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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第4章/第6節/4 

4 少年に対する保護観察処遇の実情と課題

 保護観察は,社会内の様々な要因や刺激の影響を受ける中で実施されるため,少年院における施設内処遇とは異なった側面を持っている。
 第一は,保護観察対象者(以下,本節において「対象者」という。)が,家族関係や交友関係の影響を強く受けやすいことである。家族に支えられ,良い友人に恵まれれば,本人の改善更生・社会復帰に向けて大きな励みになるが,家族との葛藤や,暴走族仲間,地域不良集団等との不良交友が,問題行動の再発につながることもある。少年の場合には,特に,この二つの関係が持つ意味合いは大きい。そこで,保護観察処遇においては,家族関係をどのように調整するか,保護者と協力して本人への指導を充実させることができるか,不良交友をいかにして絶たせるかといったことが常に重要な課題となる。
 第二は,対象者が種々の誘惑にさらされるということである。薬物や常習的な窃盗,無免許運転等の問題を抱える対象者は,欲すればシンナーや覚せい剤を入手したり,物を盗んだり,車を運転したりすることができる状況の中で生活しなければならない。そのため,これらの誘惑を克服させ,再非行を防ぐことが重要な課題であり,対象者の規範意識や社会への適応力を育てるための粘り強い取組が必要となる。
 第三は,就学・就労の問題である。通常,保護観察における指導・援助は,まず対象者の生活の安定を目指して行われる。そのために最も大切なことは,就学・就労である。就学については,中学校,高等学校等の学校との連携が,就労については,公共職業安定所や協力雇用主との連携が重要となるが,特に,就労に関しては,若者の雇用情勢の厳しさ等とあいまって,指導・援助の困難な事案が増加している。
 第四は,対象者の場所的移動が容易であるということである。特に,近年,交通手段や通信手段の飛躍的発展に伴い,対象者の交友範囲や行動範囲が拡大しており,その生活状況を適切に把握し,指導監督を実施していく上で,新たな難しさが生じている。

(1) 処遇に配慮を要する対象者

 少年において特に処遇に配慮を要する対象者として,暴走族対象者,薬物対象者,中学生対象者及び外国人対象者を取り上げる。

ア 暴走族対象者

 平成16年12月31日現在,暴走族対象者は,保護観察処分少年の約10人に1人,少年院仮退院者の約4人に1人を占めている(4-4-6-14図[1]参照)。
 暴走族は,集団暴走,競争運転,騒音,い集等により,著しい交通の危険や迷惑を引き起こしているだけでなく,離脱しようとする者や内部の統制を乱す者へのリンチ,他の暴走族との対立抗争,一般市民への暴行等,暴力の温床にもなっている。また,暴力団とのかかわりが強く,資金や人員の供給源の一つになっており,暴力団への上納金を作るために,ひったくりや自動車盗を行うなどの例がある。対象者に暴走行為を止めさせ,暴走族及びその背後にいる暴力団とのかかわりをなくさせることは,組織犯罪対策として重要であることはもとより,対象者の非行の深化を抑えて将来成人の犯罪者とさせないために重要である。
 暴走族対象者の特徴としては,行動の基準や善悪の判断について暴走族集団やその背後にいる暴力団の影響を強く受けていること,車に対する興味関心が極めて高いこと,家庭や職場に十分に受けいれられておらず,疎外感や劣等感を抱きやすいこと等が挙げられている。
 平成16年における少年の保護観察新規受理人員について見ると,暴走族対象者は,それ以外の対象者と比較して,[1]繰り返し保護観察を受けている者の比率が高いこと,[2]シンナー等の薬物使用関係を有する者の比率が高いこと等の特徴がうかがわれる(法務省大臣官房司法法制部の資料及び法務総合研究所の調査による。)。
 さらに,平成16年における少年の保護観察終了人員について見ると,暴走族対象者は,それ以外の対象者と比較して,[1]解除や退院に至らず,期間満了で終了した者の比率が高いこと,[2]保護観察中に再非行・再犯をして再処分を受けた者の比率が高いこと,[3]再非行・再犯名としては,道路交通法違反の比率が高いこと等の特徴がうかがわれる(法務省大臣官房司法法制部の資料及び法務総合研究所の調査による。)。
 以上のことから,暴走族対象者は,保護観察において数的に大きな位置を占めるだけでなく,処遇上困難な問題が多い類型であるといえる。
 そこで,保護観察処遇においては,適切な指導を行う前提として,まず対象者の暴走族への関与の度合いのほか,交友関係や家族の状況等に関してその生活実態を具体的に把握することに努めている。これは,対象者が暴走族を離脱したと言いながらも,実際には暴走族との関係を保ち,集団暴走に相変わらず参加している例があるほか,保護者による指導が困難になっていたり,保護者が求められるままに車を買い与えるなど不適切な対応をしている例もあることから,その実態をよく見定める必要があるためである。実態把握の方法としては,保護観察官による定期的又は集中的な面接,担当保護司による対象者宅への積極的な往訪,同一の暴走族に属する対象者の担当保護司間での情報交換,関係機関との連携等があり,場合によっては,保護観察官がチームで暴走族の集合場所に出向いて,対象者が参加していないか確認することもある。
 そして,暴走族対象者に対しては,個別の面接を繰り返す中で,「暴走族仲間と交際しないこと」,「交通法規を守ること」,「粗暴な行為をしないこと」,「就労(又は就学)し,規則正しい生活を送ること」等の特別遵守事項を守るように働きかけ,暴走族からの離脱を強く指導している。また,その保護者に対しても,本人への養育態度や対応方法について助言している。
 暴走族対象者の処遇で難しいのは,本人が暴走行為を繰り返さないと決意しても,暴走族を離脱することによる仲間からの孤立や制裁を恐れて,離脱できない場合があることである。そこで,関係機関と連携し,職場や地域の健全な集団の中に居場所を作るよう促したり,転居を含めた対応策を指導・援助する必要も生ずる。
 また,保護観察所によっては,集団暴走を起こしやすい時期の前に,暴走族対象者への注意喚起等を目的として,担当保護司等が一斉に対象者宅を往訪したり,暴走族事件対策班や暴走族事件対策担当保護司を設け,対象者の実態把握や関係機関との連携をより効果的に行うなどの処遇も展開している。
 暴走族対象者の処遇に当たっては,対象者と暴力団とのつながりを絶つことや暴走族そのものを解散・弱体化させることも視野に入れ,関係機関や地域社会との連携を図ることが効果的である。そのネットワーク作りに更に寄与できるよう保護観察の機能をより強化していく必要がある。

イ 薬物対象者

 薬物対象者の類型認定率は,低下傾向にある(4-4-6-14図[3]・[4]参照)ものの,依然としてその数は少なくない。
 薬物対象者の特徴としては,薬物をめぐる不良交友,家族との不和・葛藤,不規則・不摂生な生活等が挙げられている。
 平成16年における少年の保護観察新規受理人員について見ると,薬物対象者は,それ以外の対象者と比較して,[1]繰り返し保護観察を受けている者の比率が高いこと,[2]無職者の比率が高いこと等の特徴がうかがわれる(法務省大臣官房司法法制部の資料及び法務総合研究所の調査による。)。
 さらに,平成16年における少年の保護観察終了人員について見ると,薬物対象者は,それ以外の対象者と比較して,[1]解除や退院に至らず,期間満了や保護処分取消し等で終了した者の比率が高いこと,[2]保護観察中に再非行・再犯をして再処分を受けた者の比率が高いこと,[3]再非行・再犯名としては,毒劇法違反及び覚せい剤取締法違反の比率が高いこと等の特徴がうかがわれる(法務省大臣官房司法法制部の資料及び法務総合研究所の調査による。)。
 以上のことから,薬物対象者も,処遇上問題の多い類型の一つであり,保護観察において特別な配慮を要する対象であるといえる。
 そこで,保護観察処遇においては,薬物依存の度合いを的確に見定めるとともに,保護観察官による集中的な初期介入,担当保護司の定期的往訪や保護者との連絡等による生活実態の把握,交友関係,家族関係,生活習慣,就労等に関する指導・助言,薬害に関する教育,関係機関・団体(精神保健福祉センター・保健所,精神科医療機関,民間の自助グループ等)との連携といった多様な方法を組み合わせながら,個別の働き掛けを実施している。
 また,薬物の再使用を防止する上で,保護者の果たす役割は大きい。保護者は,本人の薬物使用に苦しめられ,困り果てている場合が多い一方,その薬物使用を隠そうとしたり,本人から言われるままに金銭を与えるなど,不適切な対処により薬物使用を助長している場合もある。そのため,保護者の悩みや苦しみに耳を傾けながらも,本人に対する接し方を改善するよう助言を行うことが重要である。保護観察処遇においては,対象者本人だけでなく,その保護者も対象として,薬害に関するビデオの視聴,薬物依存に関する専門家の講話,感想文の作成等を内容とする講習会を実施したり,少年院を含む矯正施設に入所中の薬物対象者の保護者等を対象とする講習会や座談会を開催するなどして,保護者への働き掛けを行っている。

ウ 中学生対象者

 中学生の保護観察新規受理人員の推移(最近10年間)は,4-4-6-18図のとおりである。
 中学生の新規受理人員は,最近10年間で約2.7倍に増加し,平成16年は2,533人(前年比5.0%増)となった。また,「中学生」類型の認定率は,特に保護観察処分少年において上昇している(4-4-6-14図[9]参照)。

4-4-6-18図 中学生の保護観察新規受理人員の推移

 平成16年における少年の保護観察新規受理人員について見ると,中学生対象者は,それ以外の対象者と比較して,[1]窃盗及び傷害の比率が高く,この二つの非行名により保護観察となった者が約70%であること,[2]「両親と同居」の者の比率が低く,「母と同居」の者の比率が高いこと等の特徴がうかがわれる(法務省大臣官房司法法制部の資料及び法務総合研究所の調査による。)。
 中学生対象者は,低年齢である上,保護観察中に再非行に至る場合も少なくない。少年鑑別所の鑑別において,低年齢少年は,心身が未発達であるため,心情が不安定になりがちで,面接等において十分な自己表現ができないなどの問題があるとされている(本章第3節5(3)参照)が,保護観察においても同様のことがいえる。
 中学生対象者の処遇には,特別な配慮を要するが,可塑性に富むこの時期に,効果的な処遇が行われれば,改善の度合いも大きいと期待される。また,特に,本人が通学する中学校との連携を図ることが重要である。
 そこで,保護観察処遇においては,本人に対し個別にきめ細やかな指導・援助を行うとともに,通常,保護観察官及び保護司が,中学校の関係者と連携を密にしながら働き掛けを実施している。
 さらに,個別の処遇において効果的な連携を行うためには,地域社会を基盤として活動する保護司が,日頃から地域の中学校と交流の機会を持ち,顔の見える関係を作っておくことが大切である。また,保護司が対象者の処遇を通じて培った知識や経験は,非行予防活動を始めとする中学生の様々な問題防止活動にも生かすことができる。そこで,多くの保護司会では,学校担当保護司を設けるなどして,非行防止教室の実施,関係機関が連携して少年の立ち直りを支えるサポートチームへの参加,生徒指導担当教諭との合同研究会の実施等に取り組んでいる。
 平成15年度に,社団法人全国保護司連盟が全国の905の地区保護司会を対象に行ったアンケート調査(回答数778地区保護司会,回答率86.0%)の結果により,保護司会と学校との連携状況を見ると,4-4-6-19図のとおりである。
 「学校と連絡協議会を実施」が全回答数の47.4%と最も多く,次いで,「学校と地域パトロールや『あいさつ運動』,『声掛け運動』を実施」(36.0%),「『学校評議員』としての参加・協力」(28.1%),「非行問題や薬物問題に関する非行防止教室を実施」(25.3%),「学校と研修会・研究会を実施」(21.9%)の順であった。

4-4-6-19図 保護司会と学校との連携状況

エ 外国人対象者

 各年12月31日現在の少年外国人対象者の保護観察係属人員の推移(最近10年間)は,4-4-6-20図のとおりである。
 少年外国人対象者は,平成7年12月31日現在の86人から16年12月31日現在の365人へと大幅に増加している。

4-4-6-20図 少年外国人対象者の保護観察係属人員の推移

 各年12月31日現在の少年外国人対象者の保護観察係属人員(最近3年間)を,国籍等別に見ると,4-4-6-21表のとおりである。
 平成16年12月31日現在の国籍等(無国籍を含む。)は,17に及び,保護観察処分少年,少年院仮退院者ともに,ブラジルが最も多く(両者合計177人),次いで,中国(台湾を含む。62人),ペルー(43人)の順であった。
 少年外国人対象者は,[1]日本語能力が未熟であることが多く,意思疎通を図ることが難しいこと,[2]就労が比較的困難であること,[3]交流範囲が狭く,多様な社会的サポートを受けにくいこと等の問題を抱えており,さらに,その保護者の日本語能力が十分でない場合もあり,保護観察及び環境調整を実施する上で多大な困難を伴う。
 法務省においては,英語,中国語,韓国・朝鮮語,スペイン語,ポルトガル語,タガログ語,ベトナム語等による保護観察に関する説明パンフレットを作成し,保護観察への導入が円滑にされるよう努めている。また,外国人対象者が多く係属する保護観察所においては,外国語による関係書類の整備,通訳人の確保,関係機関・団体との連携等により,処遇の充実を図っている。
 なお,少年外国人対象者の中には,法的に在留が認められている者のほか,退去強制となる者もいる。後者については,今後,処遇の在り方を含めた幅広い観点からの検討も必要であろう。

4-4-6-21表 少年外国人対象者の国籍等別保護観察係属人員

外国人対象者
 ある女性保護司は,ブラジル人の保護観察処分少年を担当することになりました。その少年は,自分の非行について反省しており,働きたいという意欲を持っていたのですが,言葉の壁もあって,なかなか就職することができませんでした。保護司は,少年の更生のためには,まず日本語の能力を身に付けさせることが必要だと感じ,保護観察官やBBS会員の協力を得て,保護司宅で定期的に日本語を教えることにしました。少年は,保護司らの励ましと指導を受け,小学生用の国語のドリルを懸命にこなし,少しずつ日本語の能力を身に付けていきました。
 ある日,少年が保護司宅を来訪し,「住み込みの就職先が見つかりました。」と笑顔で報告してきました。採用面接で,自分の頑張りたいという思いを少し伝えることができたということです。保護司は,「伝えたい,話したいという思いが大切よ。自分の気持ちを言葉にして伝えてね。」と彼に言葉を贈り,この言葉に大きくうなずいた彼に,成長したという頼もしさを感じました。

(2) 被害者等を視野に入れた処遇の充実

 保護観察処遇においては,これまでも,事案に応じて,被害者やその遺族(以下,本節において「被害者等」という。)を視野に入れた処遇を実施してきたが,近年,刑事政策全般において被害者等の保護が従前よりも重視される中で,少年の資質の変化も踏まえ,被害者等を視野に入れた処遇を行う必要性が,より高まっている。
 平成16年に法務総合研究所が行った保護司の活動実態と意識に関する調査(保護司3,000人を対象とする質問紙調査(回答率75.3%)。以下,本節において「保護司特別調査」という。)においても,被害者等を視野に入れた処遇の必要性について尋ねたところ,4-4-6-22図のとおり,「被害者等の立場になって考えてみることについての指導・助言」,「被害者等に謝罪することについての指導・助言」,「被害者を慰霊し,その冥福を祈ることについての指導・助言」などについて必要性が高いとの認識が保護司から示された。
 少年院教官調査において,最近の非行少年の資質面で最も問題視されたのは,「人に対する思いやりや人の痛みに対する理解力・想像力に欠ける」というものであった(本編第3章第2節2参照)が,保護司も少年と接する過程でこうした傾向を感じ,被害者等の立場になってみることや謝罪することを重要と考えているものと思われる。
 保護観察においては,対象者に被害者等の受けた痛みを理解させ,罪の意識を覚せいさせるための指導を行い,時には,保護観察官や保護司が被害者等への謝罪に同行するなどの援助を通じて,積極的な謝罪や被害弁償を促すような取組が進められている。今後,少年の更生を図りつつ,こうした取組を処遇の中でより重視していくことが課題である。

4-4-6-22図 被害者等を視野に入れた処遇の必要性に関する保護司の認識

(3) 社会参加活動の充実

 保護観察処遇では,福祉施設における介護・奉仕活動,公園清掃等の環境美化活動,陶芸教室・料理教室等の体験学習,農作業,スポーツ活動,レクリエーション活動等に対象者を参加させ,対象者の社会性を育み,社会適応能力を向上させることに努めている。この社会参加活動は,当初,短期保護観察の実施方法の一つとして始められたが,その後,少年の対象者全般に広がっている。
 社会参加活動の実施回数,実施場所数及び対象者参加人数(保護者を含む。)の推移(平成8年度以降)は,4-4-6-23図のとおりである。
 平成16年度における実施回数は463回,実施場所数は310か所,対象者参加人数は1,594人(保護者177人を含む。)であった。
 平成16年度における社会参加活動の活動内容は,4-4-6-24図のとおりであり,「高齢者等に対する介護・奉仕活動への参加」が43.0%と最も多かった。

4-4-6-23図 社会参加活動の実施回数・実施場所数・参加人数の推移

4-4-6-24図 社会参加活動の活動内容

 社会参加活動に参加した対象者からは,「お年寄りから『ありがとう』と言われ,恥ずかしかったけど,うれしかった」,「人の役に立っている気がした」,「自分がこんなに農作業に熱中できるとは思わなかった」,「久しぶりに朝早く起きて,汗をかいて,気持ち良かった」などの声が聞かれ,この活動によって,対象者が自らの生活を見直し,他者への思いやりの気持ちを持ち,肯定的な自己イメージを抱くなどのきっかけをつかんでいることがうかがわれる。社会参加活動は,少年に多様な実体験を積ませることで,共感性を育み,社会適応能力を向上させる処遇方法の一つであるといえよう。
 社会参加活動の実施回数等の推移は,4-4-6-23図のとおりであるが,今後,この活動をより多様で意義あるものにしていくことが,保護観察処遇における重要な課題となっている。保護観察所においては,保護司会,更生保護女性会,BBS会等更生保護関係団体の協力を得ながら,活動先や活動内容の充実を目指している。

社会参加活動の様子

(4) 就労指導・支援の充実

 保護観察処遇において重要な位置を占めるのは,就労の指導・支援である。対象者は,就労によって,規則正しい生活を身に付け,経済的に安定し,社会的視野を広げ,自信が持てるようになる。保護司特別調査に先立つ面接調査(18都道府県の保護司82人に対するもの。平成16年2月〜3月に実施。)において,対象者が更生したと思えるのはどんなときであるかを尋ねたところ,「仕事が続き,生活にリズムができてきたとき」,「職場に定着できたとき」など,就労の継続を更生の重要な目安とする意見が多かった。
 平成16年における少年の保護観察終了人員の終了事由を就学・就労別に見ると,4-4-6-25図[1]のとおりであり,無職者において,保護処分取消し等により終了した者の比率が際立って高い。
 また,平成16年における少年の保護観察終了人員の再処分の有無を就学・就労別に見ると,4-4-6-25図[2]のとおりであり,無職者において,保護観察中の再非行・再犯により再処分を受けた者の比率が著しく高い。
 対象者の再非行・再犯を防止し,その改善更生を促すためには,より一層の就労指導・支援の充実が必要である。

4-4-6-25図 少年の保護観察終了人員の就学・就労別の終了事由・再処分の有無

 無職の対象者の生活実態を見ると,同じように無職でいる仲間との夜遊び中心の生活から抜け出せないまま漫然と日々を送り,具体的な就職先や求職方法を見いだせずにいる少年が多い。
 保護観察処遇では,こうした対象者に,生活や交友関係を見直すよう促し,就労について相談に乗るなど粘り強い指導・助言を行っているが,今後は,対象者の雇用に積極的に協力する協力雇用主を更に確保し,公共職業安定所等の関係機関との連携を進めるなど,様々な就労支援策を充実させることがますます重要である。

(5) 保護者に対する働き掛け

 少年院教官調査においては,「指導力に問題のある保護者が増えた」と答えた教官が80%を超え,その具体的な問題点として,「子供の行動に対する責任感がない」,「子供の言いなりになっている」,「子供の行動に無関心である」などを挙げる者が多かった(本編第3章第2節3参照)。
 保護司特別調査における「保護司が経験した対象者の親の困った行動」についての質問に対する回答は,4-4-6-26図のとおりである。
 「対象者に注意や指導ができず,その言いなりになっている」が全回答者の47.8%と最も多く,次いで,「対象者の行動に無関心である」(40.3%),「対象者の問題行動を他人のせいにする」(32.6%)の順であった。「対象者の行動に関して,隠し事や嘘の報告をしてくる」及び「対象者のことで相談しようとしても,応じてこない」も相当数あり,保護司が保護者の協力を得るのに苦慮している様子がうかがわれた。

4-4-6-26図 保護司が経験した対象者の親の困った行動

 少年の保護観察処遇を効果的に実施するためには,保護者との協力が重要であり,保護観察所においては,保護者に対する個別の働き掛けとともに,対象者への対応に悩んでいる保護者のためにグループワークや集団講習を開催するなどの働き掛けも行っている。しかし,監護能力に問題のある保護者ほど,保護観察官や保護司との協力を避けようとするとの指摘もある。このような保護者に対し有効な働き掛けを行い,対象者の監護に関する責任の自覚を促すことが今後の重要な課題となっている。

(6) 保護司の処遇能力強化

 保護観察処遇を更に充実させるためには,対象者と直接接触する機会の多い保護司の処遇能力の強化が特に重要である。
 平成17年1月1日現在,保護司の平均年齢が63.0歳(法務省保護局の資料による。)であるのに対し,16年における少年の保護観察新規受理人員の平均年齢は17.2歳(法務省大臣官房司法法制部の資料による。)であり,その差は約46歳となっている。保護司は,経験を重ねるごとに,処遇に関する知見や技術を深めることができるが,他方,対象者との年齢的なギャップがコミュニケーションに影響を及ぼすことも懸念される。
 また,保護司の23.0%は70歳以上であり(平成17年1月1日現在。法務省保護局の資料による。),今後毎年多くの保護司が定年(再任の上限年齢が76歳未満。再任後の任期は2年間。)を迎え,退任することにより,処遇経験のない又は少ない保護司が増加していくおそれもある。
 そこで,保護司の処遇能力を維持し高めるため,保護観察官による保護司への指導や保護司の研修を充実させる必要性が高まっている。
 保護観察所においては,保護司に対し,保護観察官が担当事件を通じて個別に指導・助言するほか,新任研修,地域別の定例研修等を実施しており,例えば,平成16年度に行われた研修においては,「面接技法」,「学校等関係機関との連携」,「危機場面における対応」,「家族とのかかわり方」,「短期保護観察の課題指導」,「シンナー等乱用者の処遇」,「暴走族対象者の処遇」等の多様なテーマが取り上げられた(法務省保護局の資料による。)。これらの研修により,保護司は,体系的・継続的に,保護観察処遇に必要な知識や技術の修得を進めている。
 しかし,保護司特別調査において,「保護司のために大切な方策は何か」と質問したところ,「保護観察官による処遇指導の充実」が大切であると答えた者の比率が,回答者の98.0%と最も高く,次いで,「研修の充実」(96.4%),「保護司同士による処遇協議・情報交換の充実」(94.8%)の順であり,保護司が更なる処遇能力の向上を強く望んでいることが分かる。
 今後は,これらの要望を踏まえ,更に保護観察官による処遇指導の充実と保護司研修の充実を図っていくことが重要な課題である。

(7) 更生保護施設の処遇能力強化

 平成17年4月1日現在,全国101の更生保護施設(第2編第5章第4節2参照)のうち,専ら少年を対象に保護を行う施設は5施設,成人と併せて少年の保護を行うことが可能な施設は76施設である(法務省保護局の資料による。)。
 平成16年に,新たに更生保護施設に委託された少年は,保護観察処分少年が81人,少年院仮退院者が227人であった。(保護統計年報による。)。

少年専用の更生保護施設の外観

親子キャンプの様子

 平成16年の保護観察終了人員のうち,更生保護施設に委託された少年の入所事由は,4-4-6-27図のとおりである。
 親族から引受けを拒否された者が43.0%,頼るべき親族のない者が29.0%であり,保護環境に特に恵まれない者が多い。
 また,平成16年の保護観察終了人員のうち,更生保護施設に委託された少年の主な課題として挙げられたことは,4-4-6-28図のとおりである。
 職業生活(55.9%)及び社会生活能力(17.2%)が大きな課題であり,更生保護施設入所中に,いかにして就職を確保し,勤労の習慣を身に付けさせるか,いかにして社会的なスキルを学ばせるかといったことが重要なテーマとなっている。

4-4-6-27図 更生保護施設に委託された少年の入所事由

4-4-6-28図 更生保護施設に委託された少年の主な課題

 少年専用の更生保護施設においては,付設の自動車整備工場における就労体験,親子関係改善のための親子キャンプの開催,パソコン教室の開催等,特色のある処遇を実施しているが,1施設当たり平均3.8人の常勤職員(平成17年4月1日現在。法務省保護局の資料による。)という体制で,処遇が難しい少年に対する指導・援助に当たっているのが現状である。
 今後は,処遇プログラムの多様化・充実化を図るとともに,処遇体制の充実,地域社会との協調等,総合的に処遇能力の強化を図っていく必要があろう。