「少年非行は、社会を映す鏡」などといわれることがある。本特集では、その実情を直接明らかにすることを意図するものではないが、少なくとも、昭和期(戦後)以降の非行少年の検挙人員等が、それぞれの時代の社会情勢等と関連して増減していたことが考えられたほか、少年非行が質的にも変化を繰り返しながら現代に至っていることが確認できた。そして、現代では、少子高齢化が進展し、家族の形態の在り方も従前とは大きく変化している中、インターネットやスマートフォンの普及等により、少年の生活状況や人々のコミュニケーションの在り方も大きく変わってきていることがうかがえた。
このような現代の社会情勢等を踏まえ、第3編における知見も含め、主として平成期以降の少年非行を改めて見ると、初発型非行とされる万引き等をはじめ、毒劇法違反、覚醒剤取締法違反の検挙人員、道路交通法違反の取締件数(第3編第1章第2節3項参照)及びぐ犯の家庭裁判所終局処理人員(同章第3節参照)は大きく減少し、暴行、傷害、恐喝等の検挙人員も減少傾向にあるほか、暴走族の構成員数等(同章第2節3項参照)、不良行為少年(犯罪少年、触法少年及びぐ犯少年には該当しないが、飲酒、喫煙、深夜はいかいその他自己又は他人の徳性を害する行為をしている少年をいう。同章第4節参照)の補導人員も近年は減少傾向にある。他方で、全体に占める構成比は低いものの、大麻取締法違反、児童買春・児童ポルノ禁止法違反等の検挙人員・構成比は、近年、増加・上昇傾向にあり、少年院入院者及び保護観察処分少年における詐欺の非行名別構成比は上昇傾向にあるほか、家庭内暴力事案の認知件数(同章第5節1項参照)は増加傾向にあるなど、少年非行の動向は、平成期以降においても増減・変化を繰り返しており、今後も形を変えながら推移していくことが想定される。
一方、特別調査の結果から、世帯状況別に見ると約2割の少年は父母のいずれとも同居をしていないこと、生活困窮層とされる少年が約2割を占めていること、ACE該当数が1項目以上の者が少年院在院者で約9割、保護観察処分少年で約6割に上ることなどのほか、それぞれの違いによる傾向・特徴が確認できた。このような非行少年の背景にある厳しい生育環境をうかがわせる様々な事情を考慮しつつ、非行少年にとって、生育環境を自ら選択することができず、かつ、自らの努力だけで改善することが困難であることなどを踏まえると、その支援等の在り方を検討することは極めて重要な意味を持つと考えられる。
これまで、法務総合研究所では、非行少年の特性については、意識調査等からのアプローチによりその把握が試みられてきていたが、本特集では、保護者も含む質問紙調査等から、現代非行少年の生育環境に焦点を当てその解明に努めたものであり、一般の少年との違いのほか、世帯状況、経済状況及びACEの有無の違いによる実態の一端を明らかにできたものと考えている。今回の特集が、非行少年の再非行等の防止はもとより、非行少年に限らない少年の健全な育成を一層推進していくための一助となることを期待するものである。
法務総合研究所では、我が国における犯罪・非行の状況等に関し、多様な観点から、その時々のニーズを踏まえ、実証的調査・研究を進めているところ、今後も同様に継続して調査・研究を推進し、我が国の効果的な刑事政策の推進に資する基礎資料等を提供していくこととしている。