刑事施設においては、若年受刑者に対する処遇の充実について、令和4年度から「若年受刑者ユニット型処遇」(以下「ユニット型処遇」という。)として新たな試みが始まっている。これは、2年10月、法務大臣からなされた諮問第103号に対する法制審議会の答申を踏まえた取組であり(第2編第1章1項(1)及びコラム3参照)、以下では、その実情を紹介する。
前記答申においては、犯罪者に対する処遇を一層充実させるため講じられることを期待する施策の一つとして、若年受刑者を対象とする処遇内容の充実が挙げられた。具体的には、刑事施設において、少年院の知見・施設を活用して、若年受刑者(おおむね26歳未満の受刑者をいう。)の「特性に応じた処遇」の充実を図るとされ、<1>少年院における矯正教育の手法やノウハウ等を活用した処遇を行うもの、<2>特に手厚い処遇が必要な者について、少年院と同様の建物・設備を備えた施設に収容し、社会生活に必要な生活習慣、生活技術、対人関係等を習得させるための指導を中心とした処遇を行うものが示された。これを踏まえ、法務省において検討が進められ、<1>については「ユニット型処遇」(4年9月運用開始)、<2>については「少年院転用型処遇」(少年院である市原学園を転用し、5年度内に運用開始予定)と整理・位置付けられ、若年受刑者に対する処遇の充実が図られることとなった。以下では、既に運用が開始されている<1>の取組について紹介する。
教育的な処遇が効果的であると思われる若年受刑者を対象とし、小集団に編成したユニットを設け、少年院における矯正教育の知見等を活用しつつ、個々の特性に応じた処遇を実施することとしており、以下の指針が設けられている。
(1)おおむね30名以下の小集団に編成したユニットにおいて共同生活を送らせることによって、基本的な生活能力、対人関係能力等を向上させ、自主性、自律性、社会性等の伸長を図る。
(2)ユニット型処遇を行っている期間においては、各種指導に充てる時間についても十分に確保する。
(3)矯正処遇の内容・方法を検討するに当たっては、対象受刑者の特性に応じたものとなるよう、少年院における矯正教育等の手法や知見等を活用する。
(4)円滑な社会復帰を図る上で、必要に応じて、更生保護官署が行う生活環境の調整への積極的な協力、出所後の就労に係る丁寧な各種支援、対象受刑者の学力の状況を踏まえた重点的な教科指導・修学支援等を行う。
(1)川越少年刑務所(男性受刑者)
(2)美祢社会復帰促進センター(女性受刑者)
処遇指標(2-4-3-2表<2>参照)に新たに設けられた属性:U「おおむね26歳未満の者のうち、小集団を編成して、少年院における矯正教育の手法や知見等を活用した矯正処遇を実施する必要があると認められるもの」に指定された者(以下「ユニット対象者」という。)
なお、Uの判定基準は、以下のとおりであり、前記実施庁において決定する。
(1)犯罪傾向が進んでいない、<1>少年受刑者(JA)又は<2>少年審判で検察官送致となった時に20歳未満であった者のうち可塑性に期待した矯正処遇を重点的に行うことが相当と認められる20歳以上26歳未満のもの(YjA)の処遇指標を指定された者のうち、執行刑期がおおむね9月以上で、心身に著しい障害が認められないなどの基準を満たす者
(2)犯罪傾向が進んでいない、可塑性に期待した矯正処遇を重点的に行うことが相当と認められる20歳以上26歳未満の者(少年審判で検察官送致となった時に20歳未満であった者を除く。)(YA)の処遇指標を指定され、かつ、執行刑期がおおむね1年以上で、心身に著しい障害が認められないなどの基準を満たす者のうち、小集団を編成して矯正処遇を行う効果が高いと認められる者
以上がユニット型処遇の取組の概要であるが、ここで、活用することとされた少年院における矯正教育の手法やノウハウについて検討する。少年院における矯正教育の特徴の一つとして、「個別担任制」(在院者ごとに担任職員を個別に指定)と「チーム処遇」(寮に所属する複数の職員による指導)の実施が挙げられる。少年院では、生活の場と教育の場が一致し、職員が日夜交替で指導等に当たっているなどの特質があるところ、基本的に、個別担任制を敷いた上で、「寮」と呼ばれる集団生活の場において、職員は在院者に対し、矯正教育における各指導場面だけでなく、日常的な生活全般を含めた各場面を通じて、きめ細やかな指導・助言を行うとともに、在院者の身近なモデルとして交流を重ねている。そこでは、信頼関係や更生的風土が重要とされ、職員は、それらを土台とした上で、在院者一人一人の事情や課題を理解し、それぞれの最善の利益を考慮しながら、指導等に当たることが求められている。
刑事施設においても、少年受刑者に対しては、従来から個別担任制が採られていたところ(第3編第3章第3節参照)、ユニット対象者に対しても、個別担任制が導入されることとなったほか、少年院における矯正教育の手法やノウハウを活用した処遇が、具体的には「対話ベース・モデル」という形で示されている。
このモデルの基本方針は、ユニット対象者が、人間としての誇りや自信を取り戻し、再犯に至ることなく健全な状態で社会復帰を遂げることができるよう、刑務官等の刑事施設の職員が、ユニット対象者一人一人の事情、心情等を理解し、共感的に接しながら信頼関係を築くよう努めつつ、対話を通じて、規律の内面化、改善更生を目指すものとされている。この基本方針の下、川越少年刑務所及び美祢社会復帰促進センターにおいては、刑務官が作業以外の矯正処遇に積極的に関与しながら、可能な限り小グループによるワークを取り入れた指導を実施しているほか、それぞれの人的、設備的、環境的な特長をも生かしつつ、矯正処遇の全般において他者との対話を通じて自身の罪に向き合わせ、今後の社会生活について考えを深めさせるような働き掛けを展開している。
このように、これらの刑事施設においては、若年受刑者に対する処遇の充実が図られているところであるが、こうした試みに先立ち、平成17年5月、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律(平成17年法律50号)が成立したことに伴い、監獄法(明治41年法律第28号)が一部改正され、全ての刑事施設において、「受刑者の社会復帰に向けた処遇の充実」を掲げ、平成18年以降、作業のほか改善指導及び教科指導を新たに加えた矯正処遇の推進にも注力し、着実にその成果を重ねてきたところである。
そして、令和4年6月、刑法等の一部を改正する法律が成立し、新たに「拘禁刑」が創設されたことで、刑事施設における矯正処遇の在り方は、更に大きく変革を遂げようとしている。これまで作業が中心であった矯正処遇は、各受刑者の再犯防止を一層推進するべく、受刑者の自覚に訴えながら、これまで以上に受刑者の特性に応じた処遇を展開していくこととなる。4年度から開始された、対話をベースとしつつ、特性に応じた処遇を行うことを旨とするユニット型処遇の充実は、正にその礎ともなり得る取組であり、この先駆的な試みの成果が注目される。