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令和元年版 犯罪白書 第3編/第1章/第5節/コラム9

コラム9 更生保護の基本法~犯罪者予防更生法から更生保護法へ~

1 更生保護法制定の経緯等

現在の更生保護制度が整備されたのは戦後のことであり,昭和24年に制定された犯罪者予防更生法と29年に制定された執行猶予者保護観察法により,更生保護の基本的な枠組みが形成された。犯罪者予防更生法は,仮釈放等の手続や保護観察処分少年,少年院仮退院者及び仮釈放者に対する保護観察等,更生保護全般について規定し,執行猶予者保護観察法は,保護観察付執行猶予者に対する保護観察について規定していた。執行猶予者に対する保護観察では,仮釈放者等に対する保護観察と異なり,転居・旅行が届出で足り,特別遵守事項(全ての保護観察対象者が守らなければならない法定の一般遵守事項に対し,個々の保護観察対象者ごとに決めるもの)を設定することもできないという,緩やかなつくりになっていた。

平成16年11月及び17年2月,性犯罪前科を有する者による女児誘拐殺人事件及び仮釈放中の者による重大再犯事件が発生し,同年5月には,保護観察付執行猶予者による女性監禁事件が発生した。このように,元保護観察対象者ないし保護観察対象者による重大再犯事件が相次いだことから,更生保護制度の実効性,とりわけ,再犯を防止する機能の現状に対し,国民の厳しい目が向けられ,更生保護制度全般を抜本的に検討・見直すことが急務となった。法務省は,同年7月20日,法務大臣の下に「更生保護のあり方を考える有識者会議」(以下本コラムにおいて「有識者会議」という。)を設置した。

有識者会議における検討が進められている中,平成18年3月,前記保護観察付執行猶予者による女性監禁事件を受け,議員立法により,執行猶予者保護観察法の一部を改正する法律(平成18年法律第15号)が成立し,執行猶予者に対する保護観察においても,転居・旅行には保護観察所長の許可を要することとされるとともに,特別遵守事項の設定も可能となった。同改正により,犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法が規定する保護観察制度の実質的な差異は,基本的に解消されることとなった(第1編第2章第4節1項(1)参照)。

平成18年6月,有識者会議は,「更生保護制度改革の提言-安全・安心の国づくり,地域づくりを目指して-」を取りまとめた。同提言を受け,法務省は,犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法を整理・統合して新たな一本の法律とすべく,立案作業を進めた。

そして,平成19年6月,更生保護法が成立し,同法の施行により,20年6月,犯罪者予防更生法及び執行猶予者保護観察法は,廃止された(第1編第2章第4節1項(2)参照)。

2 更生保護法の概要
(1)目的の明確化

1条は,更生保護法の目的について,「犯罪をした者及び非行のある少年に対し,社会内において適切な処遇を行うことにより,再び犯罪をすることを防ぎ,又はその非行をなくし,これらの者が善良な社会の一員として自立し,改善更生することを助ける」と規定し,犯罪者予防更生法では,単に「犯罪をした者の改善及び更生を助け」と規定されるにとどまっていたのを,再犯防止の面を明確化した。

(2)保護観察の充実強化-遵守事項の整理・充実等-

一般遵守事項については,保護観察を受ける者にとっての義務規範が明示され,内容が整理された。特別遵守事項については,違反すれば仮釈放の取消し等の不良措置が執られ得ることを踏まえ,必要性,具体性及び51条2項各号に掲げられた類型該当性が求められることとなった。また,いつでも設定・変更することができ,かつ,必要がなくなれば取り消さなければならないものとされた。

そのほか,専門的処遇プログラムは,更生保護法制定前から実務上行われていたところであるが,その重要性に鑑み,「特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇」として,それが指導監督の一方法であることが明示された。

(3)犯罪被害者等が関与する制度の導入

地方更生保護委員会における仮釈放及び少年院からの仮退院の審理において,申出のあった犯罪被害者等からその意見等を聴取することとする制度,及び保護観察中に申出のあった犯罪被害者等からその心情等を聴取して,保護観察対象者に伝達する制度が規定された。

(4)生活環境の調整の充実

刑事施設等に収容中の者のための生活環境の調整について,犯罪者予防更生法が,必要と認めるときに「できる」としていたのを,必要があると認めるときはこれを行わなければならない義務とされた。保護観察付執行猶予判決確定前の者のための生活環境の調整については,執行猶予者保護観察法が,「本人から申出があったとき」に初めて行うことができるとしていたのを,本人の「同意」を得て調整を行うことができるものとされた。

(5)保護観察官と保護司の役割

保護観察の実施者について,犯罪者予防更生法では,単に「保護観察官又は保護司をして行わせる」と規定するのみであったのを,この文言の前に,指導監督及び補導援護の担当者を定める61条1項で,「保護観察対象者の特性,とるべき措置の内容その他の事情を勘案し」という文言が置かれた。