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令和2年版 犯罪白書 第7編/第3章/第8節/1

第8節 その他
1 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律

薬物の所持,使用等を直接規制するものではないが,薬物犯罪の捜査に関係する法律として,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(平成11年法律第137号。以下この項において「通信傍受法」という。)がある。同法は,組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることに鑑み,通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相の的確な解明に資するよう,平成11年8月に制定された(平成12年8月施行)。同法により,検察官又は司法警察員は,対象犯罪が行われたと疑うに足りる十分な理由がある場合であって,当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるときなどにおいて,犯罪の実行,準備又は証拠隠滅等の事後措置に関する謀議,指示等を内容とする通信が行われると疑うに足りる状況があり,かつ,他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときに,裁判官が発付する傍受令状に基づき,現に行われている他人間の通信について,その内容を知るため,当該通信の当事者のいずれの同意も得ないでこれを傍受することができることとされている。

犯罪捜査のための通信傍受の対象となる犯罪には,大麻取締法違反の罪(大麻の栽培,輸入,所持,譲渡し等),覚醒剤取締法違反の罪(覚醒剤の輸入,所持,譲渡し等),麻薬取締法違反の罪(麻薬の輸入,譲渡し,所持等),あへん法違反の罪(あへんの輸入,譲渡し,所持等),麻薬特例法違反の罪(業として行う不法輸入等)が含まれている。そのため,これらの薬物犯罪が組織的に実行されるなどの場合においては,通信傍受は,有用な捜査手法となり得る。

通信傍受法は,平成28年法律第54号による改正(第2編第1章1項(1)参照)により,通信事業者等の施設においてその職員の立会いの下,通信が行われるのと同時に傍受する従来の方法のほかに,通信事業者等が通信を暗号化し,一時的に保存をする方法により傍受する手続や,暗号化した通信を捜査機関の施設等に設置された同法で要件を定められた電子計算機に伝送させ,通信事業者等による立会いを要さず,受信するのと同時に復号し,又は一時的保存をする方法により傍受する手続が新たに導入されるなど,通信傍受手続の合理化・効率化がなされた(令和元年6月施行)。

覚醒剤取締法,大麻取締法及び麻薬特例法の各違反に係る通信傍受実施事件数及び傍受令状発付件数については,7-4-1-15図参照。