平成15年9月,内閣総理大臣が主宰し,全閣僚を構成員とする犯罪対策閣僚会議が開かれた。背景には8年から毎年戦後最多を記録してきた刑法犯認知件数が14年に280万件を超えるなど,平成期前半において犯罪情勢の悪化が大きな問題となったことがある。同会議では,治安回復のための三つの視点として,「国民が自らの安全を確保するための活動の支援」,「犯罪の生じにくい社会環境の整備」及び「水際対策を始めとした各種犯罪対策」が重要であることが確認された。
平成15年12月の犯罪対策閣僚会議では,これらの視点を前提としつつ,向こう5年間をめどに,国民の治安に対する不安感を解消し,犯罪の増勢に歯止めを掛け,治安の危機的状況を脱することを目標として,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画―「世界一安全な国,日本」の復活を目指して―」が策定された。同行動計画では,五つの重点課題として,「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」,「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」,「国境を越える脅威への対応」,「組織犯罪等からの経済,社会の防護」及び「治安回復のための基盤整備」が設定され,各重点課題につき,取り組むべき施策が具体的に示された。政府は国民と一体となって,これら施策を推し進めた。
「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」については,「地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現」,「犯罪防止に有効な製品,制度等の普及促進」及び「犯罪被害者の保護」を図るため,空き交番の解消や,自主防犯活動に取り組む地域住民,ボランティア団体の支援,犯罪の発生しにくい道路,公園,駐車場等の整備・管理,自動車盗難防止装置の普及等の取組が進められた。
その他,「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」については,「少年犯罪への厳正・的確な対応」,「少年の非行防止につながる健やかな育成への取組」及び「少年を非行から守るための関係機関の連携強化」の施策が,「国境を越える脅威への対応」については,「水際における監視,取締りの推進」,「不法入国・不法滞在対策等の推進」,「来日外国人犯罪捜査の強化」及び「外国関係機関との連携強化」の施策が,「組織犯罪等からの経済,社会の防護」については,「組織犯罪対策,暴力団対策の推進」,「薬物乱用,銃器犯罪のない社会の実現」,「組織的に敢行される各種事犯の対策の推進」及び「サイバー犯罪対策の推進」の施策がそれぞれ進められた。また,「治安回復のための基盤整備」については,地方警察官,検察官,税関職員,海上保安官,麻薬取締官等の増員,出入国管理に係る体制・施設・装備等の充実強化,刑務所等矯正施設の過剰収容の解消と矯正処遇の強化,更生保護制度の充実強化等の施策が進められた(第3編第1章第4節1項(2)コラム8及び同章第5節1項コラム9参照)。
このような中,刑法犯認知件数は平成15年以降減少に転じ,19年には200万件を割り込むなど犯罪情勢は一定程度改善したが,国民の体感治安は依然として改善せず,20年9月に発生した世界金融危機等で社会的な不安感も増大していた。そこで,同年12月,犯罪対策閣僚会議は,前記行動計画を引き継ぎ,向こう5年間をめどに,継続的かつより根本的な犯罪対策を講じ,犯罪を更に減少させ,国民の治安に対する不安感を解消し,真の治安再生を実現することを目標として,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」を策定した。同行動計画は,七つの重点課題のうち第二として,「犯罪者を生まない社会の構築」を設定し,その実現のための重要な柱の一つとして,「刑務所出所者等の再犯防止」を掲げるなど,その後の再犯防止対策につながる内容を含むものであった(第5編第1章参照)。