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令和元年版 犯罪白書 第5編/第1章
第5編 平成における再犯・再非行
第1章 再犯防止対策の推移

我が国の刑法犯の認知件数が平成8年以降毎年戦後最多を更新するなど,犯罪情勢が悪化の一途をたどっていたことを踏まえ,15年9月,政府は,犯罪対策閣僚会議を開催した。同会議は,同年12月,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画-「世界一安全な国,日本」の復活を目指して-」を策定し,平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止等を重点課題として掲げ,政府が取り組むべき具体的施策を示した(第2編第1章第1節2項コラム3参照)。

その後,刑法犯の認知件数も毎年減少するなど,犯罪情勢には改善の兆しが見られたが,平成19年版犯罪白書の記載にあるとおり,全犯罪者の約30%にとどまる再犯者によって約60%もの犯罪が行われていることが明らかとなり,再犯防止対策の重要性が改めて認識された。

平成20年12月,犯罪対策閣僚会議は,犯罪を更に減少させ,国民の治安に対する不安感を解消するため,犯罪対策の新たな行動計画として,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」を策定したが,その中で,「犯罪者を生まない社会の構築」を重点課題として掲げ,刑務所出所者等の再犯防止に取り組むべきことを明らかにした。

平成22年12月には,犯罪対策閣僚会議の下に「再犯防止対策ワーキングチーム」が設置され,省庁横断的な検討の結果,23年7月,短期間に集中して取り組むべき施策として,「刑務所出所者等の再犯防止に向けた当面の取組」が取りまとめられ,関係省庁が連携して喫緊の課題に取り組むこととなった。

平成24年7月,犯罪対策閣僚会議は,より総合的かつ体系的な再犯防止対策を構築する必要があるとして,「再犯防止に向けた総合対策」(以下この章において「総合対策」という。)を策定し,関係諸機関の連携による一層効果的な再犯防止対策の推進を図ることとした。この総合対策には,特に重要と考えられる課題として,「<1>個々の対象者の特性に応じた取組の実施」,「<2>再犯要因分析に基づく施策の重点実施」,「<3>可能な限り具体的な目標設定及びその達成のための仕組みづくり」が,重点施策として,「<1>対象者の特性に応じた指導・支援の強化」,「<2>社会における『居場所』と『出番』の創出」,「<3>再犯の実態等の調査・分析,効果的な対策の検討・実施」,「<4>国民に理解され,支えられた社会復帰の実現」がそれぞれ掲げられ,向こう10年間で達成すべき数値目標も具体的に定められた。

平成25年5月,犯罪対策閣僚会議は,「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画の策定の基本方針について」において,世界最高水準の安全なサイバー空間の構築,犯罪やテロに強い社会の構築等を基本的な取組方針とし,再犯防止対策を重点取組分野の一つとするとの基本方針を示した。

平成25年12月,前記基本方針に基づき犯罪対策閣僚会議が取りまとめた「「世界一安全な日本」創造戦略」が閣議決定された。この創造戦略は,2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催を視野にしたものであるが,世界最高水準の安全なサイバー空間の構築等と並んで,「犯罪の繰り返しを食い止める再犯防止対策の推進」を戦略の一つとして掲げ,対象者の特性に応じた指導や支援の強化等の再犯防止対策を推進していくことを明らかにした。

平成26年12月,犯罪対策閣僚会議は,「宣言:犯罪に戻らない・戻さない~立ち直りをみんなで支える明るい社会へ~」を決定した。この宣言は,犯罪や非行をした者を社会から排除し,孤立させるのではなく,責任ある社会の一員として再び受け入れることが自然にできる社会環境を構築することが不可欠であるとして,刑務所出所者等の再犯防止の鍵となる「仕事」と「居場所」の確保に向けた具体策を示すとともに,2020年(令和2年)までに,「<1>犯罪や非行をした者の事情を理解した上で雇用している企業の数を現在の3倍にする」,「<2>帰るべき場所がないまま刑務所から社会に戻る者の数を3割以上減少させる」という二つの数値目標を設定した。

さらに,平成28年7月,犯罪対策閣僚会議は,立ち直りに様々な課題を抱える薬物依存者や犯罪をした高齢者・障害者等の多くが,必要な支援を受けられないまま再犯に及んでいる状況に鑑み,「薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防止緊急対策~立ち直りに向けた“息の長い”支援につなげるネットワーク構築~」を決定し,再犯防止対策の更なる推進を図ることとした。

平成28年12月7日,議員立法により,再犯防止推進法が成立し,同月14日に施行された(第1編第2章第6節4項参照)。同法は,再犯の防止等に関する施策に関し,基本理念を定め,国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに,再犯の防止等に関する施策の基本となる事項を定めることにより,再犯の防止等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって国民が犯罪による被害を受けることを防止し,安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与することを目的としている。そして,国については,再犯の防止等に関する施策を総合的に策定し実施する責務があり,地方公共団体については,国との適切な役割分担を踏まえて,その地方公共団体の地域の状況に応じた再犯の防止等に関する施策を策定し実施する責務があるとし,国及び地方公共団体は,相互に連携を図らなければならず,民間団体等との緊密な連携協力の確保にも努めなければならないとしている。再犯防止のための国の基本的施策については,犯罪をした者等の特性を踏まえた指導・支援,就労支援・就業機会の確保,住居の確保,保健医療・福祉サービスの提供といった施策に加え,関係機関における体制や再犯防止関係施設の整備といった再犯防止を推進するための人的・物的基盤の整備,施策の実施状況と効果の検証,効果的な処遇の在り方等に関する調査・研究の推進,社会内における適切な指導・支援,国民の理解の増進,民間団体等に対する援助等を規定し,その実施に関する方針等を定めている。

平成28年12月,再犯防止推進法の施行を受け,犯罪対策閣僚会議の下に,法務大臣を議長とし,関係省庁の局長等で構成される「再犯防止対策推進会議」が開催された。

平成29年2月から,法務省では,再犯防止推進法で定めることとされた再犯防止推進計画の案に掲げる事項等を検討するため,法務副大臣を議長とし,関係省庁の課長等と外部有識者で構成される「再犯防止推進計画等検討会」を開催した。

同検討会による検討及び「再犯防止推進計画の案」の取りまとめを経て,平成29年12月,再犯防止推進法に基づき,政府は,再犯の防止等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,30年度からの5年間に関係府省庁が取り組む「再犯防止推進計画」を閣議決定した。この再犯防止推進計画は,5つの基本方針の下,7つの重点課題について,115の具体的な再犯防止施策を盛り込んでいる。

〔5つの基本方針〕

<1> 「誰一人取り残さない」社会の実現に向け,国・地方公共団体・民間の緊密な連携協力を確保して再犯防止施策を総合的に推進

<2> 刑事司法手続のあらゆる段階で切れ目のない指導及び支援を実施

<3> 犯罪被害者等の存在を十分に認識し,犯罪をした者等に犯罪の責任や犯罪被害者の心情等を理解させ,社会復帰のために自ら努力させることの重要性を踏まえて実施

<4> 犯罪等の実態,効果検証・調査研究の成果等を踏まえ,社会情勢等に応じた効果的な施策を実施

<5> 再犯防止の取組を広報するなどにより,広く国民の関心と理解を醸成

〔7つの重点課題〕

<1> 就労・住居の確保等

<2> 保健医療・福祉サービスの利用の促進等

<3> 学校等と連携した修学支援の実施等

<4> 犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等

<5> 民間協力者の活動の促進等,広報・啓発活動の推進等

<6> 地方公共団体との連携強化等

<7> 関係機関の人的・物的体制の整備等

再犯防止推進法において,地方公共団体は,再犯防止推進計画を勘案し,地方再犯防止推進計画を定めるよう努めなければならないとされているところ,平成30年4月,鳥取県において,全国で初めてとなる地方再犯防止推進計画が策定された。その後も都府県等において策定され,多くの地方公共団体において策定に向けた具体的な取組が開始されている。また,30年度から,法務省においては,国・地方公共団体の協働による地域における効果的な再犯防止対策の在り方について検討するため,「地域再犯防止推進モデル事業」が開始されている。