矯正における被害者等の心情等の聴取・伝達制度は、令和5年12月から運用が開始された(概要については、第6編第2章第1節5項及び6項並びに本節2項参照)。
本制度の目的は、被収容者の矯正処遇等において被害者や御遺族の心情等をより直接的に反映し、被害者等の立場や心情への配慮等を一層充実させるとともに、被収容者に対して、反省や悔悟の情を深めさせ、その改善更生を効果的に図ることにある。
本制度は、申出のあった被害者等の心情等を聴取し、被害者等が希望する場合にはその心情等を加害者である被収容者に伝達するとともに、矯正処遇等に活かしていくものである。本制度の導入に伴い、全国の刑事施設及び少年院では、受付から伝達までの各事務を中心となって行う「被害者担当官」を指名している。
制度のおおまかな流れは次のとおりである。
<1>心情聴取の申出
被害者等から本制度の申出書が提出されたら、受付を行い、聴取を行う日時・場所等について、被害者等の意向を踏まえながら電話等により調整を行う。
<2>心情等の聴取
被害者担当官が、被害者等から被害に関する心情等を聴取し、その内容を記載した書面を作成する。
<3>心情等の伝達
被害者等から伝達の希望がある場合、心情等の内容を記載した書面を被収容者の面前で読み上げて伝達する。
<4>伝達結果の通知
被害者等に対して、被害者等の心情等を被収容者に伝達した年月日や内容のほか、被害者等の希望に応じて、伝達の際に被収容者が述べたことなどを併せて知らせる。
ここでは、どのように業務と向かい合っているのか、被害者担当官の思いを紹介する。
○被害者担当官Aさん
・ 制度の運用に当たって工夫していること
この制度の意義の一つは、被害者等の方々の支援です。被害者等の方々が自らの心情等を整理し、それを加害者に伝えることで、被害者等の方々が元の生活に戻るきっかけを少しでも得ることが可能になればと思います。もう一つの意義は、加害者の更生です。被害者等の方々の置かれた状況を知ることで自らの行為を反省し、更生につなげることができます。注意することは、加害者の更生を被害者等の方々の支援より優先させてはいけないことだと思います。
そして、この制度の中で、加害者と被害者等の方々をつなぐ役割を担うのが、私ども被害者担当官です。これまで、複数の被害者等の方々から心情等を伺いましたが、被害者等の方々の事件や加害者に対する感情は、事件から年数を経過していても、いまだに峻烈(しゅんれつ)であると感じます。
私は、被害者等の方々に制度利用に当たっての留意点(例えば、伝達結果の通知において、加害者の本心を知ることで二重に傷つくおそれがあることなど)も正確にお伝えした上で、被害者等の方々の意思に寄り添い、伴走しながら対応することを心掛けています。そのため、制度利用に係る正確な情報の提供・説明を行うとともに、制度利用者の情報を正確に把握するため、施設独自のチェックシートを作成しています。
・ 聴取や伝達場面で心掛けていること
事件のことを思い出して話すことは、被害者等の方々・加害者共に痛みを伴うことなので、聴取・伝達場面では、傾聴、共感、受容を意識して臨んでいます。
・ 伝達によって被収容者が変わったと感じた場面
私は、伝達から1か月経過後、伝達を受けた被収容者に対し、心情把握のために面接をしています。その際、伝達を受けた被収容者から、事件のことは忘れずに反省してきたつもりだったが、制度を通じて事件後の被害者の方の思いや生活の苦悩を知り、全然足りていなかったと気付いた旨言われました。
○被害者担当官Bさん
・ 伝達によって被収容者が変わったと感じた場面
被収容者は、伝達までは、受刑の原因や仮釈放が許されなかったことなど、自分にとってマイナスな出来事に対して責任転嫁するような発言がみられていましたが、伝達の際は耳を傾け、涙ながらに被害者の方に対する謝罪の言葉を述べていました。その姿を目の当たりにしたとき、被収容者の変化を感じました。
・ 被収容者処遇に対する自分自身の考えが変わったと感じる点
生の声というのは、ダイレクトにパワーや熱量を感じます。被害者等の方々が抱えている計り知れない苦しみは、お話を聴いて想像することしかできないのですが、被害者等の方々から感じたものを、できる限りそのまま被収容者に伝えるために、ときには、職員と被収容者という指導する側、される側という関係性ではなく、同じ人と人という、より対等な関係性で話をする場を作ることも必要だと考えるようになりました。
・ 被害者担当官として得た経験ややりがい
被収容者処遇を行う立場でありながら、被害者等の方々と会うことができる時間は、刑務官人生において非常に貴重で意味のあるものとなっています。この経験は、被収容者を更生に導くための原動力の一つとなっているとともに、自分自身の考え方や生きる姿勢にも大きな影響を与えています。
被害者担当官は本制度の運用を支える重要な役割を果たしていることから、矯正局としては、被害者担当官が安心して本制度の運用を担える体制づくりを行うとともに、被害者担当官の業務に関する周囲の職員の理解を促進することで、引き続き本制度の円滑な運用に取り組んでいく。