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令和6年版 犯罪白書 第7編/第6章/第5節/2

2 被害経験等による生きづらさを踏まえた処遇・支援の必要性

特別調査の結果から、女性受刑者の中でもとりわけ薬物事犯者は、被害経験、小児期逆境体験(ACE)、精神疾患、自傷行為等多方面において、問題を抱えている者が多く、それが社会における生きづらさの要因の一つとなっている者もいることがうかがわれた。

現在、少年院では、女子の少年院入院者の多くが虐待等の被害体験や性被害による心的外傷等の精神的な問題を抱えていることを踏まえ、女子少年院在院者の特性に配慮した処遇プログラムが実施されているほか、刑事施設においても、問題を抱える成人女性の特性に配慮した処遇がなされているところ、刑事施設出所後も、受刑に至るまでの生育歴、行動歴を理解した上で、長期的な視点からこれまでの生きづらさに対する治療的、支援的な関わりを行うことが有効であると考えられる。そこで、社会内処遇・支援を実施する保護観察所や更生保護施設においても、同処遇プログラムを実践している女子少年院や刑事施設における処遇のノウハウを活用して処遇・支援に当たることが期待される。また、現在、女性の更生保護施設の一部では、依存症や嗜癖問題について、医療・福祉等の専門家の助言を受けるなどしているところ、このような取組が更に多くの施設で行われ、どの施設においても依存症や嗜癖問題に関する処遇・支援を受けることが可能な状況を作り出すことが望ましい。もっとも、法務総合研究所が行った聞き取り調査でも、社会内処遇・支援を実施する機関・団体でトラウマ体験に適切に対応することの難しさが指摘されるなど、社会内における個別の対応には限界がある。今後、トラウマ体験を有する者についての更なる研究の進展が期待される。さらに、薬物事犯者の女性受刑者は、市販薬の目的外使用や自傷行為などの問題行為のほか、人間関係の悩みなどを持つ者も多く、その生きづらさがより複雑なものとなっている。そのため、このような複雑な状況に対応し、地域の中で継続的な支援が受けられるよう、これまで保護観察所が実施する地域援助の取組等により実施されている医療・福祉等を行う機関・団体との間での連携の取組を今後も継続していく必要があるほか、配偶者や親族等に対しても、円滑な社会復帰のための重要な社会資源として更に協力を求める必要がある。もっとも、女性受刑者の中には、配偶者・交際相手からの被害体験等を有している者や、配偶者・交際相手が共犯者である者などもいるため、配偶者・交際相手を更生のための協力者とすべきではない場合がある。このような場合には、本人の意思を尊重しつつ、適切な環境調整を行うことができるよう慎重に処遇・支援を行う必要がある。