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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第三章/七/1 

1 短期自由刑の問題

 短期自由刑というのは,どの程度の刑期をもつ自由刑なのであるかについては,争いがある。一週間説,六週間説,三月説,六月説,一年説などがある。六月説が通説であるが,イギリス行刑当局などは,刑期の三分の一で免除があることを考慮にいれると,四年以下の刑は短期であるともいえるというのである。ある学者は,「受刑者の改善のためにはあまりにも短かく,しかし,これを腐敗させるには十分な期間」をもつ自由刑であるといっている。従来,さして重大でない犯罪者には,短い自由刑を科することが各国で行なわれて,そのために,受刑者やその家族が不幸に陥り,犯人はまた再犯をおかして,やがて重大な犯罪をおかすことにもなり,社会保全に影響があるというところから,これに代わる処置を求めようとして考えられた問題である。刑罰が責任に基づく限り,まったくこの言渡を避けるということはできないが,できるだけ代用処分に求めようとするのが,現代の刑事政策の傾向である。しかし,反面,また,刑罰でなく,その代用処分として短期収容処分を言い渡し,その短い期間で心理療法などを行なって効果をあげようとする傾向もある。
 短期自由刑が六月以下の刑期のものであるとすれば,わが国ではあまり問題ではない。国際連合が各国から集めた資料によると,六月以下の短期自由刑に処せられた者の数はフインランド六〇%,イギリス六九・二%,ドイツ七一%(これは三月以下),オランダ三分の二,ユーゴ・スラビヤ八〇%,ベルギー八〇%,イタリー六〇%,スペイン五%,スイス八五%などで,いちじるしく大きな割合を占めているのであるが,わが国では前掲IV-4表に示すように,懲役受刑者については,わずかに一一・二%であって,これに禁錮,拘留を加えても一一・七%をでない。
 しかし,仮釈放制度がひろく導入された今日,施設収容中には適性に応じた職業の訓練,その他の矯正処遇を行ない,成績のよい者は早期に施設外で保護観察にうつすということを考えると,さきに述べたイギリス行刑当局の考慮しているように,あえて,六月説にとらわれる必要はなく,ひろく,矯正と保護とのためにどの程度の刑期が必要であるか(ここではこれを短期自由刑ということにする)ということに検討を加える必要がでてくる。そこで,法務総合研究所は研究部発足当初において,この研究をそのテーマの一つに選んだ。その調査研究は,まだ緒についたばかりであるが,ここで,昭和三四年度における予備的研究の概要に触れておこう(法務総合研究所研究部紀要一九六〇年第一分冊参照)。
 この短期自由刑の効果に関する研究は,(1)短期受刑者の成行調査による研究と,(2)無作為抽出指紋原紙による調査研究の二つに分かれている。まず,成行調査の方は,昭和二八年中に宇都宮,静岡,甲府の三刑務所から釈放された初犯の男子受刑者二,二四四人を対象として,これを対象者全員のグループ,窃盗罪で初入刑を受けた者八二三人のグループ,そのうち一個の刑だけの者(窃盗一刑クループ)四七六人のグループ等に分け,各グループについて,再入率ないしは再逮捕率,再犯期間等を国籍,釈放理由別,刑数,罪質,刑期,釈放時年齢などの関係において考察している。その結果,執行刑期別では,全員のグループについて一年から一年六月のものの再入率が最も高く,また,窃盗グループについては,六月から一年のものの再入率が最も高くなっている。警察の再逮捕率でみると,窃盗一刑グループについては,言渡刑期の短期のものほど再逮捕率が高いという傾向がみられ,また,再逮捕期間が早くなっている。
 次に,指紋原紙による調査は,昭和二九年一月現在の九三万四千余枚のうちから無作為抽出した四,九八九枚を資料として,初入刑の出所年次別に第一期(明治四一年まで),第二期(大正一一年まで),第三期(昭和一一年まで),第四期(昭和二〇年まで),第五期(昭和二三年まで)および第六期(昭和二八年まで)の六期に分け,そのうち比較的新しい第三期以降のものをこまかく分析した。これによると,在所期間六月をこえ一年以下のものの再入率が最も高く,また,再入速度についてもこれらの者に比較的早い傾向がみられ,特に窃盗犯のものについては,こうした傾向が顕著であることがわかった。