7-4-1-19図は,薬物犯罪(覚醒剤取締法,大麻取締法,麻薬取締法及び麻薬特例法の各違反をいう。以下この項において同じ。)の地方裁判所における終局処理人員の推移(最近20年間)を罪名別に見たものである。地方裁判所における終局処理総人員については,平成16年(7万9,378人)をピークに減少傾向を示し,薬物犯罪の終局処理人員についても,12年(1万5,762人)以降,若干の増減はあるものの,おおむね減少傾向にあり,25年に1万1,000人を下回った後も1万人台を維持していたが,令和元年には1万人を下回り,9,042人(前年比10.6%減)であった。
地方裁判所における終局処理総人員の減少幅(令和元年は平成16年比39.9%減)に比べて,薬物犯罪の終局処理人員の減少幅(同27.8%減)が小さいことから,地方裁判所における終局処理総人員に占める薬物犯罪の終局処理人員の割合は,平成16年に15.8%を記録した後,上昇傾向を示し,22年以降は20%を超えて推移していたが,令和元年は20%を下回り,19.0%(前年比1.8pt低下)であった。
地方裁判所における終局処理人員を罪名別に見ると,覚醒剤取締法違反は,平成12年以降,若干の増減はあるものの,おおむね減少傾向にある一方で,大麻取締法違反は,26年以降,毎年前年比10~20%前後の割合で増加し続け(令和元年は平成25年の約2.4倍),麻薬取締法違反も,25年から増加し続けている(令和元年は平成24年の約2.4倍)。麻薬特例法違反は,24年以降,50~70人台で推移している。
薬物犯罪の地方裁判所における終局処理人員のうち無罪の人員は,近年はおおむね10人台で推移しており,令和元年は15人(覚醒剤取締法違反13人,大麻取締法違反及び麻薬特例法違反各1人)であった(司法統計年報による。)。
薬物犯罪について,令和元年の地方裁判所における有期の懲役の科刑状況別構成比を罪名別に見ると,7-4-1-20図のとおりである。1年未満の刑の者が占める割合は,大麻取締法違反が69.5%であるのに対し,覚醒剤取締法違反では0.2%,麻薬取締法違反では0.9%,麻薬特例法違反では37.5%であった。一方,3年を超える刑の者が占める割合は,麻薬特例法違反が44.4%であるのに対し,覚醒剤取締法違反では8.6%,大麻取締法違反では1.5%,麻薬取締法違反では7.0%であった。なお,覚醒剤取締法違反の一部(営利目的による覚醒剤の輸出入・製造),麻薬取締法違反の一部(営利目的によるジアセチルモルヒネ等の輸出入・製造),麻薬特例法違反の一部(業として行う麻薬等の不法輸入等)については,その法定刑に無期懲役を含むことから裁判員裁判の対象事件(第2編第3章第3節3項参照)となる(裁判員裁判対象事件の第一審における新規受理・終局処理人員の推移については2-3-3-5表,罪名別・裁判内容別の判決人員については2-3-3-6表をそれぞれ参照)。
令和元年に地方裁判所で有期懲役・禁錮の判決を受けた者に占める一部執行猶予付判決を受けた人員の割合は,全体では3.0%であるところ(CD-ROM資料2-4参照),覚醒剤取締法違反では18.0%,大麻取締法違反では2.1%,麻薬取締法違反では4.1%であり,麻薬特例法違反で一部執行猶予付判決を受けた者はいなかった(なお,同法違反の罪は,薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律の対象ではない。)。
令和元年において一部執行猶予付判決を受けた人員が多かった覚醒剤取締法及び大麻取締法の各違反について,刑の一部執行猶予制度(本編第3章第8節3項参照)が開始された年の前年である平成27年の地方裁判所における有期の懲役の科刑状況別構成比を罪名別に見ると,7-4-1-20図<1>及び<2>のとおりである。全部執行猶予率について見ると,覚醒剤取締法違反(同年は38.9%,令和元年は37.0%)も大麻取締法違反(平成27年は82.2%,令和元年は85.9%)も,平成27年と令和元年との間に顕著な差は認められない。
7-4-1-21図は,薬物犯罪のうち,覚醒剤取締法違反について,令和元年の地方裁判所における有期の懲役の科刑状況別構成比を違反態様別に見たものである。営利目的によるものについては,「輸入,輸出及び製造」・「所持,譲渡及び譲受」共に,全部実刑の者が95%を超え,「輸入,輸出及び製造」については,10年を超え30年以下の刑期の者が13.0%(14人)いた。「使用」及び営利目的によるものでない「所持,譲渡及び譲受」については,一部執行猶予の者がいずれも2割弱いたが,営利目的による「所持,譲渡及び譲受」については,一部執行猶予の者は1.1%(2人)であり,「輸入,輸出及び製造」については,一部執行猶予の者はいなかった。
7-4-1-22図は,薬物犯罪(麻薬特例法違反を除く。)について,地方裁判所における全部執行猶予率及び全部執行猶予者の保護観察率の推移(最近20年間)を見たものである(同法違反については,CD-ROM参照)。全部執行猶予率について見ると,覚醒剤取締法違反は,大麻取締法及び麻薬取締法の各違反と比較して一貫して低く,全部執行猶予者の保護観察率について見ると,覚醒剤取締法違反は,大麻取締法及び麻薬取締法の各違反と比較して一貫して高い。
令和元年における地方裁判所の有期懲役・禁錮の全部執行猶予率は,全体では62.8%であるところ(CD-ROM資料2-4参照),覚醒剤取締法及び麻薬特例法の各違反はそれよりも低く,大麻取締法及び麻薬取締法の各違反はそれよりも高い。
なお,令和元年に一部執行猶予付判決を受けた者については,その全員(覚醒剤取締法違反(1,230人),大麻取締法違反(37人)及び麻薬取締法違反(14人))に保護観察が付された(2-3-3-1表参照)。
薬物犯罪(麻薬特例法違反を除く。)について即決裁判手続に付された事件の人員の推移(最近10年間)を罪名別に見ると,7-4-1-23図のとおりである。覚醒剤取締法違反について即決裁判手続に付された人員は,平成22年以降減少傾向にあり,令和元年は29人(前年比68.1%減)であり,平成22年(968人)の33分の1未満である。
令和元年の薬物犯罪の通常第一審における被告人の勾留状況を罪名別に見ると,7-4-1-24表のとおりである。通常第一審全体では,勾留率(移送等を含む終局処理人員に占める勾留総人員の比率)が73.1%,保釈率(勾留総人員に占める保釈人員の比率)が30.8%であるところ(司法統計年報による。2-3-3-8図CD-ROM参照),薬物犯罪については,いずれの罪名も勾留率が90%を超え,保釈率については,いずれの罪名も通常第一審全体における保釈率を上回り,特に,大麻取締法及び麻薬取締法の各違反の保釈率は,60~70%台に達している。