充実

(1)刑事施設における特別改善指導

 平成18年5月の受刑者処遇法(刑事収容施設法)の施行後,刑事施設においては,受刑者に対し,犯罪の責任を自覚させ,健康な心身を培わせ,並びに社会生活に適応するのに必要な知識及び生活態度を習得させるため必要な指導(改善指導)を行っているが,この指導を行うに当たり,薬物依存があること,暴力団員であることなどの事情を有することにより,改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者については,それらの事情の改善に資するよう特に配慮しなければならないとされている。そうした配慮に基づく指導(特別改善指導)として,現在,薬物依存離脱指導,暴力団離脱指導,性犯罪再犯防止指導,被害者の視点を取り入れた教育,交通安全指導及び就労支援指導の6類型の指導を実施している(第2編第4章第3節3項(2)参照)。
 平成20年度における特別改善指導の実施状況は,7-4-1-1表のとおりである。

7-4-1-1表 特別改善指導の実施状況

 なお,性犯罪再犯防止指導については,平成21年度から,知的能力に制約がある者に対し,指導内容を特別に調整したプログラムを実施している。

薬物依存離脱指導の実際
 薬物依存離脱指導は,麻薬,覚せい剤その他の薬物に対する依存がある受刑者を対象として,薬物使用に係る自分の問題を理解させた上で,薬物に手を出さずに生活していく決意を固めさせ,再使用に至らないための具体的な方法を考えさせるものである。
 各刑事施設において,民間自助グループ等の協力も得て,受刑者が自らの薬物乱用の経験や影響等について考えることができるようグループミーティングを導入し,講義,視聴覚教材視聴,課題学習等の方法も組み合わせながら,指導内容・方法の充実を図っている。

(2)刑事施設及び少年院における教科指導等の充実

 刑事施設及び少年院においては,義務教育未修了等の受刑者・少年院在院者に対し,基礎的な内容の教科指導・教科教育を行っているほか,学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる者に対しては,高等学校の教科の内容に準ずる教科指導等を行っているが,平成19年度から,法務省と文部科学省の連携により,刑事施設及び少年院を会場として高等学校卒業程度認定試験を実施している。これは,受刑者等に学習の意欲を促すとともに,試験合格によって進学や就職等の選択肢を増やさせることにより,改善更生と円滑な社会復帰を図るためのものである。また,前記試験の受験特別指導施設として4の刑事施設が指定され,教員免許等を有する民間専門スタッフが配置されて,他の刑事施設に収容されている受刑者も対象に同試験受験に向けた指導が積極的に実施されている(第2編第4章第3節3項(3)第4編第2章第4節2項(3)ウ参照)。

(3)保護観察対象者に対する専門的処遇プログラム

 平成18年9月の執行猶予者保護観察法の改正により,仮釈放者だけではなく,保護観察付執行猶予者にも,特別遵守事項を定めることができるようになり,これは,20年6月施行の更生保護法にも引き継がれ,これに基づき,一定の条件を満たす仮釈放者及び保護観察付執行猶予者に対し,性犯罪者処遇プログラム,覚せい剤事犯者処遇プログラム及び暴力防止プログラムの受講を義務付け,特定の犯罪的傾向の改善に向けて,認知行動療法を理論的基盤とする専門的処遇を実施している(第2編第5章第2節2項(1)参照)。

覚せい剤事犯者処遇プログラムの実際
 覚せい剤事犯者処遇プログラムは,覚せい剤を再び使用しないとの意志を強化・持続させることを目的として実施する簡易薬物検出検査(簡易試薬による尿検査又は唾液検査)と,覚せい剤を再び使用しないようにするための具体的な方法を習得させることを主な目的とする5課程からなる教育課程により構成された専門的処遇を内容とする。
 このプログラムの実施対象者は,原則として2週間に1回の頻度で,指定された日時に保護観察所に出頭し,保護観察官が実施するプログラムを受ける。
 なお,特別遵守事項としてこのプログラムの受講が義務付けられていない者(そのプログラムの課程を修了した者を含む。)についても,必要に応じ,その自発的意思に基づく簡易薬物検出検査が実施されている。