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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第五章/二/1 

二 保護観察

1 保護観察の体制

(一) 現行制度の概況

(1) 保護観察と刑事政策

 更生保護制度の主軸になっているものは,保護観察制度である。保護観察は,犯罪者を更生させるために,本人に一定の遵守事項を与えておいて,社会のなかで通常の生活をさせつつ,指導監督・補導援護をする更生保護措置である。その指導監督・補導援護は,対象者に対し個別的に,その行状と生活を見守りつつ,状況に応じて本人とその環境にはたらきかけて,本人の改善と更生をはかるものである。
 保護観察には,二種がある。施設に収容しないで初めから保護観察をするもの(プロベイション)と施設処遇から社会に復帰させたうえで保護観察をするもの(パロール)との二つである。

(2) 保護観察に付される者

 保護観察の対象は,現行法では次の五種類の者となっている。
一 家庭裁判所で少年法の保護観察処分を受けた者(保護観察処分の少年)
二 少年院からの仮退院を許す処分を受けた者(少年院仮退院者)
三 仮出獄を許す処分を受けた者(仮出獄者)
四 保護観察付執行猶予の判決を受けた者(保護観察付執行猶予者)
五 婦人補導院からの仮退院を許す処分を受けた者(補導院仮退院の者)
 保護観察に付される者の数はVI-2表のように,最近は毎年七万人を前後している。対象者の種別でみると,昭和三四年の新受事件では,仮出獄者が最も多くて三万一千人,家庭裁判所で少年法の保護観察処分を受けて来た者が二万三千人,保護観察付執行猶予に付された者が八千人,少年院仮退院者が七千人,婦人補導院仮退院者は百人に足りない。この対象者種別の人員の割合は例年ほぼ同じような傾向をとっている。

VI-2表 保護観察事件の受理処理人員(昭和32〜34年)

(3) 保護観察の組織

(イ) 保護観察の機構
 保護観察を行なう責任機関は保護観察所である。保護観察所は各地方裁判所の所在地にもうけられている法務省の出先機関で,それぞれその管轄区域内の保護観察対象者に対して,個別にその保護観察を実施している。
 しかし,対象者は管轄区域内にひろく分散居住しているので,保護観察所の職員である保護観察官が直接その動静を常時把握して,機宜適切の措置を講ずることは困難である。それで個々の保護観察は,多くの場合,対象者の居住地に近いところに配属されている保護司に担当させている。その担当の保護司が,保護観察所の指揮監督をうけて常時不断の保護観察を行ない,その保護観察の実施状況を定期および臨時に保護観察所に報告し,保護観察所は必要に応じて適宜適切の措置をとる,という体勢で保護観察は進められている。
(ロ) 遵守事項
 保護観察を受ける者に対しては,初めから各人の遵守すべき事項が定められていて,これを遵守事項という。保護観察対象者は,保護観察の期間中,自分の遵守事項を守り通さなければならない。
 遵守事項は,内容的にみると,それを遵守することが本人の更生のために必要不可欠の事項である。したがって,すべての遵守事項は対象者によって行動の規範として尊重され遵守されることが期待されており,保護観察は,本人がこれを遵守するように本人を指導援護することを重要な課題として行なわれ,本人がもしこれを遵守しない場合には,保護観察によって更生をはかるには適しない状態にあると認められて,別途の措置が考慮されることになる。
 遵守事項には,形式上,一般遵守事項と特別遵守事項との二種類がある。一般遵守事項は,同じ処分で保護観察を受けることになった者が共通に与えられている遵守事項で,法律で一般的に定めてある法定遵守事項である。特別遵守事項は,各人の個々の性格や習慣や境遇などを考慮して定められる特殊な遵守事項である。ただし,保護観察付執行猶予に付された者に対しては,その各人に共通な一般遵守事項が法定されているだけで,特別遵守事項は定められない。
 家庭裁判所で少年法の保護観察処分を受けた少年,少年院仮退院者,仮出獄者,婦人補導院仮退院者―この四種類の対象者については,各人に共通な遵守事項は犯罪者予防更生法で定められているが,それは,(イ)一定の住居に居住し,正業に従事すること,(ロ)善行を保持すること,(ハ)犯罪性のある者または素行不良の者と交際しないこと,(ニ)住居を転じまたは長期の旅行をするときは,あらかじめ,保護観察を行なう者の許可を求めること―この四項である。またその特別遵守事項は,家庭裁判所で保護観察に付された者については,本人の保護観察をつかさどる保護観察所の長が当該家庭裁判所の意見を聞いて定め,少年院からの仮退院,刑務所からの仮出獄,または婦人補導院からの仮退院によって保護観察に付される者については,その仮退院または仮出獄を許す決定をする当該地方更生保護委員会が定める。特別遵守事項は,一人に対して一事項のこともあり,三,四の事項が定められることもある。その実例としては,帰住地の指定,いかがわしい場所に出入りすることの禁止,過度の飲酒の禁止,被害者に対する弁償,家族の扶養,特定の人との交際の禁止等に関する事項等がある。
 保護観察付執行猶予に付された者に対する遵守事項は,別途に執行猶予者保護観察法で法定されている。保護観察付執行猶予に付された者は,すみやかに一定の住居を定め,その住居地を管轄する保護観察所の長にこれを届け出るほか,保護観察に付されている期間中,(イ)善行を保持すること,(ロ)住居を移転しまたは一カ月以上旅行をするときは,あらかじめ保護観察所の長に届け出ること―この二つの事項を遵守しなければならないことになっている。この者には,共通に,この法定遵守事項が科せられるだけで,特別遵守事項を定めることができない。
 遵守事項はすべて,本人が重病,重症である場合のほか原則的に保護観察の開始前に本人に指示される。家庭裁判所の処分で保護観察に付された者に対しては,保護観察所の長が指示し,仮退院または仮出獄の者に対しては,釈放の際に釈放官庁の長が指示する。そして本人から,遵守事項を遵守する旨の誓約書を徴する。この指示と誓約書の徴収は,法律の規定に基づいて行なうのであるが,その趣旨は,各本人に遵守事項の意味とこれに関する責任を自覚させ,更生のために心の準備を整えさせることにある。保護観察付執行猶予に付された者については,法律の規定はないが,保護観察所は同じ趣旨によって遵守事項の指示を行ない,また誓約書の提出を求めて,更生の生活に向かう自覚を促すことになっている。
(ハ) 指導監督・補導援護
 保護観察の実質は指導監督・補導援護である。指導監督・補導援護は,遵守事項を定められて社会生活を許されている犯罪者を対象として,その対象者が社会の善良な一員となって更生を遂げるように,本人とその環境とにはたらきかける刑事政策的作業である。
 指導監督・補導援護の具体的な方法は,個々の対象者の具体的状況に応じてその目的に役立つような適切なものでなければならない。だから指導監督・補導援護をするには,対象者の年齢,経歴,心身の状況,家庭,交友その他の環境等を十分に考慮して,本人の改善および更生をはかるのに最もふさわしい方法をとることになっている。したがってそれは,実際には種々の形で行なわれている。
 しかし,指導監督・補導援護の実行上,どの場合にも共通に守られている原則的事項が三つある。その一は,対象者が遵守事項を守るように適切な指導監督をすることである。その二は,指導監督・補導援護は,対象者本人に自助の責任があることを前提として行なわれることである。その三は,対象者と適当に接触を保ち,つねにその行状を見守ることである。
 保護観察は,自由を与えられて社会生活をしている者を対象とし,しかもこれを更生させようとするものであるから,その目的を達するには,保護観察を行なう者と受ける者との間の親近,信頼,協力の関係によるほかに道はないが,このような人間関係は相互の理解があってはじめて期待できるものであり,理解は相互の人間的接触によらなければ産み出すことができない。だから,接触は保護観察の目的達成のための必須の要件である。適当な接触が保たれるところには,おのずから親近,信頼の人間関係が育てられまた持続される。そればかりでなく,接触は自然に本人の行状を見守ることにもなるから,そこに本人の自戒が生まれ,行動の逸脱が抑制され,本人の改善が行なわれることにもなる。適当な接触と行状の見守りとが行なわれるところでは,ケースワーク的な診断がくり返されて,適時適切の措置が保障されることにもなる。このような種々の意味で,適当な接触の保持と不断の行状観察とは,指導監督・補導援護の基本路線であるとされており,実践上すべての保護観察事件について保護観察の基本方法となっている。
 しかし,指導監督・補導援護は,適当な接触と不断の行状観察を続けてゆくだけでは足りない。多くの対象者は性格や物の考え方にも欠陥があり,環境と他の生活条件にも恵まれていない場合が多く,しかもほとんど例外なく,大なり小なりの危険な誘惑にいつもさらされているので,それらの患部に一々手当てをしてゆくのでなければ,対象者の更生はおろか,転落を防ぐこともできない場合が少なくない。そこで保護観察においては,指導監督・補導援護の方法として,適当な接触と不断の行状観察のほかに,本人の状況に応じて,交友関係,家族関係その他の環境の改善調整,適当な居住地の開拓,帰住の援助,就職の援助,職業補導等種々の措置が行なわれなければならない。
 指導監督・補導援護の実施担当者は,保護観察官かまたは保護司でなければならないが,現状ではほとんどすべての場合に保護司が,この保護観察担当者に指名されて,その実施にあたっている。
 保護観察の本体である指導監督・補導援護は,このように保護司の担当となっているが,対象者の更生のために,担当者をして適切な指導監督・補導援護を実施させる責任は保護観察所にある。だから保護観察所は,つねに担当者の実施状況を把握して,随時必要な指揮監督の措置をとらねばならない。保護観察所が充実していない場合には,この指揮監督が十分にできないために保護観察の実施が充実を欠くことになる。
(ニ) 中間緊急措置
 対象者の一人びとりに担当者をきめて,その指導監督・補導援護にあたってゆくことが,保護観察の通常の姿であるが,対象者の状況によっては,その指導監督・補導援護の遂行が円滑に行かない場合があり,また状況によっては,それだけでは対象者の危機を打開できない場合がある。このような場合には,保護観察所が直接その対象者に対して必要な措置をとって,担当者による指導監督・補導援護を補強することができる。その措置は,保護観察の途上で,本人の転落の防止のために特にはさみこまれるという意味では中間的な措置であるが,指導監督・補導援護の渋滞または対象者の危機を打開するという意味では緊急重要な措置である。
 中間緊急措置の一つは,呼出,引致である。保護観察所の長は,必要があるときはいつでも,保護観察に付されている者を呼び出し,質問することができる。また,本人が一定の住居に居住しない場合,または,本人に遵守事項違反の疑いがあって,呼出をしても呼出に応じない場合には,裁判官に引致状の発付を求め,その引致状によって本人を引致することができる。引致はしかし実際は多く行なわれてはいない(VI-3表)。

VI-3表 保護観察対象者の引致件数等(昭和33,34年)

 もう一つの中間緊急措置は,応急の救護援護である。保護観察に付されている者が,負傷または疾病のため,または適当な仮泊所・住居がないかまたは職業がないため,更生を妨げられるおそれがある場合には,保護観察所の長は,本人が公共施設その他から医療・食事・宿泊・就職その他必要な救護を得るように,直接これを援護しなければならない。もしもその援護ができないかまたはその援護では本人の緊急状態の打開ができない場合は,自庁の予算でその応急の救護をしなければならない。

(二) 保護観察に付する処分―対象者の選定

(1) 対象者の選定―処分機関と実施機関

 現行法で前記五種類の者が保護観察の対象になっているのは,それぞれの処分が,本人を保護観察に付する趣旨の処分であるからである。少年法の保護観察処分と,保護観察付執行猶予の判決とは,ともにその主文のなかで,本人を保護観察に付することを決定する。仮退院を許す処分,仮出獄を許す処分は,その決定の主文では保護観察のことに言及しないけれども,仮退院者・仮出獄者は,保護観察に付されることが法律で定められているので,仮退院・仮出獄の処分は,当然に保護観察に付する処分を含んでいる。
 保護観察を実施する機関は保護観察所であるが,対象を選ぶのは家庭裁判所,刑事裁判所および地方更生保護委員会であるから,保護観察所は,これらの選定機関によって保護観察に付された者に対しては,たとえその者が保護観察には適しない場合であっても,保護観察を行なわなければならない。他面,保護観察に付されなかった犯罪者のなかに,保護観察が最も適当であろうと思われる者が仮にあったとしても,保護観察所はその者に対して保護観察を行なうことはできない。だから,保護観察制度の効率的な運用のためには,対象者の選定をする各機関と保護観察の実施機関である保護観察所との間に呼吸の合った連絡協力が保持されなければならない。

(2) パロール対象者の選定

 少年院仮退院者,仮出獄者および補導院仮退院者の選定は,前章でみたように,更生保護の機関である地方更生保護委員会が矯正施設の協力を得て,仮釈放審理の過程で行なっている。その結果,年々矯正施設から社会に帰る者のうち保護観察の対象となる者は,少年院では八〇%強(前掲V-18表),刑務所では七〇%弱(前掲V-6表),婦人補導院では約五五%となっている。

(3) 少年法の保護観察処分

 少年法で家庭裁判所の調査・審判に付される者は,犯罪をした少年または非行少年であるが,家庭裁判所では,少年事件を受理すると,すべてこれを調査に付し,調査の結果いろいろに区分けをし,その区分けによって審判に付した事件については,審判でまた区分けをする。その区分けの状況はVI-4表5表のとおりで,一般少年事件では終局決定総人員のうち保護観察に付された者の比率は,昭和三〇年以降各年を通じて一五%前後になっている。

VI-4表 家庭裁判所の(少年事件)終局決定人員中の保護観察人員と率(昭和30〜34年)

VI-5表 家庭裁判所の(少年事件)終局決定区分別人員と率(昭和34年)

 なお,保護観察に付される少年には,一般少年事件のほかに道路交通違反という特殊なものがあり,昭和三四年についてみると少年の道路交通事件終局決定総人員の〇・九%にあたる三,三四一人が保護観察に付されている。この数は,両事件を含めて保護観察に付された総人員の一四・三%に該当する。道路交通違反があったという理由で少年を積極的に保護観察に付すべきか否かについては,見解は区々のようである。司法統計年報(昭和三四年・少年編)によると,全国の家庭裁判所四九庁のうち,道路交通事件の少年に対して積極的に保護観察処分をしているものが六庁あるが,その他は,全く保護観察処分をしないもの一二庁,〇・一%に足りない比率においてその処分をしたもの一〇庁,一・〇%に足りないもの二一庁である。これは,道路交通違反事件の少年に対しては,他に事由がないかぎり保護観察は適当でない,という見解によるものであろうと思われる。

(4) 執行猶予者の選定

 刑の執行猶予を言い渡された者のうち保護観察に付される者の割合は,各論第一章II-23表に示したように,昭和三二年一五%,昭和三三年一八%,昭和三四年一八・三%となっている。
 前述したように執行猶予者に保護観察を付ける場合には二種類があり,その一つは,再度目の執行猶予者に保護観察を付ける場合であって,この場合には必ず保護観察を付けなければならない。その二は,初度目の執行猶予者で保護観察をつける場合であって,この場合には保護観察をつけるかどうかは裁判所の裁量にゆだねられている。
 執行猶予に保護観察をつけるこの制度は,まだ歴史が浅く,再度目の執行猶予をつけることができるようになったのは,昭和二八年一二月からであり,初度目の執行猶予に裁量で保護観察をつけることができるようになったのは,昭和二九年七月からである。保護観察付執行猶予が当初においてことに少なかったのは,歴史が浅いために保護観察制度の理解が十分行き届かなかったためであろう。しかし最近は,保護観察制度の運用状況が前記のように少しずつ高まっており,ことに初度目の執行猶予の場合の保護観察の比率も,昭和三二年までは一〇%に足りなかったが,昭和三三年一二・四%,昭和三四年一三・四%というように,上昇している。

(三) 保護観察から除外されている犯罪者

 更生保護の対象となる犯罪者は右の五種類の者のほかにも,起訴猶予者,満期出獄者などの種類(後述更生緊急保護の対象者参照)があるが,これらの者は保護観察から除外されている。事実上はこれらの者の中にも,再犯のおそれが認められ,あるいは現実に再犯に陥る者が少なくないが,これに対して遵守事項を定めて指導監督をすることは,自由の制限になるから,これらの者には保護観察をすべきでなく,特に本人が希望する場合でも補導援護だけにとどめるというのが現行制度の立場である。
 これは一応理由のあることではあるが,再犯防止の立場からは再検討を要することであろう。特に,膨大な数にのぼる起訴猶予者が保護観察の対象から除外されていることは,早急に検討を要する問題だとされている。