報告書は,世界における薬物の生産及び不正取引の状況について,以下のとおり報告している。
あへんは,世界の約50か国において違法に生産されているが,平成27年(2015年)から令和元年(2019年)までの間,アフガニスタン,ミャンマー及びメキシコにおいてその約97%が生産されている。同年,世界中で違法に生産された約7,610トンのあへんのうち,その一部があへんとして消費されずにヘロインの製造に用いられ,約472~722トンのヘロインが製造されたと推定される。これらの国で生産されたヘロイン,モルヒネ等のオピエートのうち,アフガニスタンで生産されたものの多くはバルカン半島を経由して西欧・中欧等に,ミャンマーで生産されたものは東・東南アジア,オセアニア等に,メキシコで生産されたヘロインは米国等に密輸されている。オピエートの押収量は最近20年間増加傾向にあり,平成30年(2018年)には,あへん約704トン,モルヒネ約43トン,ヘロイン約96トンが押収されている。
コカインの原料となるコカの木は,平成30年(2018年)には,世界の約24万4,200ヘクタールの土地で栽培されており,平成29年(2017年)の推計では,栽培面積の約70%をコロンビアが,約20%をペルーが,約10%をボリビアが占めている。平成30年(2018年)の世界のコカインの製造量は約1,723トンと推定されており,これらの地域で生産されたコカインは,北米や西欧・中欧等に密輸されている。同年のコカインの押収量は約1,311トンであり,平成20年(2008年)に比べて約71%増加している。
アンフェタミン型精神刺激薬(アンフェタミン,メタンフェタミン,MDMA等の合成精神刺激薬をいう。以下この章において同じ。)については,平成26年(2014年)から平成30年(2018年)までの間,3万近くの密造工場が摘発・解体されたところ,その約95%がメタンフェタミン,約2%がアンフェタミン,約1%がMDMA等の製造に用いられていた。地域別では,南北アメリカが約84%(うち約99%が北米),ヨーロッパとアジアがそれぞれ約6%であった。アンフェタミン型精神刺激薬の押収量は近年急増し,平成30年(2018年)の押収量は平成21年(2009年)の押収量の約4倍となっており,その内訳は,メタンフェタミンが約228トン,アンフェタミンが約21トン,MDMA等が約12トンである。
大麻はほぼ全ての国において栽培されており,平成22年(2010年)から平成30年(2018年)までの間に151か国で栽培が報告されている。大麻の押収件数は近年増加しているものの,押収量は減少しており,平成30年(2018年)の押収量は平成20年(2008年)の押収量に比べて約23%減少し,大麻ハーブが約4,303トン,大麻樹脂が約1,307トンとなっている。押収量の減少の理由は明らかではないが,大麻使用者の増加を考慮すると,現実の流通量を反映していないおそれがある。