我が国の刑事施設の被収容者の約4分の1は覚醒剤取締法違反等の薬物事犯者で占められているところ,以下の表のとおり,諸外国の刑事施設にも多くの薬物事犯者が収容されている。
UNODCは,令和元年(2019年)の世界薬物報告書(以下このコラムにおいて「報告書」という。)において,世界の刑務所に収容されている被収容者の薬物使用の状況について報告している。報告書によれば,平成29年(2017年)の被収容者数は約1,070万人と推定されるところ,複数の研究の結果,入所者のうち,入所前の過去1年間に薬物使用障害となったことがあるものの割合は,高所得国においては,男性が約30%,女性が約51%であり,中・低所得国においては,少なくとも30%であると推定される。被収容者の約3分の1は,収容中に薬物を使用し,約5分の1は過去1か月間に施設内で薬物を使用していると推定される。
被収容者のHIV感染症,C型肝炎等の感染症へのり患率は一般社会よりも高く,約3.8%がHIV感染症に,約15.1%がC型肝炎にり患していると推定される。刑務所内で注射器を用いて薬物使用をする被収容者では,り患率はより高くなっており,注射をしない被収容者に比べて,HIV感染症が約6.0倍,C型肝炎が約8.1倍となっている。
報告書は,HIVやC型肝炎ウイルスへの感染防止のための措置である無菌注射器を提供するプログラムやオピオイド代替プログラム(オピオイド使用障害者にメサドン等の代替薬物を処方して離脱症状を緩和するプログラムをいう。以下このコラムにおいて同じ。)の刑務所における提供状況について報告している。注射器提供プログラムは,11か国において少なくとも1施設で提供されている一方,83か国では提供されていない。オピオイド代替プログラムについては,56か国で少なくとも1施設で提供される一方,46か国では提供されていない。