令和3年に保護観察を終了した少年のうち、保護観察終了時に無職であった者は、有職又は学生・生徒であった者と比べ、再処分率が高くなっており(5-2-5-6図参照)、不安定な就労状況が再非行のリスクを高める一方、就労を確保し継続して生活を安定させることは、非行からの立ち直りに欠かせない。保護観察所は、少年の保護観察対象者についても、CFPを活用したアセスメント(第2編第5章第3節2項(1)参照)により、非行に結び付く要因(問題)又は改善更生を促進する要因(強み)の一つとして、他の事項との相互作用や因果関係等について分析した上で就労等に関する処遇方針を決定している。就職の見込みのない者や短期間で離転職を繰り返し、不就労や離転職が非行に結び付いていると認められる者等については、就労が困難な背景を踏まえ、ハローワーク等の関係機関による支援につなげたり、地方公共団体の支援制度等の各種社会資源を活用したりするなど、必要な支援を検討・実施している。
このコラムでは、岐阜保護観察所が更生保護就労支援事業(第2編第5章第3節2項(9)参照)の取組等を通じて、少年の保護観察対象者に対して行っている就労支援の一端を紹介する。更生保護就労支援事業は、保護観察対象者等が適切に就職活動を行えるよう支援する就職活動支援及び協力雇用主のもとで就労した場合に確実に職場に定着できるよう支援する職場定着支援から成る事業であり(職場定着支援については令和2年度から実施)、同保護観察所管内には、平成29年度に更生保護就労支援事業所が設置され、就労支援に関する専門的知識及び経験を有する就労支援員が業務に当たっている。同保護観察所は、就労が課題となる少年に対し、まずは保護観察官や担当保護司が、日頃の面接において、就労への動機付けを高めることを意識した働き掛けを行っている。特に、度々転職する少年については、仕事を辞めようとする前や、辞めた場合でも早期に介入し、少年から事情を聞き、就労意欲が喚起されるように留意している。少年の中には、就職活動の方法等に関する知識が乏しい者や、仕事や学校生活でのつまずき体験等から意欲を失っている者もおり、就職活動を行うために寄り添った支援を行うことが適当な者について、本人の同意を得て、同事業所の就職活動支援の対象としている。少年院在院者で支援が適当と思われる者についても、少年院等と協議し、在院中に支援対象として選定することがある。
支援に当たっては、まず、就労支援員が支援対象者との面談等を行い、職歴、免許の有無、希望する職種等を把握し、就労支援計画を策定している。面談では自発的に話したがらない少年も多く、就労支援員は、支援対象者が関心を持っていることや趣味等の話題をきっかけに話しやすい雰囲気を作るなどし、根気強く信頼関係を構築するように配慮している。支援においては、本人に適した職業の情報を提供し、就職活動の方法や採用面接に関する助言や面接の付添いなどを行っている。しかしながら、少年の中には、支援の途中で連絡をしても応じなくなる者や、支援を辞退してしまう者もある。友人・知人等のつてで就職したと述べながら、就労の実態が把握できなかったり、自分の意思がはっきりしないまま周囲に流されて働き始め、不安定な雇用形態等が理由ですぐに辞めたりすることがあるほか、就職を巡って、保護者と意見が対立し、親子関係が悪化してしまうこともある。同事業所は、保護観察所に少年の状況を報告する中で、保護観察官との間で対応について協議しており、問題が生じた場合には保護観察官が少年と面接をしたり、保護者への働き掛けを行ったりして、再非行に至らないよう指導を行っている。
同事業所では、令和元年度から3年度までに、支援対象として22人の少年が選定されており、辞退や転居により途中で支援を打ち切った者もいたが、自分で就労先を見つけた者を含め15人の少年が就職した。少年は、就職しても、職場に定着するのが難しいことが多いため、職場定着支援を行うことで職場定着がより確実なものになると見込まれ、少年及び協力雇用主が同意した場合には、保護観察所において、同事業所が行う職場定着支援の対象に選定している。同事業所では、本人にこまめに連絡し、困っていることや悩んでいることなどについて話を聞き、就労態度や対人コミュニケーションに関して助言するなどしている。そのほか、就労支援員が職場訪問するなどして、勤務状況等を把握するとともに、協力雇用主に対し、本人の適性に応じた職務内容の設定や適切な指導方法に関する助言を行うなどのフォローアップを行っている。このような継続的かつきめ細かな支援によって、少年が就労を継続し、自立した生活を送ることにつながっていると思われる。
岐阜保護観察所は、更生保護就労支援事業を含む様々な取組により、就労支援に取り組んでいるが、就労に結びつかなくても、就労意欲を喚起したり、将来の目標に目を向けさせたりするためにも、職場体験が有効な手段であると考えている。令和3年度には、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響により、残念ながら、保護観察対象者が関心を示した職種の職場体験を実施できなかったものの、今後も、地域の機関・団体と連携し、協力雇用主会の協力を得て、個々の少年の特性や事情に応じた支援を行っていきたいと考えている。また、4年度から、特定少年に対する指導として、ジョブキャリア学習(本節3項(5)参照)が導入されたことから、職場体験のほか、更生保護就労支援事業所の職員による講話や協力雇用主(第2編第5章第6節4項(3)参照)を交えた座談会等の実施を検討しており、職業人生のスタート段階にある特定少年の職業意識を醸成することができるよう準備している。