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令和3年版 犯罪白書 第8編/第6章/第4節/2

2 詐欺事犯者の特性等を踏まえた処遇の充実

最近20年間の動きを見ると,詐欺の出所受刑者の再入率は,大きく低下しており,平成28年の出所受刑者の5年以内再入率及び令和元年の出所受刑者の2年以内再入率は,いずれも出所受刑者総数と比較して低い。その背景として,近年の再犯防止対策の進展もあると思われるが,詐欺に関しては,その手口別構成比の変化も一因となっている可能性がある。最近20年間の詐欺の手口別検挙件数や特殊詐欺の検挙件数の動向を見ると,特殊詐欺の検挙件数が平成24年以降増加傾向にあるのに対し,「無銭」(無銭飲食等)による詐欺の検挙件数は,19年以降減少傾向にある。後述するように,今回の特別調査(再犯に関する調査)の結果,無銭飲食等の者は,他の手口の者と比較して,再犯ありの構成比が高い。そのため,再犯に及ぶ可能性が高い者が多い手口である無銭飲食等の構成比が低下したことが,詐欺出所受刑者全体の再入率の低下に影響を与えている可能性がある。また,28年の詐欺の出所受刑者の5年以内再入率を見ると,入所度数3度以上の者の高さが特徴的である。今回の特別調査(全対象者調査)では,無銭飲食等(前科を有する者に限る。)については,同種前科3回以上を有する者が約3分の1を占めている。詐欺事犯者のうち無銭飲食等の手口の者は,再入率が高い類型に該当する者が多分に含まれている可能性が高く,その再犯防止対策が必要である。

一方で,特別調査(再犯に関する調査)から見ると,特殊詐欺事犯者については,平均再犯可能期間が長くないことに留意する必要はあるが,再犯ありの構成比は1割強にとどまっている。また,特殊詐欺事犯者に多い属性である「30歳未満」,「入所度数1度」,「男性・初入者」について,平成28年の詐欺の出所受刑者の5年以内再入率に当てはめてみると,いずれも再入率が低い部類に属する。しかしながら,特別調査(全部執行猶予者に対する再犯調査)では,調査対象事件が特殊詐欺であった者17人が再犯に及んでいた上,調査対象事件及び再犯事件の手口が共に特殊詐欺であった者も3人いたという結果も認められる。特殊詐欺が被害者に甚大な経済的・精神的被害を与え得るものであることを考えると,特殊詐欺事犯者の再犯防止対策もまた重要である。

この項では,特殊詐欺と無銭飲食等の詐欺事犯者を中心に,特別調査の結果等を踏まえ,詐欺事犯者の特性等を踏まえた処遇の充実の方向性について検討する。

(1)特殊詐欺事犯者

特殊詐欺の検挙人員の多くは,30歳未満の若年者層が占めている。また,特別調査(確定記録調査)では,特殊詐欺事犯者については,主に,「金ほしさ」や「友人等からの勧誘」を動機・理由として安易に犯行に加担するという実態が浮かび上がっている。役割類型別の関与の状況を見ると,「受け子・出し子」は,被害者と直接対面することもあるが,自らが積極的に被害者をだます言葉を言っていない。その一方,「架け子」は,被害者をだます言葉を言っているものの,被害者と対面することは基本的になく,場合によっては,種々の身分を詐称した複数の「架け子」が分担して被害者をだますこともある。そのため,「受け子・出し子」・「架け子」共に,実際には被害者に対して多大な経済的・精神的苦痛を与えているのにもかかわらず,自らがその原因を作ったことに思いが至っていない者が少なくない(コラム11及び12)。特殊詐欺事犯者の改善更生のためには,自己の責任を自覚し,被害者の苦しみに思いを巡らせることが必要である。その手段として,刑事施設で行われている特殊詐欺再犯防止指導(コラム11)や,少年院で行われている特殊詐欺再非行防止指導(コラム12)の取組は,意義深いものであり,実践の積み重ねを経て,その内容が更に工夫・発展されていくことが期待される。加えて,心情等伝達制度により,被害に関する心情等に触れることも有効である(コラム13)。更に一歩進んで,被害者に弁償を行い,宥恕を得ようと努力する態度を示すことは,社会にも受け入れられ,周囲の者から社会復帰のための協力を得られやすくするものと考えられる。矯正や更生保護の処遇において,被害者への具体的・現実的な弁償計画を立て,弁償の着実な実行に向けた努力を行うよう適切な指導監督や援護を行うことは,再犯防止の点でも効果があると考えられる。

また,特殊詐欺事犯者の背景事情に「不良交友」がある者が相当の割合含まれていることを考えると,不良な交友関係からの離脱について指導していくことが有効であると思われる。令和3年1月から,更生保護において,「特殊詐欺類型」の保護観察対象者に対し,最新の知見に基づき,効果的な処遇が行われているところ,特殊詐欺グループとの関係に焦点を当て,同グループへの関与や離脱意思の程度に応じた指導・支援等を行っていることは注目に値する。

その上で,特殊詐欺の動機・理由や背景事情には,「金ほしさ」や「生活困窮」等の経済的問題がある者も少なくないことから,経済的事情の改善につなげるため,勤労意欲や能力を高めるために就労支援等を行い,または,円滑な就職ができるように職業訓練を実施するなどの方策が必要である。

加えて,近年,特殊詐欺の検挙人員のうち約2割を少年が占めており,これらの少年のうち一定の者については,審判により,少年院送致や保護観察となる者が含まれている。少年の特殊詐欺事犯者,特に少年院送致となった者について,円滑な社会復帰を促し,再犯の防止を図るためには,就労支援の取組に加えて,就学支援の一層の充実が求められる。

(2)無銭飲食等の詐欺事犯者

特別調査(全対象者調査)では,無銭飲食等の詐欺事犯者については,「生活困窮」が犯行の動機・理由となっている者が約半数を占めている。また,特別調査(全部執行猶予者に対する再犯調査)では,再犯の動機・理由に「生活困窮」があった者の3分の2が無銭飲食等の者であった。無銭飲食等の詐欺事犯者については,生活困窮の状況を改善するために,生活状況を改善することが重要であるが,その前提となる住居や就労先を有していない者も多いことを考えると,早期の段階から安定した生活環境に向けての支援,勤労意欲や能力を高めるための就労支援のほか,犯行の動機や背景事情等を考慮した上で生活態度に関する指導等を行うことも重要である。住居を有する者が少なく,入所度数も多い者が多い無銭飲食等の詐欺事犯者については,満期釈放による出所となる者が相当にいると思われる。満期釈放者対策については,「再犯防止推進計画加速化プラン」でも充実強化を図ることとされている。無銭飲食等の詐欺事犯者についても,必要に応じ,同プランにも記載されているように,生活環境の調整の充実強化と仮釈放の積極的な運用,満期釈放者に対する受け皿等の確保,満期釈放者の相談支援等の充実等の取組の対象とすることが求められる。