福祉的支援を必要とする高齢犯罪者への対策については一定の成果が見られ,今後も更に継続・発展させていくことが重要であるが,他方,特別調査からは,福祉的支援の対象となるべき事情を有しない高齢犯罪者が,再犯を繰り返している実情も浮き彫りになった。これらの者には,犯罪につながる問題性の改善に向けた指導や支援が必要であるが,高齢者は非高齢者と比べ,微罪処分や起訴猶予,罰金等の処分を受けやすく,全部執行猶予の処分であっても保護観察に付されにくい傾向にあり,適切な指導や支援を受ける機会を逸している者が少なからず存在する。刑事司法関係者は,高齢犯罪者について,福祉的支援の必要性だけでなく,犯罪行為に対する抵抗感の希薄さ,問題飲酒,暴力を正当化する態度等,犯罪性の面についても重視し,的確に高齢犯罪者の問題性を把握・評価した上で,入口支援の取組状況も参考に,保護観察や矯正処遇等を受ける機会のない高齢犯罪者に対する対応の仕組みを検討していく必要があろう。
次に,高齢の受刑者・保護観察対象者には,認知機能や就労・日常生活の能力の低下等の高齢者特有の困難が見られない者も多く存在する。高齢の仮釈放者のうち有職者は無職者と比べて保護観察を良好な状態で終了することが多く,就労支援を受けた高齢者の半数以上は就労に至っている。また,高齢犯罪者の支援・指導に携わる実務者からは,高齢出所者の多くが孤独感や社会の役に立ちたいという願いを抱きつつも,自ら社会の中で仲間を作ることは不得手で,何らかの形で地域とつながることが必要だと指摘する声がある(コラム3及び8)。これらを踏まえると,例えば,就労を通じた自己実現や余暇活動等での地域の人々とのつながりによる孤独の解消等,犯罪性の改善を目指す指導に限らない多様な支援により再犯防止を図っていくことも重要である。こうした働き掛けの実現のためには,福祉的支援の要否等を見極めるアセスメントの過程において,事案に応じ,出所後の就労支援等の可能性についても併せて検討することが望ましい。その際は,コラム14で紹介した,高齢であることをその犯罪者個人の特性の一つとして捉え,その問題性等に応じた個別の支援を行うイタリアの取組等も参考になる。
以上のようなアセスメントを行う上では,地域の福祉の専門家とのネットワークの構築のみならず,現場で日々高齢犯罪者と接する刑事司法機関の職員が,犯罪性に対する指導や福祉的支援以外の支援の必要性をより的確に見極められるよう,専門性を有する職員の雇用を拡充しつつ,研修を一層充実していくことが必要である。