第2章 経済犯罪の動向等
第1節 経済犯罪の処罰に関係する法律の整備 我が国における経済犯罪の処罰に関係する法律としては,所得税法,相続税法,法人税法,消費税法等の租税関係を規律する法律,商法,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律,証券取引法等の経済活動を規律する法律,特許法,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的所有権や競業関係を規律する法律等がある。 所得税法(昭和40年法律第33号)及び法人税法(昭和40年法律第34号)は,昭和40年3月,(旧)所得税法(昭和22年法律第27号)及び(旧)法人税法(昭和22年法律第28号)がいずれも全部改正されたことにより,相続税法(昭和25年法律第73号)は,25年3月,(旧)相続税法(昭和22年法律第87号)が全部改正されたことにより,それぞれ公布された。また,消費税法(昭和63年法律第108号)は,新規立法として,63年12月に公布された。これらの法律には,ほ脱行為や申告書等提出義務違反行為等に対する処罰規定が置かれており,ほ脱行為に対する処罰規定においては,懲役刑を科するほか,ほ脱税額等が一定の金額を超えるときは,情状により,そのほ脱税額等を罰金刑の上限の額にすることができるものとされている。 商法(明治32年法律第48号)においては,「第二編会社」の規定中に,特別背任罪,会社財産を危うくする罪,預合いの罪,株主の権利の行使に関する利益供与の罪等が規定されているが,平成9年12月の一部改正により,取締役等による特別背任罪等の懲役刑の長期が引き上げられたほか,株主の権利の行使に関する利益供与の罪に関して,利益供与の要求行為等についても,これを処罰する規定が新設された。また,12年5月の一部改正では,株主の権利の行使に関する利益供与の罪に関して,株主が株式を有する会社自体の計算によるものに加え,新たに,子会社の計算による利益供与も処罰するものとされた。 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下,本章において「独占禁止法」という。)は,新規立法として,昭和22年4月に公布された。独占禁止法には,私的独占,不当な取引制限等の競争制限行為,会社による株式保有の制限等の規制に違反する行為,確定審決違反行為等に対する処罰規定が置かれており,52年6月の一部改正では,事業者等が競争制限行為をした場合,当該事業者等である法人の代表者を処罰する規定が新設された。また,平成4年12月の一部改正では,私的独占行為及び不当な取引制限行為等についての両罰規定中,法人等に対する罰金刑の上限の額が,行為者に対する罰金刑の上限の額と切り離されて大幅に引き上げられた。なお,競争制限行為等に係る処罰規定においては,公正取引委員会の告発が訴訟条件になっている。一方,会社による株式保有の制限等の規制について,前記昭和52年6月の一部改正では,金融業以外の事業を営む株式会社による株式の取得に対する規制が強化されたが,平成9年6月の一部改正では,いわゆる持株会社の設立制限について,直罰方式から,違反者にいったん行政命令を発し,当該命令に違反した者を処罰する方式に改められた。 証券取引法(昭和23年法律第25号)は,昭和23年5月,(旧)証券取引法(昭和22年法律第22号)が全部改正されたことにより,公布された。証券取引法には,証券業の無登録営業行為等の証券取引にかかわる機関に対する規制に違反した行為,有価証券報告書等提出義務違反・虚偽記載行為等の証券取引に関する情報の開示に関する規制に違反した行為,相場操縦行為等の不公正な取引行為等の規制に違反した行為等に対する処罰規定が置かれている。規制対象となる取引の対象は,63年5月の一部改正により,有価証券指数等先物取引や有価証券オプション取引等が追加されるなど,数次にわたって拡張されている。また,平成4年6月の一部改正では,証券取引等に関する調査・告発権限を有する監視機構として,証券取引等監視委員会が新設されるとともに,有価証券報告書等提出義務違反・虚偽記載行為,相場操縦行為等についての両罰規定中,法人等に対する罰金刑の上限の額が,行為者に対する罰金刑の上限の額と切り離されて大幅に引き上げられた。処罰規定のうち,証券取引にかかわる機関に対する規制において,昭和40年5月の一部改正では,証券業が登録制から免許制に改められたが,平成10年6月の一部改正では,新たな登録制が採用された。証券取引に関する情報の開示に関する規制において,昭和46年3月の一部改正では,有価証券の公開買付制度に係る規制が,平成2年6月の一部改正では,5パーセントルールが,それぞれ導入された。また,不公正な取引行為等の規制において,前記昭和63年5月の一部改正では,インサイダー取引に対する規制が,平成3年10月の一部改正では,損失補てん行為等に対する規制が,それぞれ導入され,前記10年6月の一部改正では,インサイダー取引に対する規制の適用範囲が拡大されるとともに,相場操縦行為等に対する加重処罰規定及びこれらの行為により得た財産等を原則的に没収・追徴するとの規定が新設された。 特許法(昭和34年法律第121号)及び商標法(昭和34年法律第127号)は,昭和34年4月,(旧)特許法(大正10年法律第96号)及び(旧)商標法(大正10年法律第99号)の廃止とともに,それぞれ公布された。これらの法律には,特許権や商標権等の侵害行為,詐欺により権利の登録等を受ける行為,虚偽表示行為等に対する処罰規定が置かれている。これらの処罰規定における罰金刑の上限の額について,商標法においては,平成8年6月の一部改正により,特許法においては,10年5月の一部改正により,特許権や商標権等の侵害行為等についての両罰規定中,法人等に対する罰金刑の上限の額が,行為者に対する罰金刑の上限の額と切り離されて大幅に引き上げられた。また,特許法においては,特許権等の侵害行為に係る罪は親告罪とされていたが,前記10年5月の一部改正により,これを親告罪とする規定が削除された。 著作権法(昭和45年法律第48号)は,昭和45年5月,(旧)著作権法(明治32年法律第39号)が全部改正されたことにより,公布された。著作権法には,著作権や著作者人格権等の侵害行為,著作者でない者の実名等を著作者名として表示した著作物の複製物の頒布行為,著作物の出所の明示義務に違反する行為等に対する処罰規定が置かれている。保護の客体となる著作物について,60年6月の一部改正では,プログラムの著作物が,61年5月の改正では,データベースの著作物が,それぞれこれにあたるものであることが明文化された。処罰の対象となる行為について,前記60年6月の一部改正では,プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物につき,その複製物を使用する権原を取得したときから当該侵害の事実を知っていた者が,これを業務上電子計算機において使用する行為,63年11月の一部改正では,著作権等を侵害する行為によって作成された物につき,その侵害の事実を知っている者が頒布の目的で所持する行為,平成9年6月の一部改正では,レコード製作者等がそのレコード等を送信することを可能にする権利を侵害する行為が,それぞれ追加された。また,12年5月の一部改正では,著作権等の侵害行為等についての両罰規定中,法人等に対する罰金刑の上限の額が,行為者に対する罰金刑の上限の額と切り離されて大幅に引き上げられた。 不正競争防止法(平成5年法律第47号)は,平成5年5月,(旧)不正競争防止法(昭和9年法律第14号)が全部改正されたことにより,公布された。不正競争防止法には,他人の商品表示等と同一又は類似のものを使用して他人の商品等と誤認・混同を生じさせる行為,商品の原産地等につき誤認を生じさせる虚偽表示行為等に対する処罰規定が置かれている。前記5年5月の全部改正では,他人の商品表示等と同一又は類似のものを使用して他人の商品等と誤認・混同を生じさせる行為に対する処罰規定につき,それまで不正競争の目的で行われたものであることを要するとされていたのが,一般に不正の利益を得る目的があれば犯罪が成立するものと改められたほか,両罰規定における法人等に対する罰金刑の上限の額が,行為者に対する罰金刑の上限の額と切り離されて,大幅に引き上げられた。また,10年9月の一部改正では,外国公務員等に対して不正な利益を供与する行為等に対する処罰規定が新設された。
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