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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第6章/第2節/2 

2 最近の多数回前科者の特徴と問題点

 累犯者のうち更に犯罪傾向の進んだ多数回前科者は,4万5,755人であり,前科者総数の0.8%にすぎないが,多数回前科者の犯した犯罪は,前科者総数の犯した全犯罪の6.2%を占めている。また,多数回前科者については,過去に科せられた刑罰の種類により,自由刑又は財産刑のいずれか一方の刑だけを受けてきた者,自由刑と財産刑を織り交ぜて受けてきた者(その中でも自由刑の多い者から少ない者まで様々である。)がある。そして,前科10犯から20犯くらいまでは,全前科が自由刑の者から財産刑の者まで大体同じような人数でほぼ平均的に分布しているが,20犯を超えると,前科数が増えるに従って財産刑の前科の多い者の比率が高くなっている(第3章第1節参照)。前科の最も多い者は,罰金前科89犯であり,自由刑だけに限ると懲役前科35犯である。
 これらの多数回前科者について,更に多数回受刑者等の資料をも付加して,その犯した罪種等により分類すると,主として次のような類型に区分することができる。
 (1)まず,主として暴行,傷害などの粗暴犯や殺人,強盗などの凶悪犯を繰り返して,罰金(粗暴犯の場合に限る。)や懲役刑を多数回受けている累犯者の一群がある。ただ,凶悪犯を犯す者については,犯罪経歴の初期の段階から同種犯罪を反復する者は少なく,大部分の者は窃盗などの財産犯等を累行しながら,前科を重ねるにつれて,凶悪犯を繰り返すに至るものであり,また,粗暴犯については,初期の段階から同種の犯罪を犯している者もいるほか,財産犯等を反復しながら粗暴犯を繰り返すに至る者も多いことが明ら,かにされている(第3章第3節3第4章第2節2参照)。性犯罪や放火犯の累犯者も,同様のことが認められ,当初は,財産犯等を犯していた者が多い。これらの粗暴犯や凶悪犯の多数回前科者は,性格の偏りのある者,アルコール依存や精神障害のある者が少なくなく,人格的要因の犯行へのかかわりが大きいと言えるのであり,また,暴力団関係者も相当多数含まれている。
 (2)主として,詐欺や窃盗などの財産犯を繰り返し,懲役刑を多数回受けている累犯者のグループがある。この財産犯を反復する累犯者は,多数回前科者の中でも,前述の粗暴犯の累犯者に次ぐ多数のグループとなっている。これらの財産犯の累犯者は,前科の回数を重ねるにつれ,すり,侵入盗などの職業的な盗犯と,置き引き,さい銭盗,無銭飲食などの比較的軽微な財産犯を累行する者に分かれてくる(第4章第2節1参照)。前者の職業的な盗犯は,後者と比べ,共犯者のある者が少なくなく,犯行動機も利欲からのものが多く,被害規模も多額のものが見られるなど,顕著な差異を示している。
 (3)また,覚せい剤事犯を繰り返し,罰金刑又は懲役刑を何回も受けている累犯者がいる。ただ,この類型に属する者も,当初は,財産犯や粗暴犯を反復していたが,その後に覚せい剤事犯を繰り返すに至った者が大部分である(第4章第2節3参照)。これらの者は,覚せい剤の密売又は自己使用等の犯行態様を問わず,薬物への依存性のある者が多く,また,暴力団関係者も多数含まれており,その中には資金源として覚せい剤の密売をしている者も多い。
 (4)船舶安全法,船舶職員法,風俗営業等取締法,売春防止法等の特別法違反を繰り返し,罰金刑を多数回受けている累犯者がいる。この類型の者は,適法又は違法な営業等を行う者やその従業者等であり,それらの営業又は職業的行為の過程で,取締法規に違反する者であって,伝統的な犯罪の累犯者とは性質を異にするものである(第3章第5節参照)。その他,財産刑の多数回前科者には,毒物及び劇物取締法,軽犯罪法,鉄道営業法などの各違反を繰り返す者も多い。
 次に,これらの多数回前科者等の特徴について述べることとする,
 第一に,先に述べたとおり,多数回前科者には,同一犯罪のみを繰り返す者は少なく,財産犯から粗暴犯や凶悪犯,財産犯等から性犯罪,財産犯や粗暴犯から覚せい剤事犯に移行するように,むしろ,機会に応じて多種類ないし異種類の犯罪を行っていることが注目される(第3章第3節3参照),
 第二に,多数回前科者は,一部の傷害,覚せい剤事犯,その他の特別法違反を犯す者等を除いて,一般的に,知能や教育程度は低く,精神障害のある者が少なくなく,住居,家庭,経済状態に恵まれない者が多いという特徴がある(第4章第1節2(3),(4)参照)。これらの者については,その犯罪傾向の進度のほか人格的特性等のために,矯正及び保護における処遇に困難な面があり,また,矯正施設から釈放された場合に,適切な身柄引受人がなく,更生保護会に帰住する者が多いが,概して保護観察の期間が短く,釈放後の更生保護の面においても問題のある者が多い。
 第三に,多数回前科者には,犯罪の初発年齢が25歳未満である者が総数の約7割7分と圧倒的な多数を占めており,初発年齢が若年であるほど長期間の犯罪生活を送る傾向がある(第3章第2節1参照)。ただ,多数の特別法違反を繰り返す者の中には,初発年齢の比較的高い者もあるが,これは,年齢が進んだ段階で,職業的又は営業的行為を始め,取締法規違反を繰り返すに至る者がかなりいるためであろう。
 第四に,多数回前科者のうち,最終刑時から5年を経過しているのに再犯をしていない者が4割強もあり,40歳以上の高年齢になるにつれて犯罪から足を洗う者も多くなってくる。ただ,このような再犯をしない者も,初発年齢が30歳未満の者や,罰金等の財産刑より懲役・禁錮の自由刑を受けた回数の多い者では,その比率が低くなっている(第3章第6節参照)。