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令和6年版 犯罪白書 第7編/第6章/第4節/2

2 薬物事犯の女性受刑者の傾向・特徴

この項では、調査対象となった受刑者の総数(以下この項において「総数」という。)を男女別に比較するとともに薬物事犯者(今回受刑することになった事件中に薬物犯罪が含まれる者をいう。)を男女別に比較した結果から、薬物事犯者の女性受刑者の傾向・特徴を見ることとした。

(1)基本属性等から見た傾向・特徴

薬物事犯者の年齢層別構成比では、女性受刑者と男性受刑者の年齢分布に大きな偏りはなく、20歳から39歳までが4割近くを占めていることから、39歳以下の者が比較的多いといえる。

(2)生活状況から見た傾向・特徴

配偶者・交際相手間の加害・被害経験では、身体的暴行、心理的攻撃、経済的圧迫及び性的強要の四つの項目において、総数の女性受刑者は、総数の男性受刑者よりも、「加害なし・被害あり」及び「加害・被害あり」の構成比が高く、薬物事犯者の女性受刑者は、薬物事犯者の男性受刑者よりも、「加害なし・被害あり」及び「加害・被害あり」の構成比が高かった。また、前記四つの全ての項目について、薬物事犯者の女性受刑者は、総数の女性受刑者よりも、「加害・被害なし」の構成比が低い一方で、「加害なし・被害あり」及び「加害・被害あり」の構成比が高いことから、女性受刑者の中でもとりわけ薬物事犯者は、配偶者又は交際相手とのトラブルを抱え、あるいは配偶者又は交際相手からの被害経験を有する者が多いことがうかがえた。

他方、小児期逆境体験(ACE)の経験の有無については、薬物事犯者の女性受刑者は、薬物事犯者の男性受刑者と比べて、小児期逆境体験(ACE)に関する12項目について「あり」の該当率が総じて高く、特に「親が亡くなったり離婚したりした」及び「家族から、心が傷つくような言葉を言われるといった精神的な暴力を受けた」の該当率は50%、「家族から、殴る蹴るといった体の暴力を受けた」の該当率は40%、「母親(義理の母親も含む)が、父親(義理の父親や母親の恋人も含む)から、暴力を受けていた」の該当率は30%をそれぞれ超えていることから、女性受刑者の中でもとりわけ薬物事犯者は、小児期逆境体験(ACE)を有する者が多く、被虐待経験を有する者も少なくないことがうかがえた。そして、小児期逆境体験(ACE)のうち特に被虐待経験を有する者は、より多くの潜在的トラウマ体験を有し、心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder。以下「PTSD」という。)ハイリスク群に該当する割合が高いことが指摘されているところ、男女の比較では、女性受刑者のうち精神疾患「あり」と回答した者の中で、「PTSD」の該当率が10.8%であった(7-5-2-10図参照)ことから、女性受刑者、特に薬物事犯者の女性受刑者の中には、小児期逆境体験(ACE)やこれまでの被害経験がトラウマ化し、PTSDを発症するなどしている者もいることが推察された。さらに、薬物事犯者の女性受刑者は、総数の女性受刑者の場合よりも、市販薬等の目的外使用経験について「あり」の構成比が高いほか、自傷行為の経験では「なし」の構成比が低いことにも照らすと、薬物事犯者の女性受刑者は、被害経験、小児期逆境体験(ACE)、精神疾患、自傷行為等多方面において問題を抱えている者が多く、それが社会における生きづらさの要因の一つとなっている者もいることが推察された。

(3)交友関係から見た傾向・特徴

今回受刑することになった事件における共犯者の有無について、薬物事犯者の女性受刑者では、薬物事犯者の男性受刑者と比べて、共犯者「あり」と回答した者の構成比が高く、同共犯者との関係では、「配偶者・交際相手」の該当率が最も高かったことから、薬物事犯者の女性受刑者の中には、配偶者・交際相手と共に犯罪に及ぶ者が少なくないことがうかがえた。本章第2節3項で述べたとおり、女性受刑者は、親族が社会復帰の際の支援者・協力者となることが多い傾向が認められるところ、薬物事犯者の女性受刑者については、このように共犯者が配偶者であるなどの事情から、親族の中でも特に配偶者は、直ちに社会復帰の際の支援者・協力者となり得ない場合があることが推察された。さらに、反社会的行為をする者との関わりの有無等について、「警察に捕まるような行為をする者との日常的な関わり」、「暴力団関係者との関わり」及び「暴力団以外の反社会的集団に属する者との関わり」のいずれについても、薬物事犯者の女性受刑者は、総数の女性受刑者の場合よりも「あり」と答えた者の構成比が高く、交友関係や周囲の環境に問題のある者が多いことがうかがえた。困りごとの内容では、薬物事犯者の女性受刑者は、「人間関係」の該当率が71.2%と、総数の女性受刑者の場合よりも高く、また、薬物事犯者の男性受刑者よりも高いことから、薬物事犯者の女性受刑者においては、人間関係の悩みを持つ者が多く、その生きづらさがより複雑なものとなっていることが推察された。

(4)小括

薬物事犯という観点からは、女性受刑者の場合、男性受刑者と比べて、被害経験、小児期逆境体験(ACE)、精神疾患、自傷行為等多方面において問題を抱えている者が多く、それが社会における生きづらさの要因の一つとなっている者もいることがうかがわれ、中には、人間関係の悩みにより、その生きづらさがより複雑なものとなっている者もいると推察された。女性犯罪者の再犯防止又は円滑な社会復帰を図るに当たり、主としてこうした被害経験等による生きづらさについても留意する必要があるものと考えられた。