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 平成12年版 犯罪白書 第6編/第6章/4 

4 おわりに

 既に述べたところによると,いわゆるバブルの崩壊とされる時期ないしその数年後を境に,高度成長期やその後の好況期において見られていた所得税法違反や法人税法違反による検察庁新規受理人員の増加傾向が頭打ちになり,逆に,それまで低い水準で推移していた強制執行妨害,競売入札妨害や破産法違反による新規受理人員に増加傾向ないしその兆しが見られるなど,これら経済犯罪の動向は,その時点での経済情勢と密接に連動していることがうかがえる。
 また,独占禁止法違反や証券取引法違反による新規受理人員については,法執行機関における方針表明や法執行機関そのものの新設の時期以降,全般に増加方向での変化が見られる。経済犯罪は,企業における日常の経済活動に伏在してじゃっ起されることが多く,その認知は必ずしも容易ではないところであって,経済犯罪をその検挙や処罰という面から見る場合は,法執行のあり方自体が,その動向と連関していることがうかがえる。
 経済犯罪に対する検察庁の処理状況においては,起訴率が上昇しているものが少なくない一方,裁判所の科刑状況においては,全般に,比較的安定した傾向にあることが認められるが,法人等に対する罰金刑の上限を,行為者に対する罰金刑の上限と切り離して大幅に引き上げるという改正が,他の法律より先行して導入された証券取引法や独占禁止法については,法人に対して,高額な罰金刑が言い渡された例も既に見られるところであり,その後同様の改正が行われた他の法律に違反する罪についても,今後の推移が注目される。
 さらに特別調査の結果からは,企業活動をめぐる経済犯罪については,比較的小資本の企業にかかわる犯罪が多いものの,大資本の企業にかかわる犯罪にも軽視できないものがあることが,また,企業倒産をめぐる経済犯罪については,暴力団・右翼団体が競売妨害事案に深く関与しており,裁判所も,量刑上,これを考慮していることが認められた。
 我が国の今後の経済情勢には,なお予断を許さないものがあり,そうした不安定な経済情勢を背景としてじゃっ起される経済犯罪の動向にも,なお不確定な要素が多く含まれている。内外の経済の動きはまさに日進月歩であり,これに対応して,経済犯罪の処罰に関する法律についても,種々の改正が加えられてきているが,更に経済活動が複雑化・国際化していく流れの中で,海外の諸制度をも踏まえつつ,刑事政策上,種々の対策を講じることが必要になる。経済活動が健全かつ円滑に行われることは,安全で住み良い社会の基盤をなすものであり,経済犯罪に対する取り組みには,なお不断の努力を傾けることが要請されているといわなければならない。