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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第4章/第1節/2 

2 概  況

(1) 入所度数及び年齢
 調査対象者2,159人について,入所度数別人員についての本刑及び初入刑入所時における年齢層別構成比を見るとIV-43表のとおりである。総数では,入所度数10度が510人(23.6%),11度が406人(18.8%),12度が327人(15.1%),13度が239人(11.1%),14度が175人(8.1%)となっており,入所度数が多くなるに従って人員,構成比共に低下して,15度以上は502人(23.3%)となり,25度以上は27人(1.3%)となっている。最も入所度数の多い者は34度の1人であり,次いで33度の2人である。
 本刑入所時の年齢層別構成比を見ると,総数では50歳代が48.4%(1,044人)と最も高く,次いで40歳代の26.1%(563人),60歳代の19.6%(424人),70歳以上の3.9%(84人)であり,50歳以上の者の構成比は71.9%にも上っている。入所度数別人員中に占める50歳以上の者の構成比を見ると,10度では56.9%,11度で62.6%,12度で71.6%,13度で77.8%,14度で83.5%,15度から19度では85.9%,20度から24度では94.1%,25度以上では全員が50歳以上となっており,入所度数が多くなると高年齢層の占める比率が高くなる傾向が明確に現れている。

IV-43表 多数回受刑者の入所度数別の本刑時及び初入刑時の年齢層別構成比

 対象者全員について初入刑の入所時年齢を見ると,20歳未満が25.1%,20歳から24歳までが49.6%,25歳から29歳までが14.3%,30歳から34歳までが5.7%,35歳以上が3.6%となっており,25歳未満で入所した者が合計74.7%を占めていて,多数回受刑者となった者には,若くして犯罪を犯した早発性の犯罪者が多いことが注目される。なお,対象者は,昭和20年代から30年代に初めて刑務所に入所したものが大多数(総数の78.0%)を占めているが,当時は,近年と比較して,初入の新受刑者総数に占める20歳未満の者の比率は高く,例えば35年では6.1%(61年では0.7%)に上っていたことに注意する必要があろう。対象者全員の男女別では,男子が2,118人(98.1%)であるのに対し,女子は41人(1.9%)であり,矯正統計年報によると,61年12月末における全刑務所の収容総人員中に占める女子の比率は4.2%であるから,これと比較すると,多数回受刑者に占める女子の比率は相当低いことを示している。
(2) 罪  名
 多数回受刑者は,10度以上入所するに至るまでにどのような犯罪を繰り返し犯してきたのであろうか。対象者全員について,初入刑時,2入刑時,前刑時及び本刑時における各入所原因となった犯罪の罪名を見るとIV-44表のとおりである。
 まず,本刑時について罪名別構成比を見ると,窃盗が59.7%と多数を占め,次いで,詐欺が13.5%,覚せい剤取締法違反(以下,本章において「覚せい剤事犯」という。)が9.4%,強盗が2.9%,傷害・暴行が2.6%,殺人が2.2%,暴力行為等処罰法違反が2.1%などとなっている。窃盗と詐欺を合わせると総数の73.2%を占めている。
 なお,女子について,本刑時の罪名別構成比を見ると,窃盗が80.5%(33人)で,次いで覚せい剤事犯が7.3%(3人),放火が4.9%(2人),強盗,詐欺,売春防止法違反が各2.4%(1人)となっており,女子では窃盗の比率が男子の割合(59.3%)に比べて著しく高いことが特徴的である。
 罪名について初入刑時から本刑時までを通して見ると,構成比が最も高いのは窃盗であり,初入刑時が71.7%,2人刑時が67.5%,前刑時が59.4%,本刑時が59.7%で,常に59%以上を占めている。次いで高いのは詐欺であるが,初入刑時,2入刑時ではそれぞれ9.6%,12.9%であるのに対して,前刑時で15.0%,本刑時で13.5%とその比率が高くなっている。このように,財産犯(本章では,窃盗及び詐欺をいう。)は,初入刑時から本刑時まで常に7割以上を占め,その比率が特に高い。覚せい剤事犯は,本刑時では9.4%と比較的高くなっているが,初入刑時では0.4%,2入刑時では0.5%にすぎず,前刑時から9.0%と急激に増加している。その他,粗暴犯(本章では,傷害,暴行,暴力行為等処罰法違反,恐喝及び脅迫をいう。)の比率も少なくなく,これらの罪名と覚せい剤事犯で入所した者には,暴力団関係者が比較的多い。なお,多数回受刑者の中には,凶悪犯(本章では,殺人及び強盗をいう。)を犯した者も少なからず含まれている(本刑時で5.1%)。
 本刑時における入所罪名のうち主なものについて,本刑時の罪名と初入刑時,2入刑時,前刑時の各罪名とがそれぞれ一致する比率を見るとIV-45表のとおりである。
 まず,本刑時の罪名が窃盗の者についての一致率は,初入刑時で83.2%,2入刑時で81.6%,前刑時で86.0%となっており,入所回数の時期にかかわらず高い一致率となっている。次に,本刑時の罪名が詐欺の者についての一致率は,初入刑時は35.1%であるのに,2入刑時で51.5%,前刑時では81.4%に増加しており,当初は,他の罪名で入所していた者であっても,入所回数が多くなると詐欺を犯す者が多くなるという傾向が見られる。また,窃盗又は詐欺で入所した者の合計は,本刑時では1,580人(総数の73.2%)となるが,初入刑時で74.3%,2入刑時で76.1%,前刑時で85.2%となっており,窃盗又は詐欺を犯す者は,同種の犯罪を繰り返す者が多いことを示している。これに対して,本刑時が覚せい剤事犯である者について,過去のそれぞれの入所時にも同じ罪名であった者は,初入刑時及び2入刑時ではそれぞれ4.4%及び2.9%と極めて少ないのに,前刑時では75.5%となっており,初入刑時,2入刑時には覚せい剤に関係していなかった者が,最近において覚せい剤事犯を犯すようになってきたことを示している。その他の罪名では,本刑時と前刑時との各罪名の一致率で,放火の42.4%,強姦・強制猥褻の25.0%,傷害の20.4%が比較的高いものの,全体としては一致率は更に低い数値となっている。

IV-44表 多数回受刑者の入所時別・罪名別構成比

IV-45表 多数回受刑者の本刑時罪名と前刑時・2入刑時・初入刑時の各罪名とが同一である者の比率

(3) 人格特性
 次に,多数回受刑者の人格特性を見ることとする。IV-46表は,対象者について,本刑時の主な罪名別に,知能指数,精神障害,教育程度及び性癖を見たものである。
 知能指数は,総数では,IQ69以下の低知能の者が60.1%と多数に上っており,普通知能(IQ90〜109)以上の者は9.2%にすぎない。罪名別にIQ69以下の者の比率を見ると,放火(81.8%)や強姦・強制猥褻,殺人(いずれも70.8%)において極めて高く,また,窃盗では61.9%,詐欺では62.5%といずれも多数を占めている。一方,覚せい剤事犯(45.1%)や傷害(53.7%)ではIQ69以下の者の比率は比較的低い。
 精神状況について見ると,総数では16.5%の者に精神障害があり,その内訳は精神薄弱が8.0%,精神病質が5.O%,神経症が0.1%,その他の精神障害(精神病等)が3.4%となっている。ちなみに,昭和61年の矯正統計年報によると,同年の新受刑者の精神診断によれば,総数では4.3%の者に精神障害があり,その内訳は精神薄弱が2.1%,精神病質が1.0%,神経症が0.2%,その他の精神障害が1.0%となっており,これと比較すると,多数回受刑者の精神障害率は約4倍の高さとなっているほか,精神薄弱と精神病質の割合が特に高くなっているのが特徴的である。対象者の罪名別人員中における各精神障害の割合を見ると,精神薄弱の比率は,放火(15.2%),窃盗(10.8%)において高く,覚せい剤事犯(0.5%),傷害(3.7%),詐欺(3.8%)では低くなっている。精神病質の比率は,殺人(14.6%),放火(12.1%)において際立って高く,覚せい剤事犯(2.9%),窃盗(4.2%)では低くなっている。

IV-46表 多数回受刑者の本刑時罪名別の知能指数・精神障害・教育程度・性癖別構成比

 教育程度について見ると,総数では,小学校程度が29.9%,中学校程度が55.7%,高等学校程度が11.6%,大学程度が1.5%となっており,中学校程度以下の者で85.6%を占めており,学歴の低い者が多い。これを罪名別に見ると,小学校程度の比率は,殺人(56.3%),放火(45.5%)で極めて高く,高等学校程度以上の者では詐欺(17.9%),強姦・強制猥褻(16.7%),覚せい剤事犯(16.2%)などで比較的その比率が高くなっている。
 性癖については,対象者全体では,アルコール依存症が22.8%,薬物依存症が10.1%,ギャンブル癖が7.7%となっている。これを罪名別に見ると,アルコール依存症の比率は,詐欺で48.5%と半数近くを占め,次いで傷害で42.6%,殺人で35.4%となっている。麻薬や覚せい剤などの薬物依存症の比率は,当然のことながら覚せい剤事犯で76.5%と圧倒的に高く,その他の罪名では,傷害(13.0%),強盗(8.1%)などにおいて比較的高い。ギャンブル癖は,対象者の総数中では,アルコール依存症や薬物依存症と比べるとその比率は低いが,罪名別では,窃盗で10.8%と1割を超え,強姦・強制猥褻て8.3%,強盗では8.1%となっている。
 ここで人格特性を把握する一つの指標として,法務省式人格目録(法務省が開発した一種の性格検査)により,対象者について,本刑時の入所罪名に基づく罪種により,財産犯,粗暴犯,凶悪犯,覚せい剤事犯別に性格を見たのがIV-1図である。性格の各領域を示す13尺度(虚構,偏向,自我防衛の3尺度は検査結果の信頼性を見るものである。)について罪種間の比較をすると,財産犯,粗暴犯,凶悪犯に共通した特徴として,偏向,心気症,抑うつ,偏狭の4尺度で標準より高い得点が出ており,これを具体的に述べると,神経質で,ささいなことで気が沈みやすく,被害感や不信感が強いといった傾向がうかがえ,やや暗い感じの人格像が浮かんでくる。また,粗暴犯では爆発尺度で,凶悪犯では不安定と爆発尺度でそれぞれ得点が高く,これらの罪種を犯した者は,短気で気分の変化が起きやすい性格であることがうかがえる。一方,覚せい剤事犯は,各得点いずれもおおむね標準域にあり,特徴的な性格の偏りは見られない。

IV-1図 多数回受刑者の罪種別性相プロフィール

 暴力団関係者の人員を調査すると,法務省矯正局の調べによる昭和61年末における全刑務所の収容人員総数中に占めている暴力団関係者の比率は,30.2%と極めて高いが,対象者の多数回受刑者においては,暴力団関係者の割合は比較的低い(本刑時で見ると,166人で,総数の7.7%である。)。しかし,その組織内に占める地位は,この166人のうち,組長が17.5%,幹部が42.2%も存在しており,その地位による影響を考慮すれば,軽視できないものがある。
(4) 入所前の生活状況
 多数回受刑者の入所前の生活状況について初入刑時,2入刑時,前刑時,本刑時別に見たのがIV-47表であり,本則時の入所罪名別に見たのがIV-48表である。
 まず,居住形態を単身生活と同居生活に分けて見ると,対象者総数については,初入刑時では,単身生活が59.6%,同居生活が40.4%であり,単身生活が半数を超えているが,入所回数を重ねるうちに単身生活の比率が高くなり,本刑時では単身生活が81.0%,同居生活が18.9%となっている。単身生活者の生活形態を見ると,定住者の比率は常に20%前後で,入所回数が増加してもほとんど変化が見られないのに対し,単身生活者の数が増えるのに応じて,住所不定者の割合は,初入刑時で40.5%,2入刑時で44.2%,前刑時で59.3%,本刑時で60.1%と増加し,入所回数を重ねるごとに定住場所のない者が多くなることを示している。これを,本刑時の罪名別に見ると,住所不定者の比率は,詐欺(79.8%),強盗(70.7%),放火(69.7%),窃盗(66.3%)などで高くなっている。次に,同居生活者について見ると,対象者総数では,親と同居している者は,初入刑時で28.4%であるが,前刑時では2.7%,本刑時では1.8%と極端に少なくなっている。また,内妻や愛人と同居している者は,初入刑時では1.5%にすぎないが,本刑時では6.5%とわずかながら増加している。もっとも,これを本刑時の罪名別に見た場合には,内妻や愛人と同居する者の比率が高いのは,覚せい剤事犯(21.4%)と傷害(17.0%)で入所した者であり,他の罪名で入所した者では,その比率が低く際立った差異を示している。

IV-47表 多数回受刑者の入所時・入所前生活状況別構成比

IV-48表 多数回受刑者の本刑罪名・生活状況別構成比

 配偶者の有無を見ると,注目すべきは,未婚者の比率の高さである。対象者総数について,初入刑時において未婚者が88.6%であるのは,初入刑時年齢20歳未満の者が25.1%,20歳から24歳までの者が49.6%にも上っていることから当然であるとしても,本刑時では,40歳以上の者が98.0%を占めるにもかかわらず,51.9%の者が未婚となっているのである。特に未婚者が多いのは,本刑時では放火(72.7%),強盗(60.7%),窃盗(57.2%)で入所した者であり,逆に,未婚者が少ないのは覚せい剤事犯(28.5%)で入所した者である。一方,婚姻歴のある者は,対象者の総数では,本刑時において48.1%(1,015人)であるが,そのうち離別した者が68.7%(697人)にも上り,同居の者はわずかに14.9%(151人)にすぎない。また,本刑時において未婚の者と婚姻歴がありながら離別した者との合計は,全体の85.0%を占めている。このように,多数回受刑者は,素質や家庭環境などに複雑な問題を数多く抱える者たちであると言えよう。
 家族との関係について見ると,対象者総数について,既に初入刑時において「家族の困り者」が54.6%,「家族から見放されている者」が15.8%を占め,当初から家族にとって歓迎されない者が相当多数に上ることをうかがわせるが,他方,「家族から頼りにされている者」及び「家族とうまくいっている者」が19.7%もいる。ところが,前刑時及び本刑時について見ると,「家族の困り者」はいずれも14.7%に減少する反面,「家族から見放されている者」が前刑時で55.9%,本刑時で50.6%と半数を超えるに至っている。
 また,「一家離散の者」が初入刑時で6.3%,本刑時で15.3%にも上り,「天涯孤独の者」も初入刑時が3.6%,本刑時が11.7%となっているなど,次第に家族との結び付きが希薄になり,あるいは,断絶する者が多くなっている。
 入所前の職業について見ると,対象者総数については,本刑時では無職の者の比率が77.0%と大多数を占め,また,就業している者では,建設土木が10.9%,単純作業が3.3%,サービス業が3.0%となっている。入所時別に無職者の比率を見ると,初入刑時が58.5%,2入刑時が59.1%,前刑時が73.0%,本刑時が77.0%と入所回数が多くなるとその比率は高くなっているが,初入刑時において,既に半数を超えていることが注目される。これを本刑時の入所罪名別に見ると,無職者の比率が高いのは,詐欺の87.6%,窃盗の79.7%,強盗の78.3%であり,最も低いのは傷害の53.7%である。
 なお,対象者中の女子の本刑入所前における生活状況は,住所不定の者が34.1%(男子は60.7%),未婚の者が45.0%(同52.0%),「家族の困り者」と「家族から見放されている者」が67.7%(同65.3%),「一家離散の者」と「天涯孤独の者」が19.4%(同27.1%),無職の者は80.5%(同76.9%)となっている。
 以上のように,多数回受刑者に係る本刑入所前の生活状況の特徴は,[1]大多数の者は,家族から見捨てられ又は一家離散して孤立し,頼るべき身内の者がいないこと,[2]未婚の者が半数を超え,また,婚姻しても離別した者が7割弱を占めるなど,人生の伴りょに恵まれていないこと,[3]その多くは住所不定者であり,また,高年齢であること,[4]初入刑時からの無職者が多いことなどであり,家庭環境や生活状態が悪化しているのが特徴的である。