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 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/2 

2 戦後における刑法の改正の概要

(1) 昭和22年の改正
 戦時に適用されていた戦時刑事特別法は,戦後間もなく廃止され,日本国憲法が昭和21年11月に公布(22年5月施行)されたのに伴い,その制定の趣旨に適合するように,22年10月,刑法の一部改正(同年11月施行)が行われた。
 主要な改正点は,[1]皇室に対する罪,外患罪の一部,安寧秩序に対する罪,姦通罪等の廃止,[2]公務員職権濫用,特別公務員職権濫用,特別公務員暴行陵虐,暴行,脅迫,名誉毀損,公然わいせつ,わいせつ物頒布等の各罪の法定刑引上げ,[3]暴行罪の非親告罪化,[4]重過失致死傷罪の新設,[5]名誉毀損罪につき事実の証明に関する規定の設置,[6]刑の執行猶予のできる範囲の拡大,[7]刑の消滅に関する規定の新設,などである。
 その後,刑法は,以下のとおり,平成8年末までの間に10回にわたる改正がなされている。
(2) 昭和28年及び29年の改正
 昭和28年の一部改正(同年12月施行)においては,刑の執行猶予の要件を緩和するとともに,一定の要件の下で再度の執行猶予ができるようにし,その猶予期間中は必ず保護観察に付することとされ,さらに,29年の一部改正(同年7月施行)において,初度の刑の執行猶予についても保護観察に付することかできるなどとされた。
 なお,この昭和29年の改正に伴って,同年7月,執行猶予者保護観察法が施行されている(第2編第2章第4節3参照)
(3) 昭和33年の改正
 昭和33年の一部改正(同年5月施行)においては,[1]一層公務員の綱紀粛正を図るべきであるという観点から,あっせん収賄罪及びこれに対応する贈賄非の規定が設けられ,[2]当時,各地に多数発生を見た,暴力団等による殺傷暴力事犯の実情にかんがみて,これらの取締り・処理の適正を期するために,証人等威迫罪,凶器準備集合及び結集罪等が新設されるとともに,[3]二人以上の者が現場で共同して犯した,いわゆる輪姦的形態による強姦罪及び強制わいせつ罪等が非親告罪とされた。
 なお,この刑法改正に併せて,被害者を含め証人等の保護その他の観点から,刑事訴訟法の一部改正(第2編第2章第1節3参照)及び証人等の被害についての給付に関する法律の制定(本編第7章第3節3参照)がなされている。
(4) 昭和35年の改正
 昭和35年の一部改正(同年6月施行)においては,当時,終戦直後の社会的混乱期を経て国民生活もおおむね安定し,社会秩序も平常に復したものの,戦後広がった土地・建物の不法占拠がなお後を絶たない実情にあったことを踏まえ,不動産侵奪罪及び境界毀損罪が新設された。
(5) 昭和39年の改正
 昭和39年の一部改正(同年7月施行)においては,戦後漸増の傾向を示し,この当時にその悪質化傾向が目立ってきた,いわゆる身の代金を目的とする略取・誘拐に対処するため,これに関連する刑法の規定の整備強化をし,身の代金目的の略取等の罪,その予備罪等が新設された。この前年の38年には,東京都台東区内において,身の代金を目的とした,4歳の男児に対する,いわゆる「吉展ちゃん誘拐事件」が発生している。
 また,暴力団組織の大規模化・広域化に伴い,暴力団の対立抗争事件が激化し,暴力団構成員による犯罪が悪質危険化する状況にかんがみ,暴力行為等処罰ニ関スル法律の一部が昭和39年に改正(同年7月施行)され,[1]持凶器傷害罪が新設され,[2]常習的暴力行為に対する法定刑が引き上げられ,[3]その常習的暴力行為の中に新たに刑法204条(傷害)が加えられ,傷害を含む常習的暴力行為についてより重い法定刑が定められた。
(6) 昭和43年の改正
 昭和43年の一部改正(同年6月施行)においては,業務上(重)過失致死傷罪の法定刑の引上げなどがなされた。これは,当時の,交通事故とこれに伴う死傷者数が著しく増加する中で,自動車運転に起因する業務上過失致死傷等の事件においても,高度の社会的非難に値する悪質重大事犯が続出し,裁判において法定刑の上限又はこれに近い刑が言い渡される例も増加しつつあったという背景の下でなされている。
(7) 昭和55年の改正
 昭和55年の一部改正(同年4月施行)においては,悪質な贈収賄事件の防止の観点から,この種賄賂事犯に対し,事案に応じた適切な科刑の実現を図り,かつ一般予防的効果を期するために,収賄罪及びあっせん贈賄罪の各法定刑が引き上げられた。
(8) 昭和62年の改正
 昭和62年の一部改正においては,大別して二つの事項に係る改正がなされている。
 第一(昭和62年6月施行)は,コンビュ-タ等の電子情報処理組織が普及し,これに関連する不正行為に適切に対処する必要性が生じたことによる改正であり,[1]電磁的記録不正作出等の罪,電子計算機損壊等による業務妨害罪,電子計算機使用詐欺罪がそれぞれ新設され,[2]公正証書原本不実記載・同行使罪,公用文書等毀棄罪及び私用文書等毀棄罪の容体に電磁的記録が含められた。
 第二(昭和62年7月施行)は,当時,外交官の誘拐,殺害その他テロ行為の防圧について国際的な協力体制を充実する必要性があり,国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約(昭和62年条約第3号)の締結も急がれていたことから,主としてその実施のための措置としてなされた改正であり,条約による国外犯規定(条約上要請される範囲で刑法各則の罪の国外犯を処罰する規定)の新設が行われた。
 なお,この第二の改正と併せて,人質をとる行為に関する国際条約(昭和62年条約第4号)の実施のための措置として,人質による強要行為等の処罰に関する法律(本章第2節10参照)が改正され,人質による強要等の罪が新設され,これについては,刑法の,国民の国外犯及び条約による国外犯の各規定の徊に従うものとされ,また,同時に,暴力行為等処罰ニ関スル法律が改正され,加重傷害・同未遂罪については,刑法の,国民の国外犯の規定に加えて,条約による国外犯の規定の例に従うものとされた。
(9) 平成3年の改正
 刑法その他の刑罰法規に定める罰金及び科料の額等については,当分の間,昭和23年12月に公布(24年2月施行)された罰金等臨時措置法(本節3参照)によるとされていた。同法は47年に一部改正がなされたものの,同年以降における経済事情の変動等にかんがみ,罰金等の刑罰としての機能を確保し,刑事司法の適正な運営を図るため,平成3年4月に公布(同年5月施行)された罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律(平成3年法律第31号)によって,刑法に定める罰金及び科料の額が改められた(本節3(3)参照)。
 なお,この改正は,それまでのように罰金等臨時措置法を改正する方法によらないで,刑法を直接改める方法が採られたことが特徴である。
(10) 平成7年の改正
 平成7年の一部改正(同年6月施行)は,刑法の表記を平易化(ひらがな化など)し,併せて最高裁判所において違憲の判断がなされている尊属殺人に関する規定をはじめとする尊属加重規定等を削除することなどを内容とした。