現在,薬物の国際的な統制については,以下の三つの多国間条約(以下この節において「麻薬三条約」という。)等に基づき行われている。
1961年の麻薬に関する単一条約(以下この節において「単一条約」という。)は,それまで多岐にわたっていた薬物に関する条約を整理・統合し,単一の条約にまとめたものであり,昭和36年(1961年)3月,ニューヨークにおいて作成され,昭和39年(1964年)12月に発効し,令和2年(2020年)5月末現在,我が国を含む186か国・地域が締約国となっている。
単一条約は,麻薬(大麻,あへん,モルヒネ,ヘロイン,コカイン等をいい,麻薬取締法上の麻薬とは異なる。)の生産,輸出入,取引,使用,所持等を医療上及び学術上の目的のみに制限するとともに,大麻,ヘロイン等について特別の統制措置を執ることを締約国に義務付けているほか,麻薬委員会(本節2項(1)イ(ア)参照),国際麻薬統制委員会(本節2項(1)イ(イ)参照)等を通じた麻薬の国際統制について規定している。
向精神薬に関する条約(以下この項において「向精神薬条約」という。)は,単一条約で規制されていなかった向精神薬(LSD等の幻覚薬,アンフェタミン・メタンフェタミン,バルビツール酸系又はベンゾジアゼピン系の鎮静薬・睡眠薬・抗不安薬等をいい,麻薬取締法上の向精神薬とは異なる。)について,単一条約と同様の規制を行う条約である。昭和46年(1971年)2月,ウィーンにおいて作成され,昭和51年(1976年)8月に発効し,令和2年(2020年)5月末現在,我が国を含む184か国・地域が締約国となっている。
麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(以下(3)において「麻薬新条約」という。)は,単一条約及び向精神薬条約に定める措置を強化・補完するとともに,麻薬及び向精神薬の不正取引を防止するため,昭和63年(1988年)12月,ウィーンにおいて作成され,平成2年(1990年)11月に発効し,令和2年(2020年)5月末現在,我が国を含む191か国・地域が締約国となっている。
麻薬新条約は,薬物犯罪に関して,締約国にマネー・ローンダリングの犯罪化,犯罪収益等の没収等の措置を義務付けるほか,裁判権の設定,犯罪人引渡し,捜査・司法共助等について定めるとともに,コントロールド・デリバリー(監視付き移転)等についても規定している。