平成25年6月,平成25年法律第49号による刑法改正により,刑の一部執行猶予制度が導入され,この改正と同時に,薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成25年法律第50号。以下この項において「薬物法」という。)が制定された(いずれも平成28年6月施行)。刑の一部執行猶予制度は,裁判所において,宣告した刑期の一部を実刑とするとともに,その残りの刑期の執行を猶予することにより,施設内処遇に引き続き,必要かつ相当な期間,刑の執行猶予取消しによる心理的強制の下で,社会内における再犯防止・改善更生を促すことを可能とするものである。
薬物法は,薬物使用等の罪を犯す者は薬物への親和性が高く,薬物事犯の常習性を有する者が多いと考えられるところ,これらの者の再犯を防ぐためには,刑事施設における処遇に引き続き,薬物の誘惑のあり得る社会内においても,施設内における処遇効果を維持・強化する処遇を実施することが有用であることに鑑み,対象者の範囲及び猶予の期間中の保護観察等について,一般法である刑法の特則を定めたものである。すなわち,薬物法による刑の一部の執行猶予は,刑法による刑の一部の執行猶予と異なり,いわゆる累犯者(前に禁錮以上の刑に処せられたことがあって,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられた者)に対しても言い渡すことができ,その言渡しをするときは,猶予の期間中必要的に保護観察に付することとされている。
薬物法の対象犯罪は,覚醒剤をはじめとする規制薬物等の使用の罪と単純所持の罪に限られる。