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 平成12年版 犯罪白書 第6編/第1章 

第6編 経済犯罪の現状と対策

第1章 はじめに

 戦後の荒廃と混乱から立ち直った我が国経済は,好不況を繰り返しながらも,長期的に見ると飛躍的な発展を遂げてきた。昭和23年から平成10年までの50年間に,国民総生産は約190倍,一人当たり国民所得は約120倍に増加している(VI-1図参照)。

VI-1図 戦後の国民総生産の推移

 しかし,近年においては,いわゆるバブルの崩壊による土地・株式等の価格の急激な下落に見舞われ,実質経済成長率が,平成2年の5.1%から,3年には3.8%,4年には1.2%,5年には0.3%と低下し,10年にはマイナス2.3%と,暦年ベースでは,第一次石油ショックによる不況の昭和49年に続き戦後2回目のマイナス成長を記録し,平成11年もマイナス0.1%と厳しい状況が続いている。
 企業倒産件数は,平成3年以降ほぼ一貫して増加し,10年には2年の3倍近くに達した。11年には減少したものの,なお高い水準にある。負債総額も,3年及び9年に大幅な増加を示し,その後も高い水準で推移している(VI-2図参照)。こうした中,巨額の不良債権等を抱えた大手の銀行,証券会社その他の上場企業を含む大手企業の破綻も生じている。

VI-2図 全国企業倒産件数及び負債総額の推移

 このような経済状況の激変の中で,企業経営者,社員その他の関係者が各種経済法令違反等により刑事責任を問われる事件が社会の耳目を引き,その一方で,企業や金融機関の破綻に介入して不当な利益を得ようとする暴力団関係者等による競売入札妨害等も多数摘発されるなど,企業をめぐる経済犯罪の動向にも大きな変化が見られる。
 21世紀を目前に控え,情報通信技術が飛躍的に発達し,国境を越えた企業活動の活発化等経済活動のグローバル化が進展している。我が国でも,様々な分野において規制緩和を中心とする経済構造改革が進められ,事業機会の拡大を通じ,企業の積極的な活動による経済の活性化が求められているが,その一方で,自由経済社会においては,経済活動に関するルールの整備を行うことに加え,ルールに違反する者に対して,その行為の実態に即した厳正かつ適切な処罰を行っていくことが重要な課題となっている。
 このような状況を踏まえ,本特集では,経済犯罪に対する罰則の概要とその適用状況を概観するとともに,企業をめぐる経済犯罪及び企業倒産をめぐる犯罪の実態と処罰の実情を明らかにし,併せて諸外国における経済犯罪への対応の実情を概観することとした。
 本編の特集は,「第1章はじめに」のほか,「第2章経済犯罪の動向等」,「第3章企業活動をめぐる経済犯罪の実態と科刑状況」,「第4章企業倒産をめぐる犯罪の実態と科刑状況」,「第5章諸外国における経済犯罪の動向等」及び「第6章まとめ」の全6章で構成されている。
 この特集に当たっては,各種の公刊されている資料等を用いたほか,企業活動をめぐる経済犯罪の実態と科刑状況等を把握するため,法人税法違反,商法違反,証券取引法違反,独占禁止法違反,贈賄,競売入札妨害,商標法違反,著作権法違反及び廃棄物処理法違反により有罪判決の言渡しがあった事件並びに企業倒産にかかわる競売入札妨害により有罪判決の言渡しがあった事件のそれぞれについて事件記録に基づく特別調査を実施しており,これらの結果については,第3章及び第4章で紹介している。