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令和6年版 犯罪白書 第7編/第6章/第5節/3

3 加齢に伴う不安・悩みや孤立に対する処遇・支援の重要性

特別調査の結果から、女性受刑者のうち特に60歳以上の窃盗事犯者については、加齢に伴い、生活環境や経済状況の変化によって生じる将来への漠然とした不安や、心身の不調の増加に伴い増していく悩みを抱える中で、周囲の人間との関わりが少なくなることによって孤立したまま犯行に至る者が少なくないことがうかがわれた。このような60歳以上の窃盗事犯者の加齢に伴う様々な不安・悩みや孤立に対しては、不安・悩みを解消し、孤立を軽減するための相談先へとつなぐことが必要である。

この点、窃盗事犯者のうち60歳以上の女性受刑者では、相談相手がいないことや、どこに相談すれば良いのか分からないため、悩みごとの相談に至らなかった者が一定程度いたことから、刑事施設のみならず、各支援機関等においても、保護観察所が地域援助の一環として設置している犯罪・非行の地域相談窓口「りすたぽ」等の社会復帰後の相談窓口等に関する広報を更に推進していくことが重要である。また、支援機関等への相談に対する考えについて男女別の比較では、女性受刑者は、「家族や交際相手などの大事な人が理解・協力してくれれば」の該当率が最も高かったことから、家族や交際相手等がいる場合には、これらの者に支援・協力を求めることで、女性受刑者が支援機関等への相談をしやすい状況を作り出すことが可能となるものと考えられる。具体的には、これまで保護観察所において、刑事施設等に入所中の者で生活環境の調整の対象となっている者の引受人又は家族に対する引受人・家族会を開催し、あるいは保護観察対象者と引受人又は家族との面接を実施する際に、引受人又は家族に各支援機関等の情報を提供しているところ、このような取組を更に充実させていくことが重要である。もっとも、本章第3節で述べたとおり、更生緊急保護による宿泊供与の委託終了者における更生保護施設等入所事由では、女性は、男性よりも「親族が引受けを拒否」及び「親族と同居を望まず」の構成比が高いほか、法務総合研究所が実施した聞き取り調査の結果では、特別調整の対象となる女性受刑者は、高齢者、再犯者、窃盗事犯者が多い一方、家族や自宅がある者も多いが、結局、犯罪を繰り返す中で引受けを拒否されるようになったケースも多いと指摘されていることから(本編第4章第1節6項(2)参照)、これまで支援・協力をしてきた家族が、今後の支援等を拒否する場合には、新たな支援体系の構築を検討すると同時に、これまで支援・協力をしてきた家族等との関係修復に向けた助言等の働きかけを行うことが望まれる。

また、これまでは、刑事司法手続の終了に伴い、それまで受刑者等に対する処遇・支援等を行ってきた刑事司法関係者との関係も途切れてしまい、その後の相談先を見つけることが難しい場合もあったところ、近年、保護観察所においては、保護観察期間終了後も支援対象者の希望に応じ、精神保健福祉センターその他の関係機関に支援を引き継ぐなどしているほか、支援対象者の家族に対しても、希望に応じ、支援を行っている。そのほかにも、法務省において、更生保護施設退所者等が更生保護施設に通所して支援を受ける「フォローアップ事業」、更生保護施設職員が更生保護施設退所者等の自宅等を訪問するなどして継続的な支援を行う「訪問支援事業」、保護観察所が実施する地域援助、「刑執行終了者等に対する援助」などの新たな取組が実施されていることから、今後もこのような取組のより一層の充実・拡充が期待される。

さらに、第二次再犯防止推進計画は、福祉的支援の必要が認められるものの就労可能な者に対しても、個人の特性に応じて就労に向けた支援を行うなど、個々の特性に応じた必要な支援の充実を図るとしているものの、年齢が高くなるにつれて就労先を見つけることは難しくなる上、そもそも生活に必要な金銭を得る手段が確保されており就労の必要がないケースもあることから、特に高齢の女性犯罪者については、就労支援が必ずしも円滑な社会復帰に結び付くとはいえない場合もある。このように、直ちに福祉的支援を受けるまでには至らず、かつ就労支援も功を奏さない者については、出所後に自らの力で環境を変えることは相当に難しいことから、これらの者に対しても、福祉的支援や就労支援以外の方法、例えば、各種地域活動への参加をあっせんするなどして、社会内での居場所作りを行っていくことが望まれる。