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令和6年版 犯罪白書 第7編/第6章/第4節/1

1 男女の比較による女性受刑者の傾向・特徴
(1)基本属性等及び事件の概要から見た傾向・特徴

女性受刑者の罪名では、窃盗が5割近くを占め、覚醒剤取締法違反も3割を超えているところ、これは、本章第2節3項で述べた近年の女性入所受刑者の傾向とも合致している。刑事施設への入所回数では、女性受刑者の48.8%が2回以上の入所回数を有する再入者である。さらに、女性受刑者の再入者のうち薬物事犯者及び窃盗事犯者の前刑罪名では、いずれも同種前刑罪名が8割を超えており、女性受刑者のうち、これらの事犯の再犯者については、前刑と同じ犯罪を繰り返して今回受刑するに至った者が大半を占めていることがうかがえる。したがって、女性の窃盗事犯者及び薬物事犯者に対する処遇を考える上では、特に再犯防止策に重点を置いて考えることが有用である。

(2)生活状況から見た傾向・特徴

健康状態では、女性受刑者は、慢性疾患「あり」の構成比が約4割、精神疾患「あり」の構成比が5割を超えていたのに対し、男性受刑者はそれぞれ約3割、約2割であった。精神疾患の病名では、女性受刑者は、男性受刑者と比べて、「うつ病・双極性障害(躁うつ病)」、「不安障害(パニック障害など)」、「摂食障害」及び「パーソナリティ障害」の該当率が高く、女性受刑者は、心身の不安定な健康状態にある者が多いことがうかがえた。また、困りごとの内容では、女性受刑者は、男性受刑者よりも、「健康上のこと」の該当率が47.2%と高く、心身の健康に関する悩みを抱えている者が多いことが推察された。なお、男性受刑者と比べて、「妊娠や出産のこと」、「介護のこと」、「人間関係」及び「家族から受けた暴力等の被害のこと」の該当率も高く(7-5-3-11図<1>参照)、女性のライフステージにおいては、様々な困難や家庭内暴力の被害があることもうかがえた。

犯罪に至った当時の環境を自らの力で変え、更生への道を踏み出すためには、ある程度自立した生活を送ることが不可欠であるところ、特に65歳未満の女性受刑者は、同男性受刑者と比べて、逮捕前の収入源について、「自分が働いて得た収入」の該当率が低く、就労状況では、「パートタイム(アルバイトを含む)」、「専業主婦・主夫」及び「無職」の構成比が高いほか、自分の収入だけで生活できるという感覚については、「なかった」の構成比が高く約6割であった。このような状況は、本章第2節3項で述べた女性入所受刑者の有職者率の傾向とも合致している。これらのことから、65歳未満の女性受刑者は、同男性受刑者と比べて、生活費等を得る手段について他律的になりやすく、金銭的な自立感覚がないことがうかがえた。そして、働いていなかった理由では、65歳未満の女性受刑者は、同男性受刑者と比べて、「健康上の理由から」の該当率が60.0%と高い一方、「特にやりたいことがなかったから」及び「働くのが嫌だったから」といった就労意欲に関する理由の該当率は低かったことから、就労意欲に問題がある者は少ないものの、心身の不安定な健康状態から就労に至ることができない者も多いことが推察された。

(3)周囲との関わりから見た傾向・特徴

一緒に暮らしていた者について、女性受刑者は、男性受刑者と比べて、「いない(一人暮らし)」の該当率が低い一方で、「配偶者(内縁関係や事実婚を含む)や交際相手」と同居していた者の該当率が高いほか、「子(内縁関係や事実婚の配偶者の連れ子を含む)」と同居していた者の該当率も高かった。これは、本章第2節3項で述べた女性入所受刑者の婚姻状況にも沿うものである。そして、逮捕などで身柄を拘束される直前の1年間において、どのくらいの頻度で孤独を感じていたかを見る孤独感得点では、女性受刑者の場合、男性受刑者と比べて、「3点(決してなかった)」の構成比が低く、孤独を感じる者が多い傾向にあることがうかがえた。また、悩みや不安が生じた場合の相談の有無では、女性受刑者は、男性受刑者と比べて、実際に誰かに相談した者の構成比が高く、相談先では、女性受刑者は「病院」の該当率が高かった。女性受刑者の中には、前記(2)で述べたとおり、心身の疾患を抱える者が多く、健康に関する悩みを有する者も多いため、そのことが影響して、相談先として病院の該当率が高くなっている可能性も考えられた。さらに、支援機関等への相談に対する考えについて、女性受刑者は、男性受刑者と比べて、「家族や交際相手などの大事な人が理解・協力してくれれば」及び「誰かに一緒に行ってもらえれば」の該当率が高く、親族や身近な人等の理解や協力があれば、支援機関等への相談につながる可能性があることがうかがえた。

(4)小括

男女の比較という観点からは、女性受刑者は、男性受刑者と比べて、心身の疾患を抱え、不安定な健康状態にある者が多く、健康に関する悩みを抱えている者も多いと考えられた上、特に65歳未満の女性受刑者の場合、心身の不安定な健康状態のため就労に至ることができず、自立的な社会生活を送ることが困難である者が多い傾向にあることが認められた。女性犯罪者の再犯防止又は円滑な社会復帰を図るに当たり、主としてこうした心身の健康に留意する必要があるものと考えられた。