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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第三章/七/2 

2 刑務作業の問題

(一) 有用作業の伸長

 全国刑務所において,現在実施している作業の種類は大別して二五業種であるが,このなかには,木工,印刷,洋裁,金属,革工等受刑者が社会に復帰してから生計の途が得られるようないわゆる有用作業と,紙細工,藁工等内職的手工作業で,受刑者が社会に定着するための授職手段としては好ましくない,いわゆる低格作業がある。
 そもそも,刑務作業は,受刑者に対する釈放後の生活手段として,職業的技術を付与することを目的としているので,すべて有用作業によって運営されることが最も望ましいわけであるが,予算,設備,受刑者の心身の状況などの関係から全面的に実施することは困難である。しかしながら,つとめて有用作業の伸長に努力した結果,昭和三四年度においては,低格作業の就業人員は前年度にくらべ,一日平均一,七〇〇余人減じており,また,昭和三五年度においては有用作業の就業人員が低格作業の就業人員をこえた(IV-20表)。

IV-20表 刑務作業業種別就業人員と率(昭和33〜35年)

 一方,受刑者が就いている作業の業種によって,刑務所内の規律違反の状況をみると(この調査は,府中,横浜,千葉の三刑務所における昭和三五年中の違反件数である),有用作業に就いている受刑者の規律違反は,就業延人員八七五,二七〇人に対し違反者八九四人であったが,低格作業に就いている受刑者の規律違反は,就業延人員五二九,二五〇人に対し一,〇一三人の違反者があり,有用作業に就いている受刑者のそれとくらべ高い数字を示している。
 この原因はいろいろ挙げられるが,その一つとして,低格作業が矯正目的から比較的はずれた作業であり,このことが規律違反の発生を助長していることも見のがせないところである。
 このような見地から,有用作業の拡充は,受刑者の更生復帰のうえからも,また国家財政に寄与するためにも,強力にこれを推進しなければならないものと思われる。

(二) 職業訓練の充実

 行刑の目的は,受刑者の再犯を防止することにあることは言をまたないが,この機能の一面として,刑務作業は授職手段により彼等の社会復帰後の定着を容易かつ可能とする点において,その役割はきわめて大きいものといわなければならない。
 ところで,罪を犯して刑務所に収容される受刑者の入所前の職業についてみると,IV-21表のとおりであり,その約四六%が無職者である。彼らが定職をもたないために犯罪に陥る破目となったということは容易に想像され得ることで,これらの者に対する職業訓練は,再犯防止のうえからきわめて必要なことは言をまたない。のみならず,このことはまた現下の労働需要にも応ずるゆえんである。

IV-21表 新入受刑者の犯時職業別人員と率(昭和34年)

 これらの必要から刑務所においては,職業訓練の拡大,強化につとめているが,技術職員,予算,設備等の関係から,いまただちに大幅な拡張ができない実情にある。
 なお昭和三四年度中に職業訓練を終了した者は,指物科,機械科,ラジオ組立科等二五種目一,七二四人で,これに要した経費は二六,二五七,〇〇〇円,このうち理容,美容等の資格,免許取得者は三五七人,合格率は八三%であった。