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令和6年版 犯罪白書 第7編/第2章/1

1 女性犯罪者をめぐる刑事政策の動向

まず刑法犯の動向について見ると、刑法犯の検挙人員は、昭和25年に戦後最多の60万7,769人を記録した後、緩やかな減少傾向にあり、55年から59年まで増加傾向に転じたものの、再び、緩やかな減少傾向を経て、平成13年から増加に転じ、16年には38万9,027人を記録したが、17年からは減少傾向にある(1-1-1-1図参照)。一方、女性の刑法犯の検挙人員は、昭和25年、39年、58年をピークとする三つの波を描いて推移した後、平成17年に戦後最多の8万4,162人を記録し、18年からは減少傾向にある。刑法犯の検挙人員のうち平成元年以降の20歳以上の女性について見ると、2年に最も少ない2万5,737人を記録した後、翌年からは増加傾向にあり、18年には5万5,537人とピークを迎え、翌年からは減少傾向が続いており、令和5年は3万6,499人であった(4-7-1-1図参照)。

さらに、刑事施設の状況に目を向け、平成元年以降の刑事施設における被収容者の収容率(収容人員の収容定員に対する比率)の推移について見ると、5年以降増加し、13年以降18年までは100%を超えていたものの、翌年から100%を下回り、低下している。刑事施設における被収容者のうち女性被収容者の年末収容人員を見ると、同じく5年以降増加し、23年に5,345人とピークを迎えた後、翌年からは減少に転じ、令和5年は3,502人であった。なお、女性被収容者の収容率の推移を見ると、平成13年以降18年までは収容率が100%を超えており、その後も24年までは既決の収容率が100%を超えていたが、翌年からはいずれも低下傾向にあり、令和5年の収容率は53.1%であった(既決60.3%、未決32.1%)(CD-ROM資料2-5参照)。このように、平成25年以降、女性の刑法犯の検挙人員及び女性被収容者の年末収容人員はいずれも減少傾向にあり、収容率も低下傾向にある。

平成元年以降の女性入所受刑者の罪名別人員について見ると、23年までは、覚醒剤取締法違反の構成比が最も高く、次いで、窃盗の順であったが、24年以降は、窃盗が覚醒剤取締法違反を上回るようになり、令和5年には窃盗823人、覚醒剤取締法違反359人と、窃盗の人員が覚醒剤取締法違反の人員を大幅に上回っている(4-7-2-4図及び7-3-3-2図参照)。また、女性入所受刑者総数に占める65歳以上の人員の構成比を見ると、平成元年以降上昇傾向にあり、22年には10%、令和4年には20%を超え、5年は22.7%であった(4-7-2-5図及び7-3-3-1図参照)。

このような中、刑事政策の動きについて見ると、平成24年に行われた犯罪対策閣僚会議では「近年における女性受刑者の増加に対し、薬物事犯者の占める割合の高さや高齢者における窃盗の占める割合の高さ等、女性に特徴的な傾向を分析し、更に効果的な指導・支援方策を検討する。また、過去の被虐待体験や性被害による心的外傷、摂食障害等の精神的な問題を抱えている者に対し、社会生活への適応のための支援方策を検討する。」とされ、女性特有の問題に着目した指導及び支援が再犯防止のための重点施策の一つとして掲げられた。翌25年には、女子刑務所のあり方研究委員会が発足し、26年度から、地域の医療・福祉等の専門家の協力を得ながら女性受刑者特有の問題に着目した処遇を行う、女子施設地域支援モデル事業を開始した。同モデル事業は、29年度から、女子施設地域連携事業として女性刑事施設10庁において実施されるに至った。同年12月には、再犯防止推進法に基づく再犯防止推進計画が閣議決定され、女性の抱える問題に応じた指導等の充実を図るよう求められており、特に、虐待等の被害体験や性被害による心的外傷、摂食障害等の精神的な問題等を抱える女性に配慮した指導や、関係機関等と連携した社会復帰支援等を行うこととされた。令和5年3月に閣議決定された第二次再犯防止推進計画においても、女性受刑者等は、妊娠・出産等の事情を抱えている場合があること、虐待等の被害体験や性被害による心的外傷、依存症・摂食障害等の精神的な問題を抱えている場合が多いことなどから、これらの困難に応じた指導・支援のほか、矯正施設在所中から関係機関等と連携した切れ目のない社会復帰支援等を行うこととされた。

そして、女性による犯罪のうち多くを占める窃盗及び覚醒剤取締法違反に関連する法律の状況について見ると、平成18年4月、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成18年法律第36号)が成立し、同年5月に施行された。同法は、窃盗等の犯罪に関する情勢等に鑑み、これらの犯罪に適正に対処するために刑法等を改正したもので、窃盗等の罪に罰金刑が新設されるなどした。また、25年6月に成立した刑法等の一部を改正する法律(平成25年法律第49号)及び薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成25年法律第50号)により、刑の一部執行猶予制度が新設され、28年6月から施行された。これにより、薬物事犯者等について、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、その刑の一部の執行を猶予することができるようになった。さらに、女性犯罪者に対する処遇に関する大きな変更として、売春防止法(昭和31年法律第118号)5条(勧誘等)の罪を犯して補導処分に付された満20歳以上の女性は、婦人補導院に収容されることとなっていたが、令和4年5月に成立した困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和4年法律第52号)により、売春防止法が改正されて補導処分の規定が削除され、婦人補導院も6年4月1日に廃止された。

7-2-1表 女性犯罪者をめぐる刑事政策の動向等
7-2-1表 女性犯罪者をめぐる刑事政策の動向等