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 平成 5年版 犯罪白書 第4編/第1章 

第4編 交通犯罪の現状と対策

第1章 はじめに

 我が国においては,戦後,交通事故の発生件数及び死傷者数が激増したが,交通安全施設の整備等を含む総合的な交通事故防止対策の実施により,昭和44,45年をピークとして,その後減少傾向を示すに至ったものの,53年以降再び増加に転じ,平成4年には,交通事故の発生件数69万5,345件,死傷者数85万5,454人に達している。これは過去におけるピーク当時の数値に近接するものであり,憂慮すべき状況にある。
 これを反映して,平成4年における交通関係業過の検挙人員も63万8,045人に達しており,また,道交違反の取締件数も894万3,383件に上っている。交通犯罪の防止は,当面する重要な課題の一つといえる。
 ところで,交通事故や交通犯罪を防止し,道路交通の安全を確保するためには,道路や交通安全施設の整備,交通安全教育の普及等と並んで,交通関係法令の整備及びその適切な運用が不可欠であり,戦後我が国においては,このような交通犯罪に関する刑事政策上の観点から,種々の施策が講じられてきた。すなわち,戦後の交通犯罪の増加を背景として,大量に発生する交通犯罪を迅速に処理する観点から,昭和29年に,いわゆる三者即日処理方式が導入されたほか,38年に,いわゆる交通切符制度が導入された。また,交通関係業過につき悪質事犯が増加したこと等から,悪質重大事犯を犯した者に対する罰則を強化し,併せて一般予防的効果を上げる観点から,43年に刑法が一部改正されて,業過の法定刑の引上げ等がなされた。他方,道交違反のうち悪質危険性の低い行為については,行政機関の通告に基づく定額の反則金の納付により刑事訴追を行わないこととする観点から,42年に道路交通法が一部改正されて,交通反則通告制度が導入された。
 また,交通犯罪者の再犯を防止し,特別予防的効果を上げる観点から,矯正処遇において,昭和44年に,交通事犯禁錮受刑者を収容する本格的な開放的施設として市原刑務所が新設される一方,更生保護においても,52年に保護観察処分少年を対象とした交通短期保護観察の導入等がなされている。
 そこで,本白書においては,「交通犯罪の現状と対策」という標題の下に,交通関係業過及び道交違反を取り上げ,我が国におけるこの種事犯の最近の動向と背景を明らかにするとともに,処分や科刑の状況,交通犯罪処遇対象者の処遇の状況等を調査・分析し,さらに,これまで我が国で採られてきた交通犯罪に対する刑事政策を概観し,これらと諸外国における交通犯罪に対する法制度等を比較・検討することにより,交通犯罪の防止のために有効適切な対策を講じる上で役に立つ資料を提供しようと試みた。
 そのため,法務総合研究所において,各種の公刊されている統計資料等に基づく分析・検討を行うとともに,刑事処分に関する特別調査や交通犯罪処遇対象者に関する特別調査を実施し,その結果について分析・検討を行った。刑事処分に関する特別調査は,平成4年に東京地方(区)検察庁において処理された交通関係業過事件で,公判請求,略式命令請求あるいは起訴猶予に処された事件につき,事件記録に基づきサンプル調査を行うことにより,検察官の処分に影響を及ぼす交通犯罪の因子等を分析・検討したものである。また,交通犯罪処遇対象者に関する特別調査は,交通犯罪により交通事犯禁錮受刑者集禁施設に新たに収容された受刑者及び保護観察付執行猶予の言渡しを受けた者を対象に実施した実態調査及びアンケート調査の結果に基づき,矯正及び更生保護における交通犯罪処遇対象者の特質や意識を分析・検討したものである。
 これらの結果を踏まえて,第2章では交通犯罪の動向と背景について,第3章では,上記の交通犯罪に対する刑事政策や刑事処分に関する特別調査結果を含め,交通犯罪と刑事処分について,第4章では交通非行について,第5章では交通犯罪と矯正について,第6章では交通犯罪と更生保護について,第7章では,上記の交通犯罪処遇対象者に関する特別調査結果について,第8章では諸外国の交通犯罪について,それぞれ述べることとする。