受刑者の処遇は、刑事収容施設法に基づき、受刑者の人権を尊重しつつ、その者の年齢、資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを目的として行う。その流れは、2-4-3-1図のとおりである。
令和4年6月、刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)の成立により、懲役及び禁錮が廃止され、新たに拘禁刑が創設された。懲役は刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑であり、作業が刑の本質的要素であるため、どの受刑者も一定の時間を割かなければならなかった。受刑者の中には、改善更生や社会復帰を図るため、作業よりも指導を優先的に実施した方が有効と考えられる者や、医療や福祉の面から作業よりも支援に多くの時間を割く必要性のある者もいるところ、そうした者に対して、必要な指導や支援を行う時間を確保することが困難な場合があった。また、禁錮は刑事施設に拘置する刑であり、作業を行う刑法上の義務がないため、改善更生や円滑な社会復帰に有用な作業であっても、本人が希望しない限り作業を実施させることができなかった。そこで、刑事施設に拘置し、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる拘禁刑を創設した。これにより、全ての受刑者に一律に作業を行わせるのではなく、個々の受刑者の特性に応じて、作業と指導を柔軟に組み合わせた処遇を実施することが可能となった。また、刑事施設に拘置(1日以上30日未満)される刑である拘留についても、拘禁刑と同様に、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができることとされた。(7年6月1日施行。第2編第1章第1項(1)参照)。
拘禁刑及び拘留に処せられるのは、改正後の刑法が施行された令和7年6月1日以降にした行為の処罰を受けた者であり、それ以前に確定している懲役、禁錮及び令和4年法律第67号による改正前の拘留(以下この節において「旧拘留」という。)の裁判の効力やその執行が影響を受けることはなく、また、同日より前に行った行為については令和4年法律第67号による改正前の刑が適用される。そのため、当分の間、刑事施設には、懲役受刑者、禁錮受刑者及び旧拘留受刑者(以下この節において「懲役受刑者等」という。)も収容されることとなるが、拘禁刑導入に伴う処遇の充実策は、懲役受刑者等についても、その刑の趣旨に反しない限り広く実施される。
受刑者の処遇の中核となるのは、矯正処遇として行う作業(次項参照)、改善指導及び教科指導(本節3項参照)である。受刑者の処遇は、個々の受刑者の年齢、資質及び環境に応じて適切な内容と方法で実施することとされている(個別処遇の原則)。
そのため、各刑事施設では、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用し、面接、診察、検査その他の方法により、受刑者の資質及び環境の調査(処遇調査)を実施している。新たに刑が確定した受刑者で、26歳未満の者、特別改善指導(本節3項(2)参照)の受講に当たり特に調査を必要とする者等には、調査センターとして指定されている特定の刑事施設で特に精密な処遇調査が行われている。拘禁刑下における処遇は、受刑者の資質面により踏み込み、きめ細かな調査による特性把握とそれに応じた処遇の実践が求められる。そのため、処遇調査は、心理専門官、刑務官のほか、必要に応じて福祉専門官、就労支援専門官等の多職種の職員が関与し、多角的・複層的な視点で行われている。
また、刑の執行開始時に行う処遇調査においては、原則として、受刑者の再犯の可能性等を客観的、定量的に把握するために開発を進めている受刑者用一般リスクアセスメントツール改訂試行版(Gツール改訂試行版)を実施している。これにより、<1>これまでの受刑回数や犯罪の内容等、主に処遇によって変化しない要因(静的領域の要因)、<2>本人の価値観や認知の偏り等、刑事施設内における指導等を通じて今後も変化しうる要因(動的領域の要因)、<3>評価への意識や矯正処遇への動機付け、小児期逆境体験など、処遇の浸透のしやすさ等に関わる要因(個別特性領域の要因)を把握し、処遇の参考としている。
刑事施設では、刑の執行開始時の処遇調査(調査センターでの処遇調査を含む。)の調査結果を踏まえ、受刑者に処遇指標を指定する。拘禁刑導入前の処遇指標は、受刑者に実施すべき矯正処遇の種類・内容、受刑者の属性及び犯罪傾向の進度から構成されていたが、拘禁刑の導入に伴い、<1>医療上の措置等の必要性の程度の別、<2>性別、<3>実施すべき矯正処遇課程の別、<4>実施すべき矯正処遇の種類の別、<5>実施すべき特別コースの別について指定するものとなった。2-4-3-2表は、令和7年6月1日以降の受刑者の処遇指標を示したものである。処遇指標を指定されることで、処遇の内容と受刑者の収容される刑事施設等が定まる。
新たな処遇指標として導入された矯正処遇課程は、受刑者の年齢、心身の状況、執行すべき刑期、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰の支障となる事情等に照らし、一定の共通する特性等を有する受刑者の類型ごとに、重点的に処遇すべき内容を備えたものである。合計24の矯正処遇課程が設けられており、受刑者にとって最も必要性が高い課程を一つ指定し、当該矯正処遇課程の内容を中心に処遇が実施される。また、従来の「犯罪傾向の進度」に類似する概念である「再犯リスク」に加え、「矯正処遇に取り組む態度その他改善更生に向けた心構えの程度」を示す「処遇準備性」の評定を組み合わせ、個々の受刑者の特性に応じた処遇の在り方等を示す「処遇レベル」という新たな観点も取り入れられた。なお、懲役及び禁錮の受刑者に対しても、刑の趣旨に反しない限りにおいて、矯正処遇課程を指定し、処遇の充実を図っている。
受刑者に必要な矯正処遇及び社会復帰支援を集中的かつ効果的に実施するためのプログラムである「特別コース」は、五つのコースが設けられた。例えば、集中的な教科指導が必要と認められる者を教科指導集中処遇コースに指定し、松本少年刑務所内の公立中学校分校へ編入させる(本節3項(3)参照)。
受刑者には、刑執行開始時調査の結果に基づいて、矯正処遇の目標、作業、各指導等の内容・方法等が処遇要領として定められ、矯正処遇は、この処遇要領に従って計画的に実施される。また、矯正処遇の進展に応じて、定期的に又は臨時に処遇調査を行い、その結果に基づき、必要に応じ処遇指標及び処遇要領を変更する。
なお、令和4年法律第67号による刑事収容施設法の改正により、受刑に係る罪に被害者等が存在する受刑者に係る処遇要領を策定又は変更する際や、同受刑者に対し矯正処遇等を行うに当たって、被害者等の被害に関する心情や被害者等の置かれている状況、被害者等の心情等の聴取・伝達制度(第6編第2章第1節5項参照)により被害者等から聴取した心情等を考慮することが法定化された(令和5年12月施行)。
受刑者の自発性や自律性を涵(かん)養するため、受刑者処遇の目的(改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成)を達成する見込みが高まるに従い、順次、規律・秩序維持のための生活・行動の制限を緩和し、その制限が緩和された順に第1種から第4種までの制限区分を指定している。そして、定期的に、又は随時、前記見込みを評価し、その評価に応じて、制限区分の指定を変更している。各制限区分に指定された受刑者の制限の内容は、第4種では、原則として居室棟内で矯正処遇等を行うこと、第3種では、主として刑事施設内の居室棟外(工場等)で矯正処遇等を行うこと、第2種では、刑事施設外での矯正処遇等が可能となること、第1種では、居室に施錠をしないことなどである。第1種の受刑者のうち一定の要件を満たす受刑者の処遇は、開放的施設(収容を確保するため通常必要とされる設備又は措置の一部を設けず、又は講じない刑事施設の全部又は一部)で行う。開放的施設として6施設(旭川刑務所西神楽農場、網走刑務所二見ヶ岡農場、市原刑務所、広島刑務所尾道刑務支所有井作業場、松山刑務所大井造船作業場及び鹿児島刑務所農場区)が指定されている。
また、受刑者に改善更生の意欲を持たせるため、刑事施設では、定期的に受刑態度を評価し、良好な順に第1類から第5類までの優遇区分に指定し、良好な区分に指定された受刑者には、外部交通の回数を増やしたり、自弁(自費購入又は差入れを受けること。以下この章において同じ。)で使用できる物品の範囲を広げたりするなどの優遇措置を行っている。
受刑者は、第1種の制限区分に指定され、開放的施設で処遇を受けており、仮釈放を許す決定がされている場合において、円滑な社会復帰を図る上で、釈放後の住居又は就業先の確保、家族関係の維持・調整等のために外部の者を訪問し、あるいは保護司その他の更生保護関係者を訪問するなどの必要があるときに、刑事施設の職員の同行なしに、刑事施設から外出し、又は7日以内の期間で外泊することを許されることがある。令和6年度の実績は、外出44件、外泊3件であった(法務省矯正局の資料による。)。