犯罪白書では、これまで我が国の犯罪情勢を見るとき、刑法犯、特別法犯、危険運転致死傷・過失運転致死傷等といった分類に従い、その分類ごとに動向を概観・分析してきた。分類ごとに犯罪の性質等が異なることから、このような分類に沿った詳細な分析は重要であり、今後も継続していくべきと考えるが、他方で、我が国における犯罪の全体像を捉えようとするときは、この分類ごとに見るだけでは必ずしも十分ではない。
そこで、このコラムでは、我が国における犯罪の全体像を把握するため、まずは(ア)刑法犯、(イ)危険運転致死傷・過失運転致死傷等、(ウ)特別法犯(交通法令違反を除く。)及び(エ)交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)について、横並びにして比較すべく、それぞれの検挙件数の合計を見ることとした。警察以外により検挙されたものも含め、令和3年における司法警察職員による上記(ア)ないし(エ)の検挙件数及び構成比を見ると、図1のとおりである。刑法犯の検挙件数は、全体の約3割を占めているにすぎないことが分かる。
もっとも、図1は、飽くまでも司法警察職員による検挙件数を合算したものであるから、我が国における犯罪の全体像をできる限り把握するためには、検挙には至らなかった犯罪についても考慮する必要がある。そこで、(ア)刑法犯については、警察による認知件数を、(イ)危険運転致死傷・過失運転致死傷等については、人身事故件数を、(ウ)特別法犯(交通法令違反を除く。)及び(エ)交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)については、検挙件数をそれぞれ用いて合算することを試みたのが図2である。図2は、厳密には概念が一致しない数値を合算した図であることに留意が必要であるものの、検挙に至らなかった犯罪の存在をイメージすることが可能である。
以上のほか、警察等の司法警察職員が把握できなかった犯罪が存在することにも、留意すべきである。すなわち、被害者が犯罪被害に遭いながらも、警察等への届出等を行わなかったいわゆる暗数も存在するのであり、我が国における犯罪の脅威は、これらをも考慮して考える必要がある。
個別の犯罪類型ごとに見ても、我が国における犯罪情勢がいまだ決して安心できる状況にはないことが分かる。図3のとおり、例えば、児童虐待に係る事件、配偶者からの暴力事案等、サイバー犯罪、特殊詐欺、大麻取締法違反及び危険運転致死傷は、いずれも検挙件数が増加傾向又は高止まり状態にあり、特に留意が必要である。
以上のとおり、我が国の犯罪情勢については、改善傾向が続いている一方で、留意すべき点もあることからすれば、その詳しい動向について、引き続き注視していく必要がある。
注 図1 (1)法務総合研究所が資料を入手し得た数値で作成した(詳細はCD-ROM参照)。(2)警察庁の統計、警察庁交通局の統計、厚生労働省医薬・生活衛生局の資料、厚生労働省労働基準局の資料、経済産業省産業保安グループの資料、国土交通省海事局の資料、海上保安庁の資料、水産庁資源管理部の資料及び法務省矯正局の資料による。(3)警察による交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)の検挙件数は、送致件数を計上している。(4)警察以外による検挙件数は、漁業監督官(吏員)によるものを除き、送致件数を計上している。(5)罪種が不詳のものは、刑法犯に計上している。
図2 (1)危険運転致死傷・過失運転致死傷等については、刑法犯における警察による認知件数におおよそ匹敵すると考えられる人身事故件数の数値を参考として用いた。特別法犯(交通法令違反を除く。)及び交通法令違反(道交違反(反則事件)を除く。)については、刑法犯における警察による認知件数におおよそ匹敵すると考えられる数値は検挙件数であることから、これを参考として用いた。(2)「人身事故」は、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うものをいう。(3)「刑法犯の認知件数」及び「人身事故件数」は、警察において把握したものに限る。(4)図1の脚注(1)、(3)及び(4)に同じ。(5)警察庁の統計、警察庁交通局の統計、厚生労働省医薬・生活衛生局の資料、厚生労働省労働基準局の資料、経済産業省産業保安グループの資料、国土交通省海事局の資料、海上保安庁の資料及び水産庁資源管理部の資料による。
図3 (1)<1>・<2>は警察庁生活安全局の資料、<3>は警察庁サイバー警察局の資料、<4>は警察庁刑事局の資料、<5>は厚生労働省医薬・生活衛生局の資料、<6>は警察庁の統計に、それぞれよる。(2)詳細については、<1>につき第4編第6章第1節、<2>につき同章第2節、<3>につき同編第5章、<4>につき第1編第1章第2節3項(4)、<5>につき第4編第2章第1節2項、<6>につき同編第1章第2節2項を、それぞれ参照。