主な交通関係法令には,道路交通法(昭和35年法律第105号),自動車の保管場所の確保等に関する法律(昭和37年法律第145号。以下この節において「保管場所法」という。),道路運送車両法(昭和26年法律第185号),自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成25年法律第86号。以下この節において「自動車運転死傷処罰法」という。)等がある。平成期における交通犯罪の動向や犯罪者処遇の状況は,第4編第1章参照。
道路交通法は,道路における危険を防止し,その他交通の安全と円滑を図ることを目的とした道路交通の基本法であり,昭和35年に制定された後,昭和期においても,交通事情の変化等に対処するために多数回の改正が行われたが,刑事司法手続との関係で重要なのは,昭和42年法律第126号による改正により,交通反則通告制度(車両等の運転者等が行った一定の道路交通法違反を反則行為とし,同行為をした者のうち,悪質でなく,かつ,危険性の低い行為に係る者(例えば,無免許運転,酒酔い運転等をした者以外の者)を反則者として,警察本部長等が反則者に対して行う通告に対し,反則者が反則金を期日までに納付することによって,反則者は公訴を提起されないという制度)が導入されたことである(43年9月全面施行)。同制度については,当初は成人に対してのみ適用されていたが,昭和45年法律第86号による改正により,少年にも適用されるようになり(45年8月施行),昭和61年法律第63号による改正により,反則者及び反則行為の範囲がそれぞれ拡大し,同制度の適用範囲が拡大された(62年4月施行)。
平成2年法律第73号による改正では,駐車違反の中でも危険性,迷惑性の大きい放置行為の防止を図るため,車両の放置行為の罪に対する罰金刑の上限が引き上げられた(平成3年1月施行)。
平成5年法律第43号による改正では,危険な行為である過積載車両運転や,過積載車両運転の下命・容認に対する罰則が強化された(平成6年5月施行)。
平成11年法律第40号による改正では,携帯電話等に係る交通事故の急増に対処するため,携帯電話等の走行中の使用等の規制に関する規定を整備し,同規定に違反し,よって道路における交通の危険を生じさせた者に対する罰則が新設された(平成11年11月施行)。
平成13年法律第51号による改正では,酒酔い運転,酒気帯び運転,無免許運転等の悪質・危険な違反行為等に対する法定刑が引き上げられた(平成14年6月施行)。また,同法改正と同時に施行された道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)の改正により,酒気帯び運転となるアルコールの程度の値が引き下げられ,その範囲が拡大された。
平成16年法律第90号による改正では,<1>自動車等を運転中に携帯電話等を使用する行為自体について罰則が新設され,<2>飲酒検知拒否に対する法定刑が引き上げられ,<3>暴走族対策のための罰則整備(空ぶかし等の騒音運転等に対する罰則の新設や法定刑の引上げ,共同危険行為等の禁止規定の見直し)がなされるとともに,<4>違法駐車対策として,放置車両に係る使用者責任の拡充及び放置車両確認事務の民間委託が定められた(<1>から<3>までは平成16年11月,<4>は18年6月施行)。
平成19年法律第90号による改正では,<1>酒酔い運転及び酒気帯び運転等の法定刑が引き上げられ,<2>飲酒運転幇助行為のうち悪質なもの(車両等又は酒類の提供行為,要求又は依頼しての同乗行為)に対する罰則が新設され,<3>一定の救護義務違反(いわゆるひき逃げ)の法定刑が引き上げられるとともに,<4>運転免許証の更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の者に対する認知機能検査が導入された(<1>から<3>までは平成19年9月,<4>は21年6月施行)。
平成21年法律第21号による改正では,危険性の高い高速自動車国道等におけるあおり行為等の抑止を図るため,高速自動車国道等において車間距離保持義務違反となる行為に対する法定刑が引き上げられた(平成21年10月施行)。
平成25年法律第43号による改正では,<1>無免許運転,無免許運転下命・容認及び免許証の不正取得に対する法定刑が引き上げられ,<2>無免許運転幇助行為のうち悪質なもの(車両等の提供行為,要求又は依頼しての同乗行為)に対する罰則が新設され,<3>免許を受けようとする者等に対する,一定の病気等の症状に関する公安委員会による質問制度の整備及び質問票への虚偽記載行為に対する罰則が新設された(<1>及び<2>は平成25年12月,<3>は26年6月施行)。
平成27年法律第40号による改正では,一定の違反行為をした75歳以上の運転者に対して臨時認知機能検査を行い,その結果が直近において受けた認知機能検査の結果と比較して悪化している場合に臨時高齢者講習を実施することとされたほか,運転免許証の更新時の認知機能検査又は臨時認知機能検査の結果,認知症のおそれがあると判定された者には,その者の違反状況にかかわらず,臨時適性検査の受検又は医師の診断書提出を要することとされた(平成29年3月施行)。
なお,令和元年法律第20号による改正により,<1>自動車の自動運転技術の実用化に対応した運転者等の義務に関する規定が整備されるとともに,<2>自動車等を運転中に携帯電話等を使用する行為等の法定刑が引き上げられた(<1>は令和2年5月まで,<2>は元年12月1日に施行)。
平成期における悪質な交通違反に関する刑罰規制の変遷については,1-1-2-1表参照。
保管場所法は,自動車の保有者等に自動車の保管場所を確保し,道路を自動車の保管場所として使用しないよう義務付けるとともに,自動車の駐車に関する規制を強化することにより,道路使用の適正化,道路における危険の防止及び道路交通の円滑化を図ることを目的とする法律であり,昭和37年に制定された。
平成2年法律第74号による改正により,自動車の保管場所の継続的確保を図る制度が設けられ,保管場所の確保されていない自動車の保有者に対して,自動車の運行を制限する措置を設けるなど,平成2年法律第73号による道路交通法の改正とあいまって,いわゆる放置車両に対する規制の強化が図られた(平成3年7月施行)。
道路運送車両法は,道路運送車両に関し,所有権についての公証等を行い,安全性の確保や公害の防止その他の環境の保全・整備についての技術の向上を図り,併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより,公共の福祉を増進することを目的とする法律であり,昭和26年に制定された。
平成14年法律第89号による改正では,自動車をめぐる経済社会情勢の変化に対応するため,自動車製作者等によるリコールの実施を確実なものにするためにリコール命令に関する規定を設け,同規定に違反した者に対する罰則が新設されるとともに(平成15年1月施行),有効な自動車検査証の交付を受けている自動車等の不正改造行為に対する罰則が新設された(同年4月施行)。
平成29年法律第40号による改正では,自動車の型式指定制度の適正な実施を図るため,国土交通大臣から自動車の型式について指定を受けた者に対して同大臣が行う報告徴収又は立入検査において,虚偽の報告をした者や検査を忌避した者等に対する罰則が強化された(平成29年6月施行)。
自動車を運転して過失により人を死傷させた場合は,長らく,業務上過失致死傷罪が適用されてきたが,平成13年法律第138号による刑法改正(平成13年12月施行。本章第1節4項参照)により,危険運転致死傷罪が新設され,故意に一定の危険な自動車の運転行為を行い,その結果人を死傷させた者は,その行為の実質的危険性に照らし,暴行による傷害罪・傷害致死罪に準じた重大な犯罪として処罰されることとなった。さらに,平成19年法律第54号による刑法改正(19年6月施行。同節9項参照)により,危険運転致死傷罪が適用されない過失による死傷事故に対しても,事案の実態に即した適正な科刑を行うため,自動車運転過失致死傷罪が新設された。
平成25年11月,自動車の運転による死傷事件に対して,運転の悪質性や危険性等の実態に応じた処罰ができるようにするため,自動車運転死傷処罰法が成立した(26年5月施行)。この法律において,<1>危険運転致死傷罪が刑法から移されて規定されるとともに,危険運転致死傷罪の新たな類型として,通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転して人を死傷させた場合が追加され,<2>アルコール,薬物又は病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,アルコール等の影響により正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合が,従来の危険運転致死傷罪より刑の軽い,新たな危険運転致死傷罪として新設された。また,<3>自動車運転過失致死傷罪が刑法から移されて過失運転致死傷罪として規定されるとともに,<4>アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して過失により人を死傷させ,その運転のときのアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる行為をした場合が,過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪として新設され,<5>危険運転致死傷罪,過失運転致死傷罪及び過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪を犯した時に無免許運転であったときに刑を加重する規定が新設された。
平成期における悪質な交通違反に関する刑罰規制の変遷については,1-1-2-1表参照。