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令和5年版 犯罪白書 第7編/第6章/第3節/2

2 就学、就労の状況における特徴を踏まえた非行少年の支援・処遇の在り方

特別調査の結果、就学状況に関し、経済状況別に見ると、少年院在院者、保護観察処分少年のいずれも、中学2年の頃の授業の理解度について「分からなかった」の構成比は、非生活困難層が最も低く、学校を辞めたくなるほど悩んだ経験について「学校をやめたくなるほど悩んだことはない」の該当率は、非生活困難層が最も高かったほか、中学2年の頃の勉強の仕方について「学校の授業以外で勉強はしなかった」の該当率は、生活困窮層が最も高かった。加えて、保護者の意識として、進学の見通しについては、生活困窮層では、「中学まで」の構成比が高い一方、「短大・高専・専門学校まで」及び「大学またはそれ以上」の構成比が低かった。

また、就労の状況に関しては、転職歴ありの構成比が、少年院在院者では74.6%、保護観察処分少年では48.5%であった。また、少年院在院者では、対人関係が合わなかったことを転職理由として挙げるものが多いなど、不安定な就労状況にあることがうかがえた。

以上の傾向・特徴のほか、令和4年の少年院入院者のうち約4割が高校中退であったことや男子では約3割、女子では約4割が無職であったこと(本編第4章第3節参照)などを踏まえると、再犯・再非行防止の観点から、少年院及び保護観察所における修学支援及び就労支援等の充実強化が重要と考えられる。

(1)修学支援の充実強化

少年院においては、高等学校等への復学等を希望している少年院在院者に対し、修学支援の充実強化に努めている(第3編第2章第4節3項(5)参照)。加えて、少年院においては、矯正教育の一つの分野である教科指導において、中学校等の学習指導要領に準拠した教科指導を行っているほか、文部科学省との連携の下、それぞれの少年院内において高等学校卒業程度認定試験を行う(同節3項(2)参照)など、施設内に収容して指導等ができる利点を生かした取組を積極的に実施している。一方、保護観察所においても、近年、「修学支援パッケージ」を枠組みとする取組が全国的に展開されており、社会内でのそれぞれの個別のニーズに応じたきめ細かな支援等の充実が志向されている(コラム11参照)。さらには、法務省においても、令和3年8月から、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)による非行少年への学習支援事業が開始されるなど(同節3項(5)参照)、非行少年に対する修学支援の取組は着実に充実強化が図られている。

これらの取組が、少年院や保護観察所において、引き続き、きめ細かく取り組まれていくことが望まれる一方、今回の特別調査の結果から、経済状況が厳しい少年の場合、高等学校以上の教育段階に進学し、又は修学を継続していくに当たっては、保護者の協力・理解の有無なども含め、現実的には課題も多いことがうかがえた。この点、支援等の在り方として肝要なのは、非行少年が何らかのきっかけにより、更に上の教育段階への進学等の意欲を示した際に、当該少年の状況に即した、進学先に関する情報はもとより、利用可能な経済的支援を含む各種支援制度等に関する情報も個別にかつ速やかに提供できる体制を整えておくことであると考えられる。少年院においては、修学支援デスク(同節3項(5)参照)による情報提供が可能となっているところ、個々の少年のニーズを踏まえた、施設内・社会内での切れ目のない支援・対応が望まれる。

(2)就労支援等の充実強化

法務省は、厚生労働省と連携し、刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施しており、少年院在院者及び保護観察処分少年もその対象とされている。具体的には、少年院や保護観察所では、ハローワークとの連携の下、支援対象者の希望や適性等に応じ、計画的に就労支援(職業相談、職業紹介、職業講話等)を実施している。また、少年院在院者に対しては、刑務所出所者と同様、採用を希望する事業者が、少年院等を指定した上でハローワークに求人票を提出することができる「受刑者等専用求人」が運用されており、事業者と就職を希望する少年院在院者とのマッチングの促進にも努めているほか、矯正就労支援情報センター室による広域的な就労支援等も実施されている(第2編第4章第3節4項参照)。

さらに、少年院においては、こうした就労支援のほか、矯正教育の一環として実施している職業指導について令和4年度に見直しを行い、ICT技術科、総合建設科、製品企画科等の新たな職業指導種目を設けるなどして、充実強化を図っている。出院後を見据え、勤労意欲を高め、職業上有用な知識及び技能を習得させることは、再非行防止に向けても非常に重要な要素であると考えられる。しかし、就労支援を受け、そのうち就職の内定を得たものは出院者全体の約1割ほどであることなどを踏まえると(第3編第2章第4節3項(5)参照)、前記就労支援や職業指導の充実強化と並行して、在院中に就労先を決める働き掛けの更なる強化が必要であると考えられる。このため、少年院在院者に対する一層の就労意欲の喚起はもとより、例えば、帰住地付近の就労情報の提供、保護者も含めた動機付けの強化等、より個別的、具体的な働き掛けの充実も望まれる。

次に、少年院出院者や保護観察処分少年が就労を長く継続していくためには、雇用する側の理解・協力も欠かせない。この点、協力雇用主(犯罪をした者等の自立及び社会復帰に協力することを目的として、犯罪をした者等を雇用し、又は雇用しようとする事業主をいう。)への期待は大きいところ、保護観察対象者等を雇用し、就労継続に必要な技能及び生活習慣等を習得させるための指導及び助言を行う協力雇用主に対して、刑務所出所者等就労奨励金を支給する制度が実施されており、同制度の更なる活用や拡充が望まれるほか(第2編第5章第6節4項(3)参照)、日本財団職親プロジェクトによる活動も注目される(同編第4章第3節4項参照)。

ここで、改めて、犯罪者及び非行少年に対する指導及び支援の在り方について確認すると、再犯防止推進法や少年院法のほか、更生保護法にも、性格、年齢、心身の状況、家庭環境、交友関係その他の事情を踏まえ、その者の特性に応じた処遇の重要性等が明記されている。非行少年の処遇を担う少年院や保護観察所においては、これらの諸事情に関する認識が職員間等で共有されているとしても、保護観察中の少年を雇用する側(雇用主側)にこれらの諸事情に関する認識がどれほど共有されているかは個別の事例によりその程度に相違あることが想定される。しかし、特別調査の結果、ACE該当率の高さ(本節3項参照)など、非行少年には一般の少年と比べると厳しい生育環境が背景に存在する可能性がうかがえたほか、令和4年版犯罪白書等においては、非行少年の意識や価値観について明らかにしているところ、これら非行少年の特性に関する知見に加え、例えば、発達障害・知的障害、トラウマ、アディクション(嗜癖)等、非行少年にも見られる知見などを含めて、雇用主側にも、一定の認識を共有してもらい、また、それら知見を深めてもらうための機会を提供することなどは有効であると考えられる。さらに、雇用主側、雇用される側(少年)双方が相互の認識や理解を深め、信頼関係を強固にしていくことが重要であると考えられるところ、更生保護就労支援事業(第3編第2章第5節3項(5)参照)では、支援対象者が、協力雇用主のもとで就労した場合に、支援対象者と協力雇用主の双方に適切な助言等を行う職場定着支援等の寄り添い型の就労支援が実施されており、更なる推進・拡充が望まれる。また、就労前であっても、例えば、少年院側から、雇用主及び少年院在院者双方に対して、相互の認識や理解を深め、信頼関係を構築させていくための機会・取組(面会・通信、職場見学など)を、より積極的に提供・提案することなども有益と考えられる。