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 平成21年版 犯罪白書 第7編/第3章/第3節/2 

2 保護司に対する聴取り

(1)概要

 この項では,豊富な保護観察事件担当経験を有する保護司から,窃盗・覚せい剤事犯者が保護観察処遇で改善更生するための条件等について聴取りを実施した結果を紹介する。
 この聴取りを行ったのは,千葉,横浜,前橋及び長野の保護観察所管内に所属する,おおむね10年以上の経験を有する保護司20人である。

(2)聴取りの結果

 ア 更生の条件
 ほとんどの保護司は,保護観察対象者が改善更生するための条件として,「就労・就学の安定」,「家族関係・交友関係の改善」を挙げた。窃盗及び覚せい剤事犯については,「窃盗事犯者には経済基盤の確立,覚せい剤事犯者には不良交友の断絶が不可欠である。」,「就労は,窃盗事犯では収入の安定に,覚せい剤事犯では精神面の安定につながる。」などとの認識が示された。
 さらに,保護観察対象者の改善更生を図るためには,対象者の小さな変化にも敏感に気付いて的確な対応をすること,罪の意識をかん養すること,他人との人間関係から生じるストレスを解消させることなどが重要であるとの指摘が多かった。
 また,再犯防止を図るためには,犯罪・非行の芽を出来るだけ早期に摘むことが重要であると指摘する者が多く,初期の処分の甘さが再犯を助長することとなっているのではないかという認識を示す者もいた。このほか,再犯防止には関係機関等との連携が必要であると指摘する者が多く,実際の連携先として,薬物関係の専門病院,福祉関係機関,協力雇用主,学校等が挙げられた。

 イ 対象者の家族及び対象者を取り巻く環境の変化
 この聴取りでは,保護司から,犯罪者・非行少年とその家族の意識,家庭環境,社会環境の時代的変化に関しても,見識を聴取することができた。
 まず,保護観察対象者やその家族の意識の変化として,「以前は,保護観察になったことを,もう少し『恥ずかしい』,『肩身が狭い』と感じている者が多かったように思うが,今は割と淡々としている。」とする指摘があった。もっとも,他方で,「他人の目を非常に気にするようになり,家庭内のことは保護司に隠そうとする傾向がある。」という指摘もあった。
 家庭環境については,「両親がそろっていない家庭や共働きの家庭等が増え,親が不在がちであり,子供に目が届かなくなった。」,「親が親としての役割を理解していない。」,「本人も親も,考えが甘い者が増えた。」,「母親は甘やかし,父親は無関心というケースが増えている。」,「親子関係が友達のようで,非行に走った子供への対処にただ戸惑っているだけの親が多くなった。」,「以前と比べて父親の存在感が薄くなっている。」,「薬物使用やドメスティック・バイオレンス(DV)等,親にも問題のあるケースが増えてきている。」,「家族の団らんが減ってきている。」,「家庭内に子供の居場所がなくなってきている。」などと,親の指導力の低下や家族のきずなの希薄化を問題視する指摘が多く,こうした認識を前提として,「保護観察においては,本人だけでなく,その家族にも積極的に働きかけるなどして問題の改善を図っていく必要がある。」という指摘もあった。
 地域社会の変化としては,「悪いことをしている子供がいても,近所の大人が注意できなくなった。」,「他人に関心がなく,自分さえ良ければいいという自分本位の傾向が強くなっている。」などとする認識が示された。もっとも,「防犯ボランティア組織がたくさんできるようになるなど,地域社会を良くすることに関心を示す者が増えている。」との認識を示す者もあった。