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 昭和41年版 犯罪白書 第一編/第一章/二 

二 特別法犯の概況

 この節では,交通関係,暴力関係,財政経済関係,麻薬覚せい剤関係,風俗関係,外国人関係および選挙関係に分けて,特別法犯の概略を説明する。なお,交通犯罪,選挙犯罪,外国人犯罪については,改めて,第二章においてくわしく検討するので,ここでは,それらについては,ごく簡略な説明をするにとどめる。
 まず,交通関係の犯罪についてみると,I-25表のとおりである。道路交通法違反の検察庁受理人員の急激な増加については,すでにふれたとおりであるが,この表は,その増加ぶりを示している。つぎに,道路運送法違反の検挙人員数をみると,昭和三五年と三六年は,それ以前に比し,きわめて大幅な増加をみせたのであるが,三七年以後は急速に減少している。これは,主としていわゆる「白タク取締り」に関係があるものと考えられる。また,自動車損害賠償保障法違反は,同法で定める自動車損害賠償責任保険の契約を締結しないで自動車を運行に供する等の事案が多く,自動車とくに軽自動車の増加に伴い,年々増加していたが,昭和三九年以後は減少傾向にあるのが注目される。つぎに,「自動車の保管場所の確保等に関する法律」違反についてみると,この法律は,昭和三七年九月一日から施行されたものであって,道路上の場所を自動車の保管場所として使用することを禁ずるなど,自動車の駐車に関する規制を強化したものであるが,昭和三八年に五,八四六人の違反者の検挙をみて以来逐年増加し,昭和四〇年は二〇,四六二人を算するに至った。今後も,自動車の増加および同法施行地域の拡大に伴い,増加するものと考えられる。

I-25表 道路交通関係特別法犯検挙人員の推移(昭和35〜40年)

 つぎに,暴力団関係の特別法犯についてみると,I-26表のとおりである。まず,暴力行為等処罰に関する法律違反であるが,昭和三六年以後逐年増加し,とくに,昭和四〇年の検挙人員は一万五千人を越え,昭和三五年の二倍以上になっている。なお,同法違反の検挙人員数を違反の態様別にみると,I-27表のとおりであり,集団的な暴行,脅迫,器物損壊がその大部分を占めている。なお,昭和三九年法律第一一四号によって,第一条ノ二(銃砲刀剣類を用いる傷害等),第一条ノ三(常習的な傷害・暴行・脅迫・毀棄)が新設されたが,右二条によって検挙された者は,昭和三九年に七四〇人,昭和四〇年には二,一二五人あった。

I-26表 暴力関係特別法犯検挙人員の推移(昭和35〜40年)

I-27表 暴力行為等処罰に関する法律違反検挙人員(昭和35〜40年)

 銃砲刀剣類所持等取締法違反は,昭和三六年にわずかに減少した以外,逐年増加し,とくに,昭和三八年以降の増加が目だっている。同法違反の大部分は,第三条違反(所持犯)であるが,けん銃・猟銃の増加が目だっている。
 つぎに,決闘罪であるが,これはその数がきわめて少なく,昭和三八年に一〇〇人を突破したが,昨四〇年には五三人に減少しており,とくに問題とするほどのものはない。
 火薬類取締法違反は,年々増加の傾向にあったが,昭和四〇年は,その前年に比しわずかに減少している。
 なお,I-26表には,軽犯罪法違反と「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律違反」との検挙人員数を掲げることにした。これらの違反行為中には,必ずしも暴力犯罪といいえないものもあるが,いわゆる小暴力ともいうべき犯罪行為を含んでいるとも考えられるので,参考までに掲げたものである。
 つぎに,財政経済関係の特別法犯についてみると,I-28表のとおりである。

I-28表 財政経済関係特別法犯検挙人員の推移(昭和35〜40年)

 関税法違反は,昭和三七年に相当大幅な減少をみせたが,昭和三八年以後増加の傾向に転じ,また外国為替及び外国貿易管理法違反も関税法違反とほとんど同様な推移をたどっている。
 「出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律」違反は,昭和三八年まで減少傾向にあったが,三九年以後は増加傾向を示し,とくに,昭和四〇年の増加が目だっている。
 食糧管理法違反は,昭和三一年に大幅に減少して以来,逐年急激な減少傾向にあったが,昭和四〇年にわずかではあるが増加している点が注意をひく。
 酒税法違反は,昭和三七年,三八年と順次減少したが,昭和三九年に増加し,昨四〇年には大幅に減少し,最近数年間中最低の指数を示している。
 つぎに,麻薬・覚せい剤関係の犯罪についてみると,I-29表のとおりである。麻薬取締法違反事件は,取締りの強化にかかわらず一向に減少しないといわれていたが,昭和三八年には前年に比しやや減少し,昭和三九年には一挙に前年の三七%に激減し,昨四〇年に多少増加したものの,いぜん低水準を保っている。このような激減の原因は,おそらく昭和三八年七月の麻薬取締法の改正により同法違反の罰則が強化されたことおよび取締り強化の結果であると思われる。「あへん法」違反は,昭和三四年の検挙人員はわずかに一三五人にすぎなかったが,翌三五年には一挙に一〇倍に増加し,三六年には半数以下に激減し,その後はおおむね横ばい状態にあったが,昭和三九年以後増加傾向をみせているのが注目される。また,大麻取締法違反の検挙人員は,きわめて少なかったところ,昭和三八年以後,息激な増加傾向にある。これは取締りの強化によるところも多いと思われるが,なお事犯の動向に注意する必要がある。

I-29表 麻薬・覚せい剤関係特別法犯検挙人員の推移(昭和35〜40年)

 覚せい剤取締法違反は,昭和二九年の最盛期には五万五千人以上の検挙をみたが,昭和三三年にはわずかに二七一人となり,ほとんど根絶に近い状態となった。ところが,昭和三四年から再び増加しはじめ,昭和三八年には昭和三五年の二倍以上に達し,憂慮されたのであるが,昭和三九年から再び減少傾向を示している。
 つぎに,風俗犯関係についてみると,I-30表のとおりである。

I-30表 風俗犯検挙人員の推移(昭和35〜40年)

 まず,売春防止法違反は,昭和三五年以後逐年減少している。しかし,この統計面の減少がただちに現実の減少を意味するものとは断定できない。もともと売春事犯は,その統計に暗数が多いとされており,はたして,実際に売春事犯が減少しているか否かについては,なお,いろいろな角度から検討する必要がある。
 風俗営業等取締法違反の検挙人員数は,昭和三五年以後逐年増加している。また,同法違反の検挙件数をその業態別にみると,約八〇%は同法第一条第二号に該当する料理店,カフエーなどであり,最近の傾向として同条第五号該当のバー,喫茶店および深夜喫茶店などの違反が増加している。さらに,違反行為の態様別にみると,最も多いのが時間外営業であるが,最近,無許可営業の増加が目だっている。
 職業安定法違反と児童福祉法違反は,昭和三五年以後相当大幅に増加している。とくに,昭和四〇年における児童福祉法違反の増加は著しく,昭和三五年を一〇〇とする指数で示すと,三九三となっている。これらの違反は,売春や人身売買と密接な関係があるので,この種事犯の増加傾向には注意を要する。
 競馬法違反は,昭和三七年と三八年に減少しているが,昭和三九年以後再び増加傾向に転じている。また,自転車競技法違反は,昭和三五年以後逐年増加の傾向にあり,とくに,昭和四〇年の増加は著しい。競馬法違反および自転車競技法違反の大部分は,私設の馬券や車券を客に売り,これが的中すると,配当金を渡すというやり方の投票類似行為で,俗に,「のみ行為」などといわれているものであるが,これらの違反行為は,暴力団関係者およびそれに近いグループなどによって行なわれており,直接間接に暴力団の資金源となっている点に注意しなければならない。
 つぎに,外国人関係犯罪の検挙人員の推移をみると,I-31表のとおりである。外国人登録法違反は,昭和三六年に大幅な減少をみせ,昭和三七年,三八年と漸増の傾向にあったが,三九年には再び急激な減少をみせ,昨四〇年はわずかではあるが再び増加している。昭和三九年に同法違反で検挙された外国人を国籍別にみると,その八三・四%が朝鮮人で,以下,中国人の五・九%,米国人の四・一%の順となっている。

I-31表 外国人関係犯罪検挙人員の推移(昭和35〜40年)

 出入国管理令違反は,昭和三七,八年に大幅に減少したが,三九年に再び増加し,昭和四〇年にやや減少している。同令違反の大部分は,韓国からの密入国事犯である。
 最後に,公職選挙法違反についてみると,I-32表のとおりである。この表によると,昭和三八年に一〇万人以上の大量な検挙をみているが,これは,同年に統一地方選挙と衆議院議員総選挙が行なわれ,大量な違反者が出たためである。なお,公職選挙法違反については,第二章において詳細に検討を加えることにしたい。

I-32表 公職選挙法違反検挙人員の推移(昭和35〜40年)