特別調査における世帯状況別の比較では、調査対象者全体では、「父母と同居」及び「父又は母と同居」がそれぞれ約4割を占めていたほか、「その他」として約2割の者がそのいずれとも同居はしておらず、「その他」に係る少年院在院者と保護観察処分少年の構成比を比べると前者が後者より約8pt高かった。さらに、「その他」について詳しく見ると、家族との夕食の頻度は、少年院在院者では約半数の者が、保護観察処分少年では3割強の者が、年に数回以下(「年に数回」、「年に1回程度」及び「まったくしていない」の合計)となっているほか、「父母と同居」及び「父又は母と同居」と比較すると、ゲームをする頻度は低い一方、家事をする頻度は高かった。また、転職歴ありの構成比が高く、他者との関わり方については、家族とのコミュニケーションが総じて低調である傾向が見られた一方、これから先の自分や家族に必要な人や仕組みについては、ほとんどの項目について該当率が最も高かった。
他方で、保護者に対する調査結果のうち、子供を持ってからしたことがある経験を見ると、調査対象者の保護者全体では、約3割の保護者が、「(元)配偶者(またはパートナー)から暴力をふるわれたことがあった」、約2割の保護者が、「子どもに行き過ぎた体罰を与えたことがあった」と回答していた(東京都が実施した調査によれば、一般の少年の保護者は、いずれも約7パーセントであった(東京都「子供の生活実態調査」(平成28年度)による。))ほか、約1割の保護者が、「自殺を考えたことがあった」、「わが子を虐待しているのではないか、と思い悩んだことがあった」、「出産や育児でうつ病(状態)になった時期があった」と回答していた。支え手伝ってくれる人の存在について見ると、約2割の保護者が、「あなたの気持ちを察して思いやってくれる人」、「子供との関わりについて、適切な助言をしてくれる人」が、「いない」又は「わからない」と回答していた。こうした調査結果からは、調査対象者の保護者の中には、一部に、何らかの事情から社会的に、又は家庭内でも孤立している保護者の存在が示唆された。そして、保護者が、あればよいと思う支援では、総数で見ると、「どんな内容の相談ごとでも受け付けて、相談に乗ってくれる窓口」の該当率が最も高く、「保護観察終了後も継続的に支援をしてくれる仕組」、「あなた自身が気軽に相談したり、ぐちをこぼしたりできる相手」などの項目についても相応のニーズが示されていたほか、その内訳を見ると、保護観察処分少年の保護者よりも少年院在院者の保護者の方がいずれの項目についても該当率が高かった。
以上の傾向・特徴を踏まえると、少年のみならず、保護者も含めた地域における支援等の強化が重要と考えられる。以下では、地域における支援の在り方について検討する。
第一に、特別調査の結果から、非行少年には、逆境体験を有する者や経済的な困難を抱える者が多く、これらの者は、生育において様々な面で長期的にマイナスの影響を受けていることがうかがえた。そのような非行少年については、社会からの孤立も懸念されることから、少年及び保護者が有する様々な課題の内容に応じて少年院出院後や保護観察期間終了後も必要な支援を受け続けられることが、再非行防止のためには重要であると考えられる。この点、従来から、地域に根差した活動を行っている保護司の中には、過去に担当していた対象者について、地域の隣人として、事実上の相談・支援等を行っている事例も見られるところ、保護観察所では、保護観察期間を満了した者に対する更生緊急保護を実施していることに加え、近年では、地域における更生保護関係団体、医療・保健・福祉等の関係機関・団体が地域支援ネットワークを構築し、保護観察を終了した者等のニーズを踏まえた相談支援等を行う取組等も見られる。また、令和5年12月から、更生緊急保護を行い得る期間が延長されるなどの制度の拡充が図られるとともに、更生保護に関する地域援助(第2編第5章第1節参照)が開始されることなどにより、地域において息の長い支援を確保するための取組が一層推進されることとなる。特別調査において、少年院在院者の保護者の約8割、保護観察処分少年の保護者の約5割が「保護観察終了後も継続的に支援してくれる仕組」を必要としていることが明らかになっており、今後もこのような地域における取組が広がり、更に充実したものとなっていくことが期待される。
第二に、非行の背景として、逆境体験を始めとする厳しい生育環境の存在が示唆されたところ、そうした環境にあれば、早期にこれを把握し、少年や保護者に対して必要な手当や支援を行うことによって、その後の非行のリスクを低減させ、非行を未然に防ぐという視点からの取組が望まれる。この点、刑事司法関係機関や民間ボランティア団体等は、従来の地域での啓発活動等に加え、地域で困難を抱える者に対する支援等様々な取組を行うようになってきている。例えば、少年鑑別所は、「法務少年支援センター」という名称で、地域社会における非行及び犯罪に関する各般の問題について、少年や保護者等からの相談に応じているほか、関係機関・団体等からの依頼に基づき、情報提供や助言等を行っている(第3編第2章第3節5項及びコラム7参照)。また、保護司会が更生保護サポートセンターを活用して一般の少年や保護者に対する非行相談を行ったり、更生保護女性会やBBS会といった更生保護ボランティアが地域と連携して子育て中の親子への支援、子供食堂の運営、学習支援等を行ったりするなど、地域で困難を抱える人々の課題解決や支援の取組を通じて、非行のない安全・安心な地域づくりを目指そうとする動きも見られる。加えて、都道府県警察が設置している少年サポートセンターの中には、非行少年への対応だけでなく、子供の被害・加害を未然に防ぐ予防教育や、乳幼児の保護者への広報啓発にも力を入れるなど、非行に至る前に、支援が必要な人をすくい上げるとともに、ワンストップサービスによる支援を行う仕組みを構築している地域も見られる(法務総合研究所研究部報告65参照)。さらに、令和5年度からは、都道府県が行う再犯防止に関する取組に対し、国が財政支援を行う「地域再犯防止推進事業」が開始された。これらの取組に加え、再犯防止推進法に基づく各地方自治体による地域における支援等のための各種取組の一層の充実も望まれる。
以上のとおり、少年及び保護者に対する地域における支援の在り方等については、逆境体験を始めとする厳しい生育環境により様々な課題を抱えることが非行の背景にある可能性を踏まえ、非行少年の再非行防止の観点のみならず、非行のリスクを抱えている子供が非行に至ることを未然に防ぐ観点からも、地域の子供や保護者が有する困難・課題に地域社会・コミュニティーが気付き、これを地域の課題として、より多くの関係機関等が連携しながら支援等を行っていくことが重要であると考えられる。