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平成30年版 犯罪白書 第7編/第5章/第3節/コラム14

コラム14 イタリアにおける高齢犯罪者と拘禁に代わる措置

1 イタリアにおける高齢者の犯罪

イタリアは,2017年の総人口に占める高齢者の割合が23.0%と,主要国では日本(27.7%)に次いで高いが,2016年に警察から司法当局に送致された人員89万4,537人のうち高齢者は4万4,138人で,高齢者の占める割合は4.9%に過ぎない。イタリアの刑事施設における2017年の年末収容人員(裁判確定前の勾留中の者等を含む。)は5万7,608人,そのうち60歳以上の者は4,476人(7.8%),70歳以上の者は776人(1.3%)である。同国の60歳以上の者,70歳以上の者の占める割合は,2008年のそれぞれ3.8%,0.7%から上昇しており,近年,刑事施設の収容人員の高齢化が進行しているが,日本では2017年末の受刑者の刑事施設収容人員4万6,702人のうち60歳以上の者は8,982人(19.2%),70歳以上の者は3,252人(7.0%)であり,裁判確定前の勾留中の者等を含むか否かが異なるため単純に比較できないことに留意する必要があるものの,イタリアの刑事施設収容人員に占める高齢者の割合は,依然として日本と比べて顕著に低い。

2 高齢犯罪者の処遇〜拘禁に代わる措置(misure alternative alla detenzione)

イタリアの刑事施設収容人員に占める高齢者の割合が低い要因の一つとして,イタリア行刑法第1章第6節「拘禁に代わる措置及び義務の免除」が規定する,拘禁に代わる措置の実施が挙げられる。拘禁に代わる措置の主なものに,在宅拘禁と保護観察がある。2017年6月30日現在,在宅拘禁が実施されている者は1万7,882人,拘禁に代わる措置としての保護観察に付されている者は2万596人であった。そのうち61歳以上の者は,それぞれ2,911人(16.3%),2,350人(11.4%)であった。

在宅拘禁は,一定の条件を満たす者を対象に,自宅若しくは民間の住居,又は公共の治療,支援及び受入施設で刑期を過ごすことができる制度で,対象となる受刑者の類型の中に「高齢者」及び「障害のある高齢者」がある。「高齢者」は,習慣的,職業的又は性癖による犯罪者ではなく,刑の執行開始時又は執行中に70歳以上である者(組織犯罪,テロ及び破壊活動,個人の人格に関する罪,性犯罪をした者等は除外される。)であり,「障害のある高齢者」は,4年を超えない有期拘禁刑又は有期拘禁刑の残刑期が4年以下の者等であって,全身又は一部に障害を持つ60歳以上の者であることなど一定の事由に該当する者である。

在宅拘禁の措置は,矯正処分監督裁判所が決定し,社会内刑執行事務所の監督下で行われる。矯正処分監督裁判所とは,刑事裁判所が言い渡した自由刑の具体的な執行方法を検討するため,刑事裁判所とは別に設けられた裁判所で,拘禁代替措置を検討する。社会内刑執行事務所は,司法省の地方機関で,矯正処分監督裁判所が拘禁代替措置を検討する際,社会調査を実施し,その結果報告書を同裁判所に提出する。

在宅拘禁を命じられた者は,自宅若しくは民間の住居,又は公共の治療,支援及び受入施設から離れることを禁じられ,外出等にかかる行動制限は,同じく社会内刑執行事務所が監督する保護観察よりも厳しい。在宅拘禁は,対象者の態度が,法律や規定に反し,措置の遂行と相容れないと判断されるときはいつでも取り消すことができ,在宅拘禁の場所から離脱した者は,逃走罪により罰せられる。

保護観察は,確定した刑期が3年を超えない者又は残刑期が3年以下の者が対象となる。被収容者を,残刑期と同じ期間,社会において社会内刑執行事務所の監督下に置くものである。社会内刑執行事務所は,保護観察の対象者の監督及び支援を行い,その状況を矯正処分監督裁判官に定期的に報告する。

なお,イタリアでは,高齢であることを犯罪者の一つの特性として捉えた上,拘禁に代わる措置を活用するなどして,就労支援,家族支援,福祉的支援,住居の確保などといった一人一人の問題性に応じた個別のプログラムを策定し,そのプログラムに基づいて社会内刑執行事務所等が更生支援を実施している。