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令和7年版 犯罪白書 第7編/第6章/第4節/1

1 精神障害を有する者を中心とした性犯罪被害の防止に向けて

本編第5章及び本章第3節2項(1)における特別調査<2>の調査・分析結果によれば、精神障害を有する性犯罪被害者については、日中や夕方の時間帯、通所・通学先の施設・特別支援学校等の建物内やこれらの場所と自宅との往復経路等の屋外又は自動車や送迎バス等の車内において、被害に遭うリスクが高いこと、支援関係者等の被害者にとって身近な存在から被害に遭うリスクもあること、加害者の人物像は65歳以上の高齢者が多く、同種前歴を有している者は1割強にとどまることなどの事情が読み取れる。また、精神障害を有しない性犯罪被害者については、夕方や夜中の時間帯に被害に遭うリスクが高く、加害者の人物像は20~30歳代等の比較的若い年齢層が多いことなどの事情が読み取れる。

これらのリスク等を踏まえた精神障害を有する者の性犯罪被害の防止に向けた方策としては、目新しい指摘ではないが、まずは、なるべく被害者を1人にしないこと、加害者になり得る立場の者と被害者を1対1の状況にしないことの重要性を再確認することができる。そして、このことを実現するためには、一案として、建物や室内等に構造上の工夫をすることで、できる限り死角を排すること、施設等の運営上や人員の配置上の工夫をすることで、被害者が支援関係者を含む相手方と2人きりになる状況を積極的に回避することなど、物理面からの被害防止の方策が考えられる。また、建物内・敷地内・店舗内・街頭等の各所に設置された防犯カメラ、送迎バス・自動車等に設置されたドライブレコーダー等のデジタル機器を最大限に活用し、被害者を見守るための物理的な手段を増やすことなども、被害防止にとって有効であろう。さらに、GPSやスマートフォン等の機能を有効活用することで、必要に応じて、被害者と常に連絡が取れる体制を構築し、被害者の行動状況等を記録できるようにすることなどの手段・方策も考えられる。特に、精神障害を有する性犯罪被害では、夜間の被害が少ないにもかかわらず、屋外等での被害も多いことからすると、加害者において、被害者と1対1の状況でさえあれば、被害者から抵抗されたり、通報されたりする可能性を過小に評価して大胆に犯行に及んでいる可能性もうかがわれることから、以上のとおり指摘した物理的な対応による方策は、性犯罪被害の防止に向けた現実的な効果が十分に期待できると考える。

また、精神障害を有する性犯罪被害者は、性別にかかわらず、被害者を支援等する立場の者を含む被害者にとって身近な存在からも、被害に遭う可能性がある。なお、特別調査<2>の結果では、精神障害あり群の事件の加害者は支援関係者が最も多かったものの、これは、加害者が被害者の身近な存在であったからこそ、最も多く犯行が発覚したにすぎない可能性があることには、留意が必要である。さらに、前歴が全くないか、同種前歴がない高齢者から被害に遭う可能性があることも踏まえると、被害者との関係性、相手の立場や年齢等、外見的な事情では加害者となり得る者を判別することが難しいことを念頭に置いておく必要がある。したがって、被害者に携わる関係者の心構えとしては、被害者の身近にも性犯罪の加害者となり得る者が存在するリスクがあることを認識した上、日頃の被害者の行動やその周囲の状況等に危険がないように見逃さないことが肝要であろう。