平成2年(1990年),平成10年(1998年)及び平成28年(2016年),国連において,薬物問題に関する特別総会(国連麻薬特別総会)が開催されている。
第1回国連麻薬特別総会においては,平成3年(1991年)からの10年間を「国連麻薬乱用撲滅の10年」とする「政治宣言」のほか,麻薬及び向精神薬の需要削減,薬物乱用者の処遇,生産規制,不正取引の抑制,マネー・ローンダリング対策等を盛り込んだ「世界行動計画」が採択された。
第2回国連麻薬特別総会においては,薬物需要削減プログラムを確立する上での基準を示す「薬物需要削減の指針に関する宣言」及びアンフェタミン型精神刺激薬への対処,前駆物質の統制,司法協力,マネー・ローンダリング対策,不正薬物用作物の撲滅と代替開発等に関する「世界的な薬物問題に対処するための国際協力の強化措置」の二つの決議のほか,加盟国に所定の期限までに両決議に基づく薬物犯罪対策を講ずるように求める「政治宣言」が採択された。
第3回国連麻薬特別総会では,「世界的な薬物問題に効果的に対処するための共同コミットメント」が採択され,<1>薬物使用障害の治療や感染症予防・治療を含む需要の削減,<2>医療・科学上の目的のための規制物質の利用・アクセスの確保,<3>効果的な法執行,マネー・ローンダリング対策等を通じた供給削減,<4>薬物と人権,青少年,女性及びコミュニティ,<5>新精神作用物質等の新たな問題,<6>国際協力の強化及び<7>代替開発等の七つの項目について,施策上の勧告がなされている。
麻薬委員会(CND:Commission on Narcotic Drugs)は,昭和21年(1946年)の国連経済社会理事会決議に基づき,同理事会の下部機関として設立され,53か国の委員国で構成される。麻薬三条約の対象となる薬物の範囲を変更することができるとともに,麻薬三条約の実施に関する勧告をすることができるほか,UNODCの監督機関としての役割も果たしている。同委員会は毎年開催され,我が国は昭和36年(1961年)以降,平成22年(2010年)から平成23年(2011年)までを除き,継続して委員国を務めている。
国際麻薬統制委員会(INCB:International Narcotics Control Board)は,単一条約の規定に基づき,昭和43年(1968年)に設立された。国連経済社会理事会の選挙によって個人資格により選ばれた13人の委員によって構成され,麻薬三条約について締約国の履行状況を監視し,必要に応じて,履行状況に問題がある政府に対して是正措置を求めたり,問題について麻薬委員会等に注意を喚起したりすることができる。
平成3年(1991年),国連における麻薬問題対策を推進するため,国連の既存の麻薬関係機関を統合した新たな機関として,国連薬物統制計画が設置された。平成9年(1997年),国連薬物統制計画と犯罪防止刑事司法計画が統合され,国連薬物統制犯罪防止事務所が設立され,その後,平成14年(2002年)に改称して現在のUNODC(第1編第3章第1節参照)となった。麻薬委員会及び国際麻薬統制委員会の事務局を務めているほか,薬物に関する調査・分析,麻薬三条約の締結・実施及び国内法整備の支援並びに不正薬物対策における能力向上のための技術協力を行っている。我が国は,UNODCが中心となって取り組んでいる国際的な薬物対策への協力にも力を入れている。
平成27年(2015年)9月に開催された国連サミットにおいて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において,持続可能な開発を目指すために2030年までに実施すべき国際目標として,17の目標及び169のターゲットから構成される「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められた。SDGsのターゲットの一つとして,「薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む,物質乱用の防止・治療を強化する」ことが掲げられている。
G7(第2編第6章第1節1項(2)参照)は,薬物問題を度々取り上げ,議長声明等において,この問題に関しての国際協力強化の必要性等を述べている。特に,平成元年(1989年)に開催されたアルシュ・サミットの経済宣言に基づき, FATFが設立されている(FATFの活動については,同節2項参照)。