女性の刑法犯の検挙人員は、平成18年以降減少傾向にあり、令和5年は3万9,370人と、平成17年の約2分の1であった(7-3-1-1図参照)。また、女性入所受刑者の人員は、平成19年以降減少傾向にあり、令和5年は1,486人と、平成18年の約5分の3であった(7-3-3-1図参照)。このように、女性の刑法犯の検挙人員及び女性入所受刑者の人員はいずれも減少傾向にあるものの、他方で平成元年以降の女性入所受刑者の再入者率を見ると、3年まで上昇し49.9%となった後、翌年以降低下傾向となり、16年には28.4%まで低下したものの、翌年から令和元年まで再び上昇傾向に転じ、以降も高止まりの状況にある(5-3-1図参照)。
これまで女性犯罪者に関しては、再犯防止に向けた総合対策(平成24年7月犯罪対策閣僚会議決定)において、女性特有の問題に着目した指導及び支援を強化することが重点施策の一つとして掲げられていたほか、再犯防止推進計画(平成29年12月15日閣議決定)においては、犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等のための取組として、女性の抱える問題に応じた指導等を行うこととされ、続く第二次再犯防止推進計画(令和5年3月17日閣議決定)においても、女性受刑者等の困難に応じた指導・支援のほか、矯正施設在所中から関係機関等と連携した切れ目のない社会復帰支援等を行うことが求められている。
法務総合研究所では、女性犯罪者に関し、平成4年版犯罪白書特集「女子と犯罪」、平成25年版犯罪白書特集「女子の犯罪・非行」等において、公的統計に基づいた動向分析等を行ってきたところであるが、いずれも各調査時点から相応の年数が経過している。各調査時点以降の女性入所受刑者の罪名別人員及び年齢層別人員に着目すると、まず、女性入所受刑者総数に占める窃盗及び覚醒剤取締法違反の人員の合計の割合は、平成25年には8割を超え、以降も高止まりが続いている。また、23年までは覚醒剤取締法違反の人員が窃盗の人員を上回っていたものの、翌年以降は逆転している(7-3-3-2図参照)。さらに、女性入所受刑者総数に占める65歳以上の比率を見ると、平成21年までは10%以下であったものの、令和5年には22.7%と大幅に上昇している(7-3-3-1図参照)。このように、各調査時点以降の女性入所受刑者の傾向にも変化が見られる。
そこで、特に女性犯罪者の再犯防止や円滑な社会復帰に着目し、近年における女性犯罪者の実態及びそのニーズを把握するため、受刑者等(女性受刑者に加え、比較対象のための男性受刑者等を含む。)を対象とする特別調査を行い、男性受刑者との比較による分析に加えて、女性受刑者の入所罪名の多くを占める窃盗事犯及び薬物事犯という二つの犯罪類型に着目し、分析を行うこととした。
本特集は、前記特別調査の結果に加え、各種統計資料に基づく女性による犯罪の動向や、女性犯罪者に対する処遇・支援の現状を紹介することで、女性犯罪者に対するより効果的なアセスメントや処遇・支援の在り方等の検討に資する資料を提供することを目指した。本特集は、女性受刑者に見られる傾向・特徴と女性犯罪者の再犯等との因果関係を示すことを狙いとしたものではない。女性受刑者に見られる傾向・特徴は、女性犯罪者が抱えていると考えられる様々な背景事情と関連し、それが心理面や社会生活に影響を及ぼしているのではないかとの問題意識に立ち、女性犯罪者の再犯防止又は円滑な社会復帰を図る上で留意すべき点を整理することにより、女性犯罪者に対する処遇・支援の在り方を考えるための基礎資料を提供することを目的としている。
本編の構成は、以下のとおりである。
第2章では、女性犯罪者をめぐる刑事政策の動向及び近年の社会生活の状況を概観する。女性犯罪者の処遇・支援の在り方を考えるに当たっては、刑事政策の動向、すなわち現在の女性犯罪者に対してどのような施策に基づく処遇・支援が行われているかを知る必要がある。さらに、第5章で特別調査の結果を基に女性受刑者の生活状況や周囲との関わりを見るための前提として、近年の社会生活の状況、すなわち14歳以上の年齢層別人口の推移、年齢層別就業率及び雇用形態別構成比の推移、並びに世帯構造別世帯数及び高齢者の家族形態別構成比の推移等をいずれも男女別に紹介する。
第3章では、各種統計資料に基づき、刑事手続の各段階における女性による犯罪の動向等を概観する。なお、第4編第7章の「女性による犯罪・非行」は、主として令和5年の女性による犯罪・非行の動向を中心として紹介しているのに対し、本章は、近年の女性による犯罪の動向を経年で比較するとともに男女別に見ることで、女性犯罪者の実態を明らかにすることを目指した。
第4章では、女性犯罪者に対する施設内及び社会内での処遇・支援の現状を紹介する。
第5章では、特別調査の結果を踏まえ、主として男性受刑者との比較により、女性受刑者の意識や実情に係る傾向・特徴を明らかにする。その上で、女性受刑者の中でも割合が高く、かつ女性犯罪者に特有の問題点や特徴が見受けられる薬物事犯者及び窃盗事犯者について、それぞれ比較・分析を行った結果等を紹介する。その際、薬物事犯者については、生活状況及び交友関係の二つの側面から、窃盗事犯者については、経済的状況及び周囲との関わりの二つの側面から、それぞれ特徴的な傾向が見られた項目について取り上げる。
以上を踏まえ、第6章では、近年の女性犯罪者の特性等を踏まえた処遇・支援の更なる充実に向けた課題や展望等について総括する。