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 平成12年版 犯罪白書 第6編/第4章/第1節/1 

第4章 企業倒産をめぐる犯罪の実態と科刑状況

第1節 企業倒産をめぐる犯罪の動向等

1 企業倒産をめぐる犯罪等に関係する法律

(1) 企業倒産をめぐる犯罪の処罰に関係する法律

 企業が債務を履行しない場合,確定判決その他の債務名義を有する債権者は,その企業の保有する財産に対して強制執行をすることにより,債権の回収を図ることができる。また,その企業等の保有する財産の上に担保権を有する債権者は,その担保権の実行としての競売を行い,その財産の価値の範囲内で優先的に弁済を受けることができる。さらに,その企業が支払不能等の倒産状態に陥った場合には,各種債務の処理をめぐって関係者の利害が対立することが少なくないことから,債権者による抜け駆け的な強制執行を禁止し,債権者間の公平を図るべく,破産手続,再生手続,更生手続等の法的倒産処理手続が設けられている。このうち破産手続は,企業が保有するすべての資産(破産財団)を現金化し,手続に参加した破産債権者に対して平等に配当を行うものである。
 これらの手続は,債務者の個別財産又は総財産を強制的に管理換価して,手続に参加した債権者に対して法律の規定に従った配当を行う債務処理手続であって,その円滑適正な実行を妨げるような行為については,刑事処罰を含めた法的対応が必要になる。
 例えば,強制執行を免れる目的で,財産を隠匿するなどした場合には,強制執行妨害の罪により,2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられるし,偽計又は威力を用いて競売の公正を害するような行為をした場合には,競売入札妨害の罪により,2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる。さらに,破産宣告がされた場合には,その確定を条件として,破産宣告の前後にかかわらず,債務者(破産者)が,自己の利益を図るなどの目的から,破産財団に属する財産を隠匿するなどしたときには,破産法違反の罪の中でも最も重い詐欺破産の罪により,10年以下の懲役に処せられる。
 その他,詐欺や背任等の犯罪行為が,企業倒産の縁由として介在することや,円滑適正な債務処理を妨げる手段として,暴行・脅迫や公正証書原本不実記載等の犯罪行為がなされることも少なくない。

(2) 破綻金融機関における不良債権の回収等に関係する法律

 近年,住宅金融専門会社その他の破綻金融機関における不良債権の回収が我が国の経済における大きな問題の一つになっている。
 こうした中で,特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法(平成8年法律第93号,以下,本章において「住専法」という。)により,平成8年7月,住宅金融専門会社の債権回収等を目的とする株式会社住宅金融債権管理機構(以下,本章において「住管機構」という。)が設立され,また,同年6月の預金保険法の一部改正を受けて,同年9月,株式会社東京共同銀行が改組され,破綻した信用協同組合の整理回収業務(同業務は,10年2月の預金保険法の一部改正により,信用協同組合以外の破綻金融機関に拡大された。)を主たる目的とする株式会社整理回収銀行(以下,本章において「整理回収銀行」という。)が発足した。さらに,同年10月の預金保険法及び住専法の一部改正を受け,11年4月,住管機構が整理回収銀行を吸収合併して,株式会社整理回収機構(以下,本章において「整理回収機構」という。)が発足し,整理回収機構は,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第132号)により,破綻の前後を問わず,金融機関全般から買い取った不良債権の回収等を行い得るものとされた。
 破綻金融機関における不良債権の回収等に関連する犯罪に関しては,刑事責任追及を厳格に行うため,住管機構,整理回収銀行,整理回収機構等の役職員に,告発に向けて所要の措置をとる義務が課されている。