覚醒剤取締法は,覚醒剤の乱用による保健衛生上の危害を防止するため,覚醒剤及び覚醒剤原料の輸出入・所持・製造・譲渡し・譲受け・使用に関して必要な取締りを行うことを目的とする法律である。
我が国では,覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパン(通称メタンフェタミン)及びフェニルアミノプロパン(通称アンフェタミン)は,昭和16年から前者が「ヒロポン」等の商品名で,後者が「ゼドリン」等の商品名で,一般の医薬品として市販されるようになるとともに,軍用目的にも使用された。終戦後,軍用目的として保管されていた覚醒剤が放出され,各製薬会社からも一般に供され,混乱した社会情勢という時期的な悪条件のもとに覚醒剤の乱用が蔓延していった。
このため,昭和23年7月に公布・施行された薬事法(昭和23年法律第197号。なお,同法は,薬事法(昭和35年法律第145号。本章第6節参照)により廃止。)等によって覚醒剤が劇薬に指定されるとともに販売等に関する規制が行われたが,乱用防止の効果が上がらなかったため,26年,覚醒剤取締法が制定され(昭和26年7月施行),覚醒剤の用途を医療及び学術研究のみとし,覚醒剤を取り扱うことができる者を限定して,それ以外の者による取扱いを禁止し,違反行為に対する罰則を設けた。
覚醒剤取締法の重要な改正としては,昭和29年法律第177号による改正により,罰則の法定刑が引き上げられ,営利犯,常習犯について刑罰を加重する規定が設けられたこと(昭和29年6月施行),昭和48年法律第114号による改正により,罰則全般にわたって法定刑が引き上げられ,輸入・輸出・製造についての予備罪,資金等提供罪,周旋罪等が新設される一方,常習犯の規定が削除されたこと(昭和48年11月施行),平成2年法律第33号による改正により,営利の目的による違反行為等を中心に罰金刑の上限が引き上げられたこと(平成2年8月施行),平成3年法律第93号による改正により,資金等提供罪の処罰範囲の拡大,覚醒剤の運搬の用に供した車両等への没収範囲の拡大,国外犯処罰規定の新設等が行われたこと(平成4年7月施行)などがある。
なお,最終改正は,令和元年法律第63号による改正であり,一部の覚醒剤原料が医薬品として疾病の治療の目的で用いられていることに鑑み,厚生労働大臣の許可を受けた場合には,医薬品である覚醒剤原料を自己の疾病の治療の目的で携帯して輸出入することが可能となるなどの改正がなされるとともに,覚醒剤の表記が「覚せい剤」から「覚醒剤」に,法律の題名も「覚せい剤取締法」から「覚醒剤取締法」に改められた(令和2年4月施行)。