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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第4章/第5節/1 

1 非行少年の特質

 [1] 非行少年は,一般少年に比して強い不適応感をもっている。
 すなわち,少年たちが,家庭,交友,地域・社会の各領域を通じて感じている総体的満足感を「今の自分の生き方に満足か」という形で尋ねたところ,非行群が一般群に比して,男女共に,満足度の低いことがわかった(「満足」とする者は,男子非行群39.9%,同一般群52.8%,女子非行群29.6%,同一般群45.9%である。)。
 また,非行群が日常感じている自分自身に対する意識を見ても,「世の中から取り残されている」,「自分だけが悪く思われている」,「自分は何をやってもだめな人間だ」がどの疎外,被害,落ご等の意識を強くもっており,このような意識は,非行の深まりに従って強まる傾向もうかがえた。
 また,家庭や地域において不満を感じている者に,その理由を尋ねてみると,非行群と一般群で質的な差が見いだせる。例えば,非行群で,家庭を不満とする者は,親の愛情・理解が不足している,あるいは,地域を不満とする者は,人々が干渉がましい,冷淡である,口うるさいとするなど,非行群の場合には,対人関係に不満の源泉が求められる場合が多く,一般群が家庭や地域において,例えば,家の周囲の環境が悪い,騒がしくて落ち着かないなど,物理的居住環境などで不満を感じているのと対照的である。
 (以上,本章第2節参照)
 [2] 非行少年は,親子関係で愛情欲求が満たされないために,これを友達関係,特に,異性関係において満たそうとしている。
 すなわち,一般群が父親,母親と親密な関係を維持し,友達関係では,年齢相応に同性との関係を主体にしているのに対して,非行群は,親子関係以上に友達関係に重きを置いた生活を送っている様子,特に,彼らにとっては,男女共に,異性の友達が重要な意味をもっていることがわかった。
 例えば,「親しい異性の友達」の有無を尋ねたところ,非行群は,一般群に比べて異性の友達を圧倒的に多くもっている(「親しい異性の友達」がいないとした者は,男子非行群9.5%,同一般群47.7%,女子非行群6.6%,同一般群44.7%である。)。
 さらに,非行群では,自分の将来について親に話しかけることが一般群に比して少なく,一方,気軽に話ができ,悩みを打ち明けられるなどの相手も友達であるとする者が多数であること,その場合に,一般群に比べて異性の友達を相手に選ぶ率が高いなど,対人関係における親密,信頼,依存,従順,同一視などの対象者として,一般群が両親及び同性の友達を優先させているのに対して,非行群は,男女共に,両親よりも友達,なかんずく異性の友達を優先させている。特に,非行群の女子では,相談できる身近な人物として,父親を常に最下位に置いているのに対して異性の友達を上位に置いていることは注目される。また,非行群が友達関係において,結び付きがより情緒的であるのに対して,一般群が一定の距離を置いた交際をすることもうかがえた。
 (以上,本章第3節12及び3参照)
 [3] 一般少年が健全娯楽的,教養的な幅広い余暇利用をしているのに対して,非行少年の余暇の過ごし方は,遊興的で幅も狭い。
 すなわち,非行群は,男女共に,一般群に比べて,自宅で過ごすよりも友達の家で過ごすことが多く,また,家族と共にあるいは一人で過ごすよりも友達と過ごすことが多いこと,さらに,一般群が各種の趣味やスポーツを楽しみ,勉強や習いごとをするなど余暇利用の幅が広く,教養的色彩が認められるのに対して,非行群では,「おしゃべりをする」,「パチンコやゲームセンターのゲームなどで遊ぶ」,「バイクや車で出かける」程度の範囲で余暇を過ごしており,遊興的色彩が強いことが知られた。余暇についての満足度は,一般群よりも非行群の方が高いが,非行群は,限られた余暇利用の仕方で満足感を味わっているといえる。
 (以上,本章第3節4参照)
 [4] 非行少年は,「ひょうきんさ」を好み,目先の楽しさを追い,自己を主張することが乏しい。
 すなわち,非行群がもっている日常的価値観や意見を見ると,「まじめさ」よりも「ひょうきんさ」をよしとし,あえて自己主張はせず,努力よりもその日を楽しく生活したいとするなど幾つかの安易な特徴が見られ,また,非行群は,男は外で働き女は家庭を守るべきである,自然保護よりも生活の利便性が大切であるなどの意見を一般群よりも強くもっている。ただし,総じて,非行群の価値観・意見と一般群のそれとの隔たりはさほど大きなものではない。
 (以上,本章第4節1参照)