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 平成21年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/2 

2 窃盗

(1)対象事件及び対象者の概要

 調査の対象とした窃盗事犯者は,前記のとおり691人であり,男女の比率は,男子90.9%,女子9.1%であった。
 初回執行猶予時の量刑は,懲役期間については,1年及び1年6月が大半を占め,それぞれ281人(40.7%)及び274人(39.7%),執行猶予期間については,3年が518人(75.0%)と圧倒的に多く,次いで,4年が151人(21.9%)であった。
 保護観察の有無別構成比は,7-3-1-2-1図のとおりである。
 保護観察に付された者は全体で9.1%(63人)であり,男女別で見ると,男子の方が保護観察に付された者の比率が若干高い。

7-3-1-2-1図 保護観察の有無別構成比(男女別)

 窃盗の手口別構成比は,7-3-1-2-2図のとおりである。
 非侵入窃盗が77.6%を占め,中でも万引きが33.2%と最も多い。女子について見ると,大半が非侵入窃盗であり,万引きの比率(65.2%)が特に高い。

7-3-1-2-2図 手口別構成比(総数・女子別)

 調査対象者の年齢層(調査対象事件の判決言渡時のものである。以下,この節において同じ。)別人員は,7-3-1-2-3図のとおりである。
 男子は,20〜24歳が最も多く,年齢層が上がるに従って減少している。女子については,やや異なり,25〜34歳が多い。

7-3-1-2-3図 調査対象者の年齢層別人員(男女別)

 共犯者別構成比は,7-3-1-2-4図のとおりである。
 男女共に「共犯なし」の比率が高いが,女子は,男子と比べて「共犯あり」の比率が高く,その中では特に「家族」が共犯者である比率が高い。

7-3-1-2-4図 共犯者別構成比(男女別)

 調査対象者の居住状況(調査対象事件の犯行時のものである。以下,この節において同じ。)別構成比は,7-3-1-2-5図のとおりである。
 男子については,単身者の比率が6割以上であり,特に住居不定・ホームレスの者が4割近くと高率であった。女子については,半数以上の者が,家族・交際相手・親族と同居していた。

7-3-1-2-5図 居住状況別構成比(男女別)

(2)再犯状況

 以下,調査対象者の属性及び犯行状況等の別に,再犯の有無を比較し,検討する。
 ア 全般的状況
 まず,調査対象の窃盗事犯者全体について,再犯状況を見ると,7-3-1-2-6図のとおりである。
 窃盗による再犯がある者(窃盗のみによる再犯のほか,これとその他の罪名の犯罪による再犯の場合を含む。以下,この項において同じ。)は162人(23.4%),その他の罪名の犯罪のみによる再犯がある者は43人(6.2%)であった。
 男女別に見ると,女子の方が,窃盗の再犯率が高い。これは,女子については,窃盗の再犯率が高い万引き(7-3-1-2-10図参照)が大半を占めていることが影響していると思われる。

7-3-1-2-6図 再犯状況(男女別)

 再犯に及んだ者について,再犯罪名及び再犯期間(調査対象事件の判決言渡日から再犯の裁判確定日までの期間をいう。以下,この節において同じ。)を男女別に見ると,7-3-1-2-7図及び7-3-1-2-8図のとおりである。
 再犯罪名は窃盗が大半であるが,特に,女子は,再犯者21人のうち,1人を除き,再犯罪名は窃盗であった。
 再犯期間について見ると,再犯に至った者のうち過半数が,1年半以内に再犯に及んで有罪判決が確定しており,覚せい剤事犯者(7-3-1-3-6図参照)と比較しても,再犯期間が短い傾向にあった。

7-3-1-2-7図 再犯罪名別構成比(男女別)

7-3-1-2-8図 再犯期間別構成比(男女別)

 イ 各種事情ごとの再犯状況の分析
 年齢層別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-9図のとおりである。
 年齢層が上がるほど,窃盗の再犯率は高くなっている。高い年齢で執行猶予を受けた者ほど,更生が困難である者の占める比率が高いことがうかがわれる。なお,65歳以上の高齢者については,再犯罪名はすべて窃盗であった。

7-3-1-2-9図 再犯状況(年齢層別)

 調査対象事件における手口別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-10図のとおりである。
 万引きについて,再犯率が高く,その再犯のほとんどは窃盗である。

7-3-1-2-10図 再犯状況(手口別)

 調査対象事件における共犯の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-11図のとおりである。
 「共犯なし」の者は,「共犯あり」の者と比べ,窃盗の再犯率が高い。

7-3-1-2-11図 再犯状況(共犯の有無別)

 窃盗の前歴の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-12図のとおりである。
 窃盗の前歴があった者については,これがない者と比べ,窃盗の再犯率が顕著に高かった。

7-3-1-2-12図 再犯状況(窃盗前歴の有無別)

 居住状況別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-13図のとおりである。
 「単身(住居不定・ホームレス)」,「単身(定住)」,「友人知人・その他と同居」,「家族・交際相手・親族と同居」の順で,窃盗の再犯率が高い。窃盗以外の罪名の犯罪による再犯も含めた再犯率では,「単身(定住)」,「友人知人・その他と同居」の順位が逆転するが,居住状況が不安定な者ほど,再犯率,特に窃盗の再犯率が高い傾向がうかがわれる。

7-3-1-2-13図 再犯状況(居住状況別)

 就労状況(調査対象事件の犯行時におけるものである。以下,この節において同じ。)別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-14図のとおりである。
 有職者については,1年以上継続して同一の職場に雇用されて就労している者及び正式雇用されるなど長期間継続した雇用が予定されている者を「安定就労」とし,それ以外の者(アルバイト等)を「不安定就労」として分析した(以下,この節において同じ。)。
 再犯率は,「無職」の者が最も高く,「安定就労」の者が最も低く,就労状況が不安定な者ほど再犯率が高い傾向がうかがわれる。

7-3-1-2-14図 再犯状況(就労状況別)

 さらに,居住状況と就労状況がどのように再犯要因として働いているかを分析するために,これらの状況を複合させた居住・就労状況別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-15図のとおりである(「友人知人・その他と同居」の者及び「単身(住居不定・ホームレス)」で「安定就労」の者については,いずれも人員が極めて少数であるため除いた。)。
 「家族と同居」の者と「単身(定住)」の者について見ると,いずれでも,「無職」の者は,「安定就労」の者と比べ,再犯率が明らかに高いが,「不安定就労」の者の再犯傾向は,「家族と同居」の場合には「安定就労」の者に近いのに対し,「単身(定住)」の場合には「無職」の者に近いことが注目される。すなわち,「不安定就労」は,一般的には,「安定就労」よりも再犯の可能性を高めるが,「家族と同居」の場合には,さほどの再犯リスクとはならないことが示唆されていると思われる。また,「不安定就労」は,一般的には,「無職」と比べれば,再犯の可能性を低める要因となり得るが,「単身(定住)」の場合には,必ずしもそのようにはいえないと思われる。このことは,居住状況が不安定な者(住居不定・ホームレス)についても同様である。

7-3-1-2-15図 再犯状況(居住・就労状況別)

 監督誓約(調査対象事件の裁判において,証人出廷又は書面提出の上,釈放後の被告人に対する監督を誓約したことをいう。以下,この節において同じ。)の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-16図のとおりである。
 窃盗事犯者全体で,「監督誓約あり」の者と「監督誓約なし」の者がほぼ二分されるが,「監督誓約あり」の者は,「監督誓約なし」の者と比べ,窃盗の再犯率が顕著に低い。

7-3-1-2-16図 再犯状況(監督誓約の有無別)

 さらに,監督誓約の有無と就労状況がどのように再犯要因として働いているかを分析するために,これらを複合させた監督誓約の有無別・就労状況別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-17図のとおりである。
 「監督誓約なし」の者は,「監督誓約あり」の者と比べ,就労状況がいずれであっても,再犯率が相当高く,特に,「安定就労」であっても「監督誓約なし」の者は,「無職」ではあるが「監督誓約あり」の者と比べ,窃盗の再犯率が2倍程度に高く,監督者の存在が大きな再犯抑止力を有することがうかがわれる。

7-3-1-2-17図 再犯状況(監督誓約の有無別・就労状況別)

 調査対象事件のうち,窃盗の既遂事案(被害品の全部が現品返還されている場合は,弁償が必ずしも問題とならないことから,除いた。)について,積極的弁償措置(金銭賠償(慰謝料等の支払いを含む。)を行ったことをいい,被害品の一部のみの返還を含まない。以下,この項において同じ。)の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-18図のとおりである。
 積極的弁償措置を行っている者は,弁償なしの者と比べ,再犯率は,顕著に低い。

7-3-1-2-18図 再犯状況(弁償措置の有無別)

 さらに,積極的弁償措置は,監督誓約者が本人に代わって行うことも多く,再犯要因として,監督誓約の有無と必ずしも独立したものとなっていないと考えられることから,これらの状況を複合させた監督誓約の有無別・積極的弁償措置の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-19図のとおりである。
 監督誓約がなく,かつ,積極的弁償措置もない者は,半数近くが再犯に及んでいるのに対し,それ以外の場合には,再犯率が相対的にかなり低く,監督誓約がない場合でも,積極的弁償措置を行っている場合には,監督誓約がある場合と再犯率に大きな差がないことが注目される。すなわち,監督誓約がない場合,一般的には,再犯性が高くなるが,その場合でも,本人が努力して積極的弁償措置を行ったときは,再犯の可能性は相当低くなるのであり,これは,本人の更生意欲によるものと考えられる。

7-3-1-2-19図 再犯状況(監督誓約の有無別・弁償措置の有無別)

 被害者の宥恕の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-20図のとおりである。
 被害者の宥恕がある(被害者が被告人の寛大処分を嘆願又は了承していた場合をいう。以下,この項において同じ。)場合は,宥恕がなかった場合と比べ,再犯率が半分以下と顕著に低い。被害者の宥恕が得られるのは,本人又は監督誓約者の努力による場合がほとんどであると考えられる(そうした努力がなされる場合,通常,積極的弁償措置もなされると思われ,実際,宥恕があったのは130件であるが,そのうち大半は,積極的弁償措置があった場合である。)が,被害者の宥恕は,そうした努力がなされることによる再犯リスクの低下を表象するものと見ることができると思われる。

7-3-1-2-20図 再犯状況(宥恕の有無別)

 最後に,保護観察の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-2-21図のとおりである。
 保護観察に付された者については,保護観察に付されなかった者と比べ,窃盗の再犯率が低い。
 窃盗以外の再犯があった者も併せると,「保護観察あり」の者の方が再犯率が若干高いが,そもそも,保護観察は,家庭環境や生活状況等,更生のための諸条件がより劣悪で,相対的に再犯リスクが高い者に対して付されることが多いので,「保護観察あり」の者の再犯率が「保護観察なし」の者とほぼ同水準に抑えられていることは,保護観察が改善更生・再犯抑止に効果を上げていることの証左と見ることができる。
 また,全般的に再犯率が高い「単身(住居不定・ホームレス)」,「無職」,「監督誓約なし」の者について,「保護観察あり」の者と「保護観察なし」の者の再犯率(窃盗以外の罪名の犯罪による再犯を含む。)を比較すると,
  「単身(住居不定・ホームレス)」(258人)中
    「保護観察あり」(20人)   再犯率25.0%
    「保護観察なし」(238人)   再犯率36.1%
  「無職」(401人)中
    「保護観察あり」(38人)   再犯率23.7%
    「保護観察なし」(363人)   再犯率35.5%
  「監督誓約なし」(335人)中
    「保護観察あり」(34人)   再犯率32.4%
    「保護観察なし」(301人)   再犯率41.2%
 であり,これらの者のいずれについても,「保護観察あり」の者の方が再犯率が低く,このことからも,保護観察が改善更生・再犯抑止に効果的であることがうかがわれる。
 なお,再犯を理由とする執行猶予の取消しは,執行猶予期間中に再犯による有罪判決を受けて確定した場合に限られ,再犯があっても前の執行猶予が取り消されないことがあるが,再犯による執行猶予取消率をみると,保護観察に付された者では28.6%であるが,保護観察に付されなかった者では22.5%であった。これは,保護観察に付されなかった者では,執行猶予期間が3年以下と短い者の構成比が81.1%と高く(保護観察に付された者では33.3%),これに該当する者は,再犯があっても約3割が執行猶予を取り消されていないことなどによるものである。

7-3-1-2-21図 再犯状況(保護観察の有無別)

(3)まとめ

 調査対象の窃盗事犯者のうち,約3割が再犯に及んでおり,再犯のうち約8割は窃盗による再犯であった。
 女子の調査対象者は,大半が万引きを主とする非侵入窃盗であり,万引きの再犯性が高い結果として,再犯率は男子より高く,また,再犯のほとんどが窃盗による再犯であった。
 居住状況や就労状況は,それぞれ,これが安定しているほど,再犯リスクは低くなるが,居住状況が異なると,就労状況が再犯要因として働く程度は異なり,単身の場合は,就労している者であっても,安定した就労状況になければ,再犯抑止効果が十分に働かないことがうかがわれた。
 さらに,監督者の存在がより大きな再犯抑止要因になることがうかがわれ,また,本人又は監督者の努力により積極的弁償措置がなされている場合には,再犯率が顕著に低くなる傾向も見られた。
 保護観察に付された者は,1割に満たなかったが,保護観察は,相当の再犯抑止の効果を上げていることがうかがわれた。