このコラムでは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下において、更生保護がどのように活動を継続してきたのか実践例を紹介する。
保護観察は、保護観察官や保護司が保護観察対象者との面接等を行い、生活状況等を把握し、指導監督や補導援護を実施する社会内処遇であるが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下においては、保護観察対象者等との対面での接触を通じて、双方に同感染症の感染拡大につながるリスクが生じることが懸念され、感染防止策の徹底を図りながら、保護観察対象者の改善更生や再犯防止のために適正に業務を継続していくことが課題となった。同感染症の感染拡大下における更生保護業務の運営方針については、全国的な感染拡大の状況に応じて、法務省保護局から随時通知等により示され、それぞれの地方更生保護委員会及び保護観察所は、これらの方針に基づき、各管轄地域の感染状況等を考慮して適時適切に管内の運用方針を定め、矯正施設や各保護司会等の民間団体との間でこれを共有し、対応の一貫性を保つとともに、感染防止策の徹底と可能な限りの業務継続とのバランスを保った。
多くの保護観察所は、保護司による保護観察対象者等との面接について、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの適用期間中は、電話等の代替手段による生活状況把握にとどめる一方、本人と接触して介入する必要性・緊急性が高い事案については、保護観察官が可能な限りの感染防止策を講じた上で面接を実施するなどの対応を行った。また、電話等による生活状況の把握においても、引受人や保護者等からも本人の状況を聴取するなどして、本人の生活実態の多角的な把握に努めた。これらの期間外においては、多くの保護司が対面で面接を行ったが、チェックシートに基づき、保護観察対象者等と会う前に、発熱、咳等の症状の有無等を電話、メール等で確認し合い、実際に面接を行う際には、マスクを着用し、換気を確保するなどの感染防止策を徹底した。また、保護司自身又はその家族に体調への不安があるなどの事情で、一定期間面接が困難である場合は、保護観察官が保護司と協議した上で保護観察官による面接を実施するなどし、保護司との協働による保護観察処遇が適切に行われるよう対策を講じた。
更生保護施設は、住居や頼るべき人がないなどの理由で直ちに自立することが難しい保護観察又は更生緊急保護の対象者を宿泊させ、食事を給与するほか、就職援助、生活指導等を行って、その円滑な社会復帰を支援している施設である(第2編第5章第6節2項参照)。これらの施設は、多くの者が共同生活を送っていることから、感染防止に細心の注意を払いながら業務を継続し、行き場のない者をより多く受け入れて、その更生を助けるという社会的使命との両立に苦心した。東京都内のある更生保護施設では、マスクの着用やアルコールによる手指消毒、毎日の検温の徹底に加えて、施設内での食事の提供についても、食堂での密を回避するために、提供時間を1時間延ばし、食堂内のテーブルの間隔を空け、1テーブル1名ずつで黙食を続けた。こうした対策については、在会者集会や掲示板での共有に加え、令和2年度、3年度の2年で計6回にわたり、薬剤師である保護司の協力を得て、感染防止の基本的事項に関する講話を開催するなどして、入所者の理解を深めた。万が一、入所者の中から濃厚接触者等が生じる事態が発生することもあらかじめ想定し、他の入所者等との接触を可能な限り減らすために、そうした者が出たときに過ごさせる部屋を指定するなどのシミュレーションも行った。
日本の更生保護制度は、保護観察官と保護司の協働を基調としているため、保護司の処遇能力等の向上が非常に重要である。そこで、保護観察所において、法務省保護局長通達に基づき保護司研修を行うとともに、多くの保護司会(第2編第5章第6節1項参照)も、自主研修を開催してきた。しかし、これらの研修は、多くの保護司が一堂に会することから、感染拡大期においては、中止、延期等を余儀なくされた。京都府内の22地区保護司会で組織する京都府保護司会連合会は、毎年11月に、「特別研修会・意見交換会」(以下このコラムにおいて「研修会」という。)を開催し、例年では参加者数600人規模で行ってきた。令和2年度の研修会は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、一時は中止も検討されたが、感染防止策を講じながら実施できる方策を模索し、講演をライブ配信することとし、保護司は、自宅又は京都府内22地区に1か所ずつ設けられたサテライト会場から、オンラインで参加した。当日は、飲酒運転事故の被害者遺族であり、飲酒運転撲滅活動等を行っているNPO法人理事長による講演が行われ、視聴会場では、涙を流しながら、講師の話にうなずく保護司の姿もあった。3年度も、ウェブ会議アプリや動画配信サービスを用いて、研修会を開催し、協力雇用主(第2編第5章第6節4項(3)参照)が地域での立ち直り支援をテーマに講演を行った。
更生保護女性会は、地域の犯罪予防や青少年の育成活動、犯罪者・非行少年の改善更生に協力する女性のボランティア団体であり(第2編第5章第6節4項(1)参照)、これまで、少年院における矯正教育等への支援、地域住民を対象とした子育て支援地域活動や、近隣の更生保護施設に対する食事作り等による援助等を行ってきたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下では、活動の中止、延期等を余儀なくされた。そのような中、愛媛県の松山地区更生保護女性会は、松山市内の更生保護施設に対する食事支援について、手作りの食事の提供までは困難であるものの、令和2年6月から、衛生管理がより確実になされている市販の弁当を届け、更生保護施設入所者を励ます活動を再開したほか、3年11月には、保護観察所の社会貢献活動と合同で、同市内の公園での清掃活動を実施した。さらに、同感染症の感染拡大下において、同県で始まった「シトラスリボンプロジェクト」(同感染症に関する差別・偏見の未然防止及び解消を図るため、シトラス(柑橘類)色のリボンを身につけたりロゴマークを掲示する等の運動)の趣旨に賛同し、シトラス(柑橘類)色のリボンを作り、近所の方々に配布して、運動の趣旨の周知を図るなどの活動を行った。
更生保護においては、犯罪や非行を防止するとともに、犯罪や非行をした人の立ち直りに理解を求めるための犯罪予防活動が各地で取り組まれており、毎年7月を強調月間として行われる「社会を明るくする運動~犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ~」(第2編第5章第6節6項参照)では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下においても、非接触型の広報を各地で展開した。熊本市においては、令和3年7月に関係機関が一堂に会する「“社会を明るくする運動”熊本市推進大会」を開催するための準備を進めていた矢先、同感染症の感染拡大により、同大会の開催が困難になった。そこで、熊本地震被災からの復興の象徴である熊本城を「社会を明るくする運動」のイメージカラーである黄色にライトアップすることを企画した。このライトアップは、<1>「社会を明るくする運動」を少しでも多くの人に知ってもらい、考えるきっかけを作ること、<2>熊本城が熊本地震の被災から復興する姿と、更生を目指す人々が周りの支援を得て立ち直る姿を重ね、更生を目指す人々への応援メッセージとすること、<3>保護司等、更生を目指す人々を支える方々への応援メッセージとすることを目的として、同運動強調月間の初日である同月1日に行われ、その趣旨等を市の広報誌やラジオ、SNS等を通じて広報した。