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 平成12年版 犯罪白書 第7編/第1章 

第7編 暴力団犯罪の動向と暴力団関係者の処遇

第1章 はじめに

 集団的に,又は常習的に暴力的不法行為を行うおそれのある組織としての暴力団は,近年の暴力団排除気運の高まりと取締りの一層の強化によって,社会から孤立しつつあるが,その一方では,広域暴力団への系列化が進行するとともに,変化しつつある社会経済情勢に対応して,覚せい剤の密売,賭博,みかじめ料徴収等の伝統的な資金獲得活動に加え,民事介入暴力,企業対象暴力,総会屋活動,密入国の仲介,金融・不良債権関連活動等,その活動を多様化・巧妙化させている。
 また,けん銃等の武器を使用した凶悪犯罪が依然として多く,対立抗争事件も跡を絶たない上,近年は外国犯罪組織や不良外国人による組織的窃盗事件や集団強盗事件にも関与するなど,その活動範囲を広げている。
 平成4年3月施行の暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下,本編において,「暴力団対策法」という。)は,対立抗争時の事務所使用制限命令や,従来の刑罰法令には触れない類型の暴力的要求行為等に対する中止命令等の行政的措置を行うことを可能にするとともに,公安委員会等に,離脱の意思を有する者に対して援護等の措置を執るべきことを求めており,暴力団対策の重要な柱の一つといえるが,暴力団員等がその事業活動を支配することなどを債権管理回収業の許可の欠格要件とする旨を定めた11年2月施行の債権管理回収業に関する特別措置法の規定等も,変貌しつつある暴力団の資金獲得活動等を規制していくための新たな仕組みといえよう。
 なお,暴力団対策法は,平成5年5月の一部改正で,競売の対象となるような土地等に係る明渡し料等の要求行為等を中止命令等の対象となる暴力的要求行為に含ませるとともに,9年6月の一部改正では,指定暴力団等の業務に関して行われる暴力的要求行為の防止や,指定暴力団員以外の者による準暴力的要求行為等の規制に関する規定等の新設がなされた。
 また,暴力団を含めた組織的な犯罪に適切に対処するため,平成12年2月には,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律が,同年8月には,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律が施行されているが,これらの法律によって,暴力団活動の取締りが一層強化されることが期待される。
 これらの暴力団の組織的活動に対する法制度の拡充に加えて,暴力団構成員に対する個別的な働き掛けも重要であり,従来から,警察,都道府県暴力追放運動推進センター,職業安定所等との連携・協力の下に一定の成果を上げてきている受刑中又は保護観察下の暴力団関係者に対する社会復帰のための処遇の充実・強化も,暴力団組織の弱体化という観点からは,喫緊かつ重要な課題になっているといえる。
 このような状況を踏まえ,本編の特集では,近年の暴力団犯罪の動向及びその取締り等の現状の紹介に加えて,暴力団関係受刑者及び暴力組織関係保護観察付き執行猶予者の処遇を一層効果的なものにするための手がかりを得ることを目的として,暴力団関係受刑者の意識等に加えて,暴力組織関係保護観察付き執行猶予者の特性等についても調査し,分析を加えることとした。
 本編は,本章のほか,「第2章暴力団組織の動向」,「第3章暴力団犯罪の動向」,「第4章暴力団関係者の処遇」,「第5章暴力団関係受刑者の意識等」,「第6章暴力組織関係保護観察付き執行猶予者の実態」及び「第7章まとめ」の全7章で構成されている。
 本編記述に当たっては,各種の公刊されている統計資料等のほか,暴力団関係受刑者の組織への帰属意識,離脱に関する意欲,矯正施設内での暴力団離脱指導等に対する評価等を把握するため,収容区分としてB級(JB,YB及びLB級を含む。)の指定がある41の刑務所から出所する受刑者(2,825人)を対象に特別アンケート調査を実施したほか,保護観察付き執行猶予者のうち,[1]類型別処遇(第2編第5章第3節3(2)参照)において「暴力組織」類型に認定された者及び[2]保護観察開始当初に,遵守事項を守るための指示事項として,暴力組織に関する事項を指示された者を対象に,保護観察事件記録に基づく特別調査を実施しており,これらの結果については,第5章及び第6章で紹介している。