女性の保護観察開始人員・女性比は、4-7-2-8図及び7-3-4-1図のとおりであるところ、令和5年の開始人員のうち、窃盗が占める構成比は、仮釈放者で44.4%(607人)、保護観察付全部・一部執行猶予者で37.0%(155人)、また、覚醒剤取締法違反が占める構成比は、仮釈放者で35.3%(483人)、保護観察付全部・一部執行猶予者で39.4%(165人)であった(CD-ROM資料2-10参照)。
このように、女性の保護観察対象者に多い犯罪類型である窃盗事犯者及び薬物事犯者に対する処遇として、保護観察所では以下の取組を行っている。
保護観察所においては、処分の罪名に窃盗が含まれ、かつ、窃盗を繰り返してきた者のうち、所持金があるのに窃盗をした者、窃盗に至った経緯を自覚していなかった者、窃盗に伴う満足感や感情の高揚を得ていた者、ストレス解消のために窃盗をした者など、財物そのものを得ることのみを目的とせずに犯行に及んだ者を嗜(し)癖的な窃盗事犯者としている。嗜癖的な窃盗事犯者は、男性よりも女性に多いことが指摘されているところ、保護観察所では、令和2年に作成された「窃盗事犯者指導ワークブック」を活用するなどして保護観察を実施している(第2編第5章第3節2項(7)参照)。同ワークブックには、保護観察対象者自身に、生まれてから現在までの生活歴の中で経験してきたことや事件当時の生活状況を自由に記載させる部分があり、その記載を基に、窃盗の背景要因や窃盗をしないための具体的な対処方法を考えさせるなどして再犯防止の指導を行っている。また、法務総合研究所が令和5年6月に実施した宇都宮保護観察所の保護観察官からの聞き取り調査では「女性の窃盗事犯者の場合、高齢者が多く、ある程度年齢を重ねてから窃盗をし始めたという者が多い。摂食障害にまつわるものも多いが、金銭的にさほど困窮していないのにやめられないというケースが多い。」との所感を得ているところ、保護観察所では、摂食障害や精神的な問題を抱える者に対しては、必要に応じて通院を勧めたり、医療扶助の申請に同伴するなどの支援を行っている。
保護観察所では、依存物質の使用を反復する傾向を有する者に対して薬物再乱用防止プログラム(第2編第5章第3節2項(3)参照)を実施している。女性の保護観察対象者に対する薬物再乱用防止プログラム実施の際には、女性に限定した集団処遇を実施することで、女性ならではの課題や問題を話題にしやすいよう工夫したり、性別を限定せずに処遇を実施する場合であっても、保護観察官による個別面接を並行して実施するなどして、女性の課題や問題に応じた助言指導を行っている。同プログラムについては、令和5年度に改訂を行い、ステップアッププログラム中の女性の保護観察対象者向けの課程を拡充した。この課程では、セルフケアや薬物と食行動の関係など、女性の薬物事犯者に特に考えてほしい項目について取り扱っている。また、保護観察所において民間の薬物依存症リハビリテーション施設等に委託し、薬物依存回復訓練も実施している。さらに、法務省及び厚生労働省は、平成27年に策定された「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」に基づき、保護観察所と地方公共団体、保健所、精神保健福祉センター、医療機関その他関係機関とが定期的に連絡会議を開催するなどして、地域における支援体制の構築を図っており、例えば精神保健福祉センター等が行う薬物依存からの回復プログラムや薬物依存症リハビリテーション施設等におけるグループミーティング等の支援につなげるなどして、保護観察対象者が保護観察を終了した後も、薬物依存からの回復のための必要な支援を受けることができるようにしている(第2編第5章第3節2項(6)参照)。そのほかにも、保護観察所においては、刑事施設等に入所中の者で生活環境調整の対象となっている者の引受人又は家族の協力を得て引受人・家族会を開催し、あるいは保護観察対象者と引受人又は家族との面接を実施する際に引受人又は家族に各支援機関等の情報を提供するなどしている。
薬物再乱用防止プログラムによる処遇の開始人員の推移(最近5年間)を男女別に見ると、7-4-2-1図のとおりである。
令和元年度から札幌刑務支所において試行された女子依存症回復支援モデル(本章第1節2項参照)では、更生保護官署も刑事施設と連携して処遇・支援を行っている。具体的には、札幌刑務支所に設置された女子依存症回復支援センターに入所中の女性受刑者について生活環境の調整を行う際、同女性受刑者の生活環境の調整に関わる各機関・団体等が参加して行うケア会議に、札幌刑務支所に駐在する地方更生保護委員会の保護観察官や、保護観察所の保護観察官も参加するなどし、出所後の支援の枠組みの整備を行っている。同ケア会議においては、薬物依存からの「回復」に焦点を当て、出所後の支援体制構築に必要な社会資源等の調査や、各機関・団体が行う支援の調整などを行っている。これに関し、法務総合研究所が令和4年10月に実施した札幌保護護観察所の保護観察官からの聞き取り調査では「同センターから出所してきた者は、他の保護観察対象者と比べると、断薬に向けての動機付けが高いように感じる。薬物への脆弱性はあるものの、対処スキルを身に付けているように思う。一方で、中には、保護観察中のプログラムに対して、「もうプログラムは十分にやってきたから。」とあまり乗ってこない者もいる。」との所感を得た。なお、女子依存症回復支援モデルは、令和6年4月1日から女子依存症回復支援事業となったが、保護観察所の参加状況等に大きな変化はない。
嗜癖的窃盗事犯者や薬物事犯者の女性の中には、過去の傷付き体験から心理的な問題や対人関係の葛藤を抱え、窃盗を繰り返すに至ったり、あるいは薬物依存症となった者も少なくない。そこで、保護観察対象者のうち一定の基準を満たす者については、処遇の実効性を高めるため、CFP(Case Formulation in Probation/Parole)を活用したアセスメントに基づく保護観察(第2編第5章第3節2項(1)参照)を実施している。アセスメントの結果、専門医による治療が必要と考えられる保護観察対象者については、必要に応じて精神科医療機関や福祉関係機関との連携を図り、治療を受けさせるなどの支援等を行っている。これに関し、前記法務総合研究所が実施した札幌保護観察所の保護観察官からの聞き取り調査では、「女性の保護観察対象者には、薬物依存症の問題と他の精神疾患の問題の両方を抱えている対象者が多く、摂食障害を抱えている者も少なくない。また、男性と比較して、より複合的な問題が多く、犯罪以外にもケアしなければならない問題が多いと感じる。さらに、女性は、トラウマ体験を抱えている者も多いと思うが、トラウマ体験を更生保護施設や社会内処遇で安全に取り扱うのは相当難しいと感じている。」との所感を得た。